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冷凍食品は買い置きではなく いま食べたいから選ぶ時代に

忙しい時でも簡単においしく食べられるため、常備品として欠かせない冷凍食品ですが、近年は本格フレンチやスイーツなども楽しめる冷凍食品専門店が登場する等、商品バラエティの豊富さには目が離せない状況になってきています。
今回は、そんな冷凍食品専門店をオープンさせた新しい取り組みについて「販売革新」編集委員の梅澤聡さんにレポート頂きました。

“日常づかい”に加えて“特別な日”を演出

冷凍食品が従来の弁当のおかずに代表される、いわゆるストック型の消費から、今後はおいしいディナーやスイーツなど、お客様のお好みの商品をセレクトして購入する購買行動にシフトしていくと考え、商品提案を強化していきたい」(イオンリテール 取締役専務執行役員商品担当 浜口好博氏)

イオンリテールは、2023年8月10日「イオンスタイルレイクタウン」(埼玉県)内に、日本最大級の品目数を誇る冷凍食品専門店「@FROZEN」(以下、「@フローズン」)をオープンしました。22年8月30日に「イオンスタイル新浦安MONA」(千葉県)内への1号店、23年7月29日、「イオンスタイル横浜瀬谷」(神奈川県)内への2号店に続く3号店目です。

「イオンスタイルレイクタウン @フローズン」
所在地:埼玉県越谷市レイクタウン3-1-11階
売場面積/113坪 営業時間/7時~23時

取り扱い品目は「@フローズン」が1,200、同じ「イオンスタイルレイクタウン」にある直営食品売場の冷凍食品800品目を含むと、過去最多の2,000品目以上としています。品目数に関しては、他のチェーンを見ても、日本最大級であることに間違いはないでしょう。
同社によると、冷凍食品のメリットである簡便・時短という価値に加えて“食の豊かさとおいしさ”をより多くのお客へ提案するため、冷凍食品専門店事業を本格的に拡大するとしています。
冒頭、イオンリテールの浜口氏は「ストック」から「セレクト」へと、冷凍食品の位置付けを変えたとしています。食品小売業にとっては大きな転換点になるでしょう。

少子高齢化と人口減少が続く日本において、胃袋が次第に小さくなり、食ビジネスが先細っていく中で、冷凍食品の市場は拡大を続けています。
これまで冷凍食品は自宅の冷凍庫に投げ込んでおくだけで、いつでも食べられる簡便性と調理の時短により重宝されてきました。いわゆるストック型の消費です。しかし、これからの冷凍食品は買い置きだけでなく、今おいしく食べたいから選ばれるような商品をそろえていく必要があるというのです。
この「@フローズン」は、「朝食」「ランチ」「ディナー」「おつまみ」「スイーツ」の5つの食シーンに着目し、“日常づかい”に加えて、記念日やパーティーなど“特別な日”を演出する有名店の味や世界のメニューを展開しています。共働き世帯やシニア層、単身者やミレニアル・Z世代など、幅広い客層を取り込んでいくとしています。

新鮮な生原酒を液体凍結手法により瞬間冷凍させて鮮度をキープしている。
酒蔵で飲む絞りたての日本酒を提供する

冷凍食品は行き場を失ったカテゴリーだった

こうした冷凍食品への期待はコンビニでも強くなっています。イオンリテールの関係者に聞いても、近年のコンビニが冷凍食品市場の活性化に貢献していると話しています。そこで、次に冷凍食品の歴史をコンビニの店頭を軸に振り返ってみましょう。
コンビニに今ほど弁当が揃っていなかった時代(1980年代)、筆者は冷凍のアルミ鍋に入った鍋焼きうどんを、好んで食べていました。6畳一間の真ん中に電熱器を置いて、アルミ鍋をのせて待つだけ。すきま風が冷たい冬のアパート暮らしには、とても有難い商品でした。
ちなみに、この冷凍の鍋焼きうどんは、今でもコンビニ各社で販売されています。プライベートブランドのロゴを付けて、具材の一部を他と替えただけで、製造元は全て昔と同じメーカーです。コンビニの店頭ではロングセラー商品といえるでしょう。

ところが、コンビニの冷凍食品は80年代から2000年代と進む中で脇に追いやられます。この時代のコンビニは「即食(飲)」「即使用」「緊急時」に役に立つ業態を鮮明にしていました。鍋焼きうどんは、当時冷蔵庫を持たない筆者にとっては「即食」でしたが、商品の位置付けはストック型です。
コンビニはその頃、おにぎり、米飯弁当(共に約20℃の米飯温度帯で管理)、チルド温度帯(5℃前後)の調理麺や調理パン、惣菜類の改良を重ねることで、味や品質を高めていきました。コンビニ弁当を支持する20~30代の独身男性にとって、冷凍食品は利用機会が少ないカテゴリーでした。

