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地域サービスの拠点を目指すコンビニの取り組み

noteではリアル店舗の役割に関する記事を何度か書いてきましたが、今回は「月刊コンビニ」副編集長・梅澤聡さんに、コンビニの取り組みをレポートしていただきました。

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コンビニが実現する「サービス」の在り方が深化しています。

具体的には、サービスを商品として捉えるだけではなく、地域生活の拠点として考えていこうとしているのです。

セブン-イレブンは、2011年から、それまでのキャッチフレーズ「開いててよかった」を改め、「近くて便利」にしました。当時の社長、井阪隆一氏は、「近くて」は、距離の近さだけではなく、心の近さを意味すると話しています。

コンビニの店舗数は近年まで増え続け、同じ商圏内にはドラッグストアも進出しています。そうした中でコンビニは、物販だけではなく、地域サービスの拠点として、存在価値を高めていこうと模索しています。

従来、コンビニのサービスは手数料収入を目的に形成されてきました。三大サービスとして長く利用されてきたのは、コピー、宅配便、DPE(写真の現像等サービス)です。ほかにも各種収納代行サービスは多く利用され、ATMは店員の管理外ですが、コンビニに必要な機能として認知されています。

ただし、こうしたコンビニ店頭のサービスは、煩雑さの割に現行の手数料収入が適正ではないと、一部の加盟店からは不満の声もあります。

実際に2019年6月~20年2月に実施された経産省主催の有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」でも、コンビニサービスへの対価が問題視され、銀行や行政はコンビニ加盟店の業務に「フリーライド」(ただ乗り)しているといった厳しい指摘も有識者からありました。

このような課題があるにせよ、コンビニが導入したサービスは、加盟店の利益に多かれ少なかれ、手数料収入や集客に寄与してきました。

コンビニのサービス拡大の転機となったのが、「セーフティステーション」への取り組みです。コンビニ大手7チェーンが加盟する日本フランチャイズチェーン協会(以下、JFA)に対して、2000年7月、警察庁から「まちの安全・安心拠点となってほしい」という要請があり、03年からは行政や地域と連携して「地域社会への安全・安心に貢献するお店づくり」への取り組みがスタートしています。

当時、コンビニは全国に4万店以上あり、そのほとんどが24時間営業です。店舗は住宅地に数多く立地し、配送トラックが深夜に行き来しています。物騒な事件もあちこちで頻発していました。業界としては積極的に協力せざるを得ない状況にあったのです。

JFAは、いくつかの取り組み強化を宣言しますが、その中で物議をかもしたのが「女性・子どもなどの駆け込みへの対応」でした。「女性や子どもがストーカー行為や誘拐・暴行など身の危険に遭遇し店に駆け込まれた際は、店内で保護し、必要に応じて警察などに連絡します」(JFAのHPより)とあります。

1990年代に日本に紹介された「ストーカー」の概念は、2000年代には誰もが知るようになり、実際に被害報告がメディアを通じて頻繁に報道されました。危険にさらされている女性や子どもを守るのは市民の義務と筆者は考えますが、それを業務の一環として、深夜のコンビニ店員に負わせてよいものか、議論が分かれました。
セーフティステーション活動は、地域の安全・安心にコンビニが拠点となりコミットする姿勢を表したものです。

もう一つ大きなテーマとして「自然災害への対応」があります。1995年の阪神・淡路大震災の直後に現場を回ったダイエーの中内㓛社長は、ダイエーの店舗とローソンに対して「とにかく店を開けろ、明かりをつけろ」と現場に檄を飛ばしました。災害時には店の明かりが被災者を勇気づけるとする強い思いがあったからでしょう。

大規模な自然災害時に店を開け続け、商品を供給する体制は、大手コンビニの必要不可欠な取り組みとして認識されました。

おにぎりやパンは、店舗に供給するだけでなく、地域の災害対策センターを通じて、必要な避難場所にコンビニの物流網を駆使して供出できるシステムを整えています。

近年の事例を一つ挙げます。セブン-イレブンは、約2万1,000店舗強を展開して、165カ所の専用工場から160カ所の共配センターへ、そこから約6,000台のトラックを加盟店に走らせています。

このサプライチェーンを、自然災害時にも極力機能させる情報システム「セブンVIEW」を開発しています。これは「Googleマップ」上に、店舗の営業状況、停電情報、配送トラックや工場の稼働状況といったサプライチェーン全体の情報、さらに災害情報、交通情報、気象情報、避難情報などを一元的に集約できるようにしたもので、2015年から機能させています。

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このシステム自体は完成度が高いものの、実際に店舗を預かる加盟店オーナーの状況が反映されていない欠点がありました。18年2月に福井県で起きた記録的な大雪により、従業員が出勤できず、オーナーは人員不足を理由に、本部に休業要請を出しました。

しかし、(コンビニは人々のライフラインという理由で)休業が認められず、オーナーは2日以上の連続勤務を余儀なくされたとメディアで報じられています。

そこで、20年に新しく「オーナーコミュニケーションアプリ」を搭載。緊急時に、チェーン本部がサプライチェーン全体を統制するだけではなく、そこに加盟店の「意思」を反映できるようにしています。

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オーナーや店長は、専用アプリから店舗の営業状況を選択して、休業の場合は、その理由を選択項目からチェックできます。災害休業時間もオーナーや店長が何日の何時までと指定。安否確認(けがの有無)、商品の被害、納品受入不可の指定へとチェックは続いていきます。店舗の被災状況とオーナーの意思を「オーナーコミュニケーションアプリ」を用いて、リアルタイムに、サプライチェーン全体で情報共有を図ることにしています。

自然災害時に、加盟店オーナーの命と健康にしっかりと配慮しながら、店舗を可能な限り機能させて、地域サービスに努める体制を整えているのです。

冒頭でサービスの在り方が深化していると記しました。ファミリーマートは、人に寄り添う地域活性化のサービス拠点として、CSR活動を推進しています。

その具体的な事例として「ファミマこども食堂」があります。店舗のイートインスペースに、地域の子どもや親御さんを集め、体験学習や食事会を実施しています。19年は年間で約370カ所、4,000名以上の参加者のもとで展開しています。現在はコロナ禍の影響で思うように実施できませんが、収束に向かえば再開していくでしょう。

また、シニアの方たちの社会課題の解決支援をテーマにした「ファミマサークル」にも取り組んでいます。地域の警察署から担当官を招いて、オレオレ詐欺被害に遭わない講習会や、体力低下を予防する食生活の提案など、身近なテーマを参加者と共有しています。

こうした地域サービスの活動から今、積極的に進めているのが「ファミマフードドライブ」です。店舗に食品の回収ボックスを設置して、近隣の住人に、まだ食べられるけれども余ってしまっている食品を持参してもらいます。そこに定期的に、地域のNPO団体が集めに来て、食品を地域のこども食堂や、食支援の必要な人たちに配るといった活動を推進しています。

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もともとは愛知県の加盟店の一つが地域のNPOと始めたことがきっかけでした。これを21年4月から全国のファミマに水平展開しています(22年2月、約960店舗)。協力パートナーも約140団体に広がっています。この取り組みは食支援のみならず、食品廃棄の削減にも貢献し、SDGsの観点からも必要性が高まっています。

食品廃棄の元凶のように言われ続けたコンビニも、地域サービスの拠点として、環境にも配慮しているのです。

コンビニによる地域サービスの拠点づくりには、長い時間を要しそうですが、地域に寄り添う最小商圏の業態に、期待したいところです。

(文:「月刊コンビニ」副編集長 梅澤聡)

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このような地域生活の拠点を目指すコンビニの取り組みは、新たなリアル店舗の役割の一つになりそうですね。また、情報システムやアプリの導入、Googleマップの活用など、ITを用いながら施策を展開している点も印象的でした。コンビニの地域サービス拡充やSDGs推進といった観点でも、テック系スタートアップの技術やアイデアが貢献できるかもしれません。

東芝テックCVCの公式 noteでは、今後も様々な視点から、小売・流通に関するトレンドをお伝えしていければと思っています。