コンビニの業態特性として、冷凍食品は行き場を失ったカテゴリーでした。それでも細々と生き永らえました。当時のチェーン本部で現場を指導していた方は、次のような存在理由を教えてくれました。

有職主婦の方が夜、子どもに食事を作った後、冷蔵庫の中をのぞくと、明日、子どもに持たせる弁当のおかずがないことに気が付きます。遠くのスーパーまで行く気力もなく、近くのコンビニに置いてある冷凍食品が頼りになるのです。即食利用ではありませんが、緊急需要を満たす、コンビニらしい商品です。弁当のおかずなので、コロッケや春巻き、鶏の唐揚げくらいで十分に満たされます

2000年代に入り、出店を加速するコンビニ業界において、店舗間の競合が徐々に厳しくなります。若者や中年男性に支持されてきたものの、あらためて高齢者の来店が少ないことに気が付きます。高齢者が買いたい商品が少ないのです。

2008年はセブン-イレブンの冷食元年

そんなとき、当時コンビニ店舗の退店物件に好んで入居した、均一価格をうたう「SHOP99」が破竹の勢いで出店攻勢をかけます。1996年4月に1号店を立ち上げ、07年1月のピーク時で852店舗にまで達します(その後はローソンに吸収合併)。
99円(生鮮品は除く、税別)ストアは、価格の安さだけでなく、高齢者にも便利な、小分けした青果物や、その他、生鮮・日配食品、冷凍食品、小容量の加工食品などを扱っていました。大手コンビニチェーンでは、普段は見られない高齢者の賑わいが朝からありました。

そんなSHOP99に影響を受けたのかは定かではありませんが、セブン-イレブンは2008年に焼き餃子、五目炒飯、エビピラフといった1人用の冷凍食品を100円(税別、以下同)で販売を始めます。焼き餃子は5個入りの分量と100円という価格設定が単身者に丁度よく、高齢者にも訴求でき、大ヒットとなりました。後にセブン-イレブンは2008年を、冷凍食品の焼き餃子の大ヒットにちなんで「冷食元年」と呼んでいます。

そのセブン-イレブンの冷食元年(2008年)の平均販売額の指数を100とした場合、販売体制を強化した2012年が213、冷食用の平型冷ケースを導入した2013年が273、商品の拡充を続けた結果、2018年上期には536と、販売額を10年で5倍に伸ばしています。2023年現在、その数字はさらに伸長していると推測されます。
セブン-イレブンは、子どもの弁当のおかずに使用する冷凍食品ではなく、通常の来店客が積極的に手を伸ばす商品開発を目指したのです。

そのまま食べておいしい冷凍デザート

セブン-イレブンで販売している「おかづまみ」シリーズ。
酒のつまみにも、食事のおかずにも適した内容。男性客比率の高いコンビニで訴求する

セブン-イレブンは、2020年9月からは酒の売場を拡充する新レイアウトにより、コロナ禍の「おうち時間」に対応しました。酒に関連する冷凍食品を筆頭に、各カテゴリーで対応を進めてきました。酒のつまみにもなる「おかづまみ」シリーズ、家庭の食卓に上がる「きょうのおかず」シリーズなど、冷凍ケースの平台を拡張して品揃えを充実させてきました。
2022年3月には、「セブンプレミアムゴールド 金の蟹トマトクリーム」398円(当時)に新しい開発技術を反映させました。パスタ麺の上に、蟹の身、トマトソース、クリームソースを別々に盛り付けた状態で冷凍させて、お客が食べる直前に電子レンジで加熱することにより、それらが混じり合い商品として完成に至るという複雑なプロセスにより、おいしさを高めたのです。
このパスタは、食品スーパーで販売しているNB商品の1.5倍から2倍の価格です。セブン-イレブンは食品スーパーへの差別化として、「蟹」という価値の分かりやすい食材を用いてワンランクアップを図ったのです。

ローソンも冷凍食品の拡充に取り組んでいます。特に注力しているのが冷凍デザートです。「簡便即食」をキーワードに「マカロン」417円(税別、以下同)、「チーズタルト」408円、「カカオ香るガトーショコラ」387円、「焦がしバター香るカヌレ」408円、「生チョコトリュフ クリーム入り」387円などを現在は品揃えしています。
マカロンは、油脂分の多いクリームの使用により、冷凍庫から出して、すぐ食べられる仕様にするなど工夫を加えて、冷凍ならではのおいしさを追求しています。

ローソンの冷凍デザート。
手を加えなくても、冷凍庫から出して、すぐに食べられる点を訴求

ローソンは「鮮馬刺し赤身スライス」 738円、「真鯛お刺身」「カンパチお刺身」(各461円)を2022年1月、エリアを限定して実験的に発売。馬刺しや刺し身は、氷の結晶が大きくならない液体急速凍結機によるアルコール凍結技術を用いているので、ドリップが全く出ない鮮度感を実現できました。

こうしたコンビニの取り組みは、少なからず冷凍食品市場のすそ野を広げています。特にスーパーマーケットで買物をする機会の少ない男性客や若い女性にとって、コンビニの主に個食用の、味を追求した冷凍食品は利用価値の高いものになりました。

冷食フルコースを前にワインに悩む

冒頭の「@フローズン」に戻ります。「レイクタウン」の売場が特に注力したのが、新商品の「ご褒美フルコース」シリーズです。「@フローズン」の1号店では、外食有名店の味、高付加価値商品の人気が高く、セレクト型商品が好調であったことから、「レイクタウン」はこれを進化させています。
新浦安MONAでは、購入した商品を自宅で簡単に解凍、調理して、皿に盛り付けるだけで、非日常の食卓を演出できるという簡便さ、おいしさを、多くのお客様に認識いただけたと考えています。そこで取引先に協力していただき開発したのが、“ご褒美フルコースシリーズ”です」(浜口氏)

「イオンスタイルレイクタウン @フローズン」で投入した「ご褒美フルコース」シリーズの一品。
高単価商品であるため、パッケージに中身をしっかりと説明して、不明点の解消に努めている

「レイクタウン」では、本格的なレストランの味を、家庭で気軽に楽しめる、味わえるコースの商品として、前菜からスープ、パスタ、メイン料理からデザートまでの全24種類を用意しました。商品パッケージにナンバリングを施し、そのナンバーの組み合わせによりディナーメニューを設定する、お客が好みで選ぶ楽しさを提供しています。

売場に掲出された「ご褒美フルコース」の組み合わせ例

例えば写真のように、前菜は「パテ・ド・カンパーニュ」698円(税別、以下同)、スープは「コーンポタージュ」698円、パスタ料理は「パンチェッタ カルボナーラ」1,280円、メイン料理は「厚切り牛タンのごろごろシチュー 赤ワインソース」1,980円、デザートは「サバラン」698円にしたとします。計5,354円。これに別途、パンとワインを用意して、シェアして食べるサイズです。

商品にナンバリングして、組み合わせを「選ぶ楽しさ」を提供している

品質、価格が、この水準になると、困ったときの買い置きではなく、今晩のちょっとした贅沢のために購入する冷凍食品にランクが上がります。
「旅する@フローズン」シリーズもレイクタウンで初導入しています。地方の名店の商品を集めて、気軽に旅気分を楽しんでもらう「ご当地」シリーズです。商品は全国に展開しているイオンの力を活用して、各地域のバイヤーが厳選した商品を、地域ごとに分類して展開しています。

「旅する@フローズン」シリーズは、北海道、東北、関東、北陸信越、東海、近畿、中四国、九州・沖縄の8エリアのバイヤーによる商品を、地域ごとに分かりやすく展開

冷凍食品は急激な進化を遂げました。冷食コーナーを通りかかり、「おっ!? 今日はパスタが安いから、とりあえず買っておくか」と買物カゴに数個、投げ込む購買行動だけではなく、“ご褒美フルコース”の前に立って「さて、牛タンシチューに、どんなワインを合わせるか」と思案する買い方に、私たちも変わっていくかもしれません。

※商品の金額は2023年9月のものです。

(取材・文:「販売革新」編集委員 梅澤聡)

冷凍食品の最新動向について、コンビニ冷食の変遷も交えながらレポートしていただきました。コンビニではストック、もしくは緊急需要を満たす位置付けだったものが、高齢者の小容量ニーズ、コロナ禍で増加した“家飲み”ニーズ、味のクオリティを求める個食ニーズなどに対応した商品を展開し、幅広い層に冷凍食品の魅力を伝えてきたことがうかがえます。そして、イオンリテールの冷凍食品専門店も様々な食シーン、ターゲット層に合わせてラインナップを充実させ、高付加価値商品の売れ行きも好調とのことです。こうした取り組みの背景には、各ニーズを捉えた商品企画の秀逸さはもちろんのこと、鮮度をキープする凍結技術や、電子レンジ調理のおいしさを追求した生産・加工技術が貢献している点も見逃せません。企画力×技術力による進化が今後どのように展開していくのか、引き続き注目したいと思います。