会員制スーパーコストコのビジネス戦略から見えてくる「特異なKPI」とは?
物価高が続く中、食料品や日用品を安く提供してくれるディスカウントスーパーは消費者の強い味方です。その一つが、日本でも知名度の高い米国発の会員制スーパー「コストコ」。多種多様な商品を大容量・低価格で購入できることから、家族連れはもちろん、友人グループで利用するなど、様々な買い物ニーズに応えています。
コストコの決算情報をもとに、同社が“お買い得”を提供できる理由を決算が読めるようになるノートさんに解説していただきました。
今回は、日本でも事業展開していてご存じの方も多いであろう、コストコの決算を分析していきます。
コストコを一言で表すなら「メンバーシップ型の倉庫型スーパー」です。年会費を払うことで店舗への入場が可能となり、そこでは巨大な敷地を活かして食料品や日用品を中心に幅広い商品が低価格で提供されています。
小売業の多くの企業が新型コロナウイルスの影響によって大きな打撃を受ける中、コストコの業績はコロナ禍及びアフターコロナでも右肩上がりの成長を続けています。
今回は、そんなコストコの特徴について、同じく米国発の小売大手で競合である「ウォルマート」や「ターゲット」を比較対象として、各社の決算をもとに整理していきます。
■会員制スーパーのコストコ
コストコは1976年に米国で設立された小売企業です。会員制の大型量販店チェーンとして、米国を中心に、カナダやメキシコ、英国等、世界15カ国で876の店舗(2024年3月時点)を展開しています。
日本でも、2023年8月時点で実は33店舗も展開しています。テレビや雑誌等のマスメディアだけでなく、YouTuberが取り上げることも多いため、聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
コストコの特徴と言えば、以下の2点が挙げられます。
大容量の食料品や日用品、電化製品等の多種多様な商品が安価に購入できる
購入するためには有料会員になる必要がある
こちらもご存じの方が多いことでしょう。
■米国発のグローバル小売大手
冒頭でも紹介した通り、コストコの競合企業と言えば、ウォルマートやターゲットでしょう。これらは、いずれも大衆向けの低価格帯スーパーでグローバルに事業展開しています。
その他には、クローガーも同カテゴリーの企業ですが、今回はウォルマートとターゲットに対象を絞って比較していきます。それぞれ、簡単に概要を見ていきましょう。
まず、ウォルマートは、「世界最大の小売企業」として知られる小売チェーンです。野菜や日用品、電化製品等の多種多様な商品が販売されています。1962年に米国で創業されており、このような大型で安価なスーパーの先駆者と言えるでしょう。
FY2024の終了時点で世界19カ国で10,500もの店舗を運営しています。店舗数だけでみれば、コストコの10倍以上の規模感です。
一方、ターゲットは、1902年創業とウォルマートよりも創業は古いですが、初めてスーパーマーケット形態の店舗を開始したのは1962年と、ウォルマート創業年と同じタイミングです。元々会社名も異なりましたが、2000年に今の会社名(Target Corporation)となっています。
ターゲットでは、ウォルマートと同様に大型の店舗で大容量・低価格の商品を展開するほか、都市部への小型店舗にも乗り出しています。自社のプライベートブランド商品やパートナー企業の商品を重視しており、2024年5月時点で1,963店舗を展開しています。
次章からは、コストコと業界大手のウォルマートとターゲットの3社について、様々な視点で比較することで、コストコの特徴を整理していきます。
■売上と売上成長率の比較
まず、3社の四半期売上と売上の前年同期比成長率を比較すると、売上の規模はウォルマートが$173Bで最も大きく、次にコストコが$58B、ターゲットが$32Bという順番となっています。
ウォルマートはコストコの約3倍という圧倒的な規模を誇っています。ただ、店舗数では10倍以上の差があったことから、店舗あたりの売上では、コストコがリードしていることがわかります。
売上成長率はコストコとウォルマートが+5%強で相対的に高く、ターゲットはYoY+1.67%とかなり苦戦しています。コストコについても、2年前までは二桁パーセントの成長が続いていたことから、直近ではやや苦戦しているとも言えるでしょう。
■売上総利益率の比較
次に、売上総利益率を比較すると、コストコが10.59%でターゲットやウォルマートの売上総利益率の半分以下と、かなり低い水準となっています。
一般的に、売上原価に商品の仕入原価が含まれることを踏まえると、コストコは商品の仕入原価に近い価格で商品を提供しているとも言えます。低価格帯の大衆向けスーパーである3社の中でも、これだけ差が出ているのはコストコの特徴の1つと言えるでしょう。
この10%の中から、営業利益を確保できるのでしょうか?
■営業利益率の比較
3社の営業利益率を比較すると、コストコは3.53%、ターゲットは5.84%、ウォルマートは4.18%と、3社の差は売上総利益率ほど開いていないことが分かります。
基本的に、同様のビジネスモデルの場合、売上総利益率と営業利益率は正比例することが多いですが、3社の中で売上総利益率が圧倒的に低いコストコは、営業利益率においてウォルマートとほぼ同水準を実現できています。
その理由の1つは「コストコの収益基盤」にあります。前述の通り、コストコの四半期売上は$58Bで、そのうちメンバーシップによるサブスクリプション売上は$1,111Mで、全体の約2%程度です。
小売事業と比較して、サブスクリプション売上にかかるコストはかなり低いと想定できることから、サブスクリプション売上のほぼ全額が営業利益に貢献すると仮定すると、サブスクリプション売上は、コストコの四半期営業利益$2,062Mのうち、約50%を占める計算となります。言い換えると、このサブスクリプション売上がない場合、コストコの営業利益率は1%台になると想定されます。
つまり、メンバーシップによる売上という、売上の規模は小さいものの利益率の高い収益基盤があることによって、コストコの営業利益率は競合と同水準に並ぶことができているというわけです。
ちなみに、ターゲットはデジタルチャネルの売上が全体の21.3%を占めるなど、デジタルを活用した業務効率化に成功しており、これがウォルマート対比での高い営業利益率の一因となっています。
■売上に対する販売費・一般管理費の割合の比較
次に、3社の販売費・一般管理費(以降、販管費と記載)と売上対比(=販管費÷売上)を比較すると、コストコの販管費は$5,240で最も小さく、売上対比は8.97%とウォルマートやターゲットの半分以下に抑えられています。
一般的に、小売企業は、大規模な広告展開で集客を行っています。一方、コストコは既に強固な会員基盤を抱えていることに加えて、顧客への圧倒的なコストメリットによって、大きな広告宣伝を行わずに顧客獲得が実現できているわけです。
上記はコストコの共同創業者 Jim Sinegal の発言です。広告宣伝を行えば商品の価格を上げなければならない、口コミは最も効果的な広告の1つである、と明言しています。
このように、コストコは、売上に対する販管費率を抑制した効率的な顧客獲得戦略を進めることで、競合と比較して売上総利益率は低くても営業利益率は業界水準を実現しています。
私たち顧客にとっては、他の小売店舗よりもマージンが少ない分、原価に近い価格でお得な買い物ができる場所とも言えるでしょう。
■PSR、PERの比較
最後に、3社のPER(Price Earnings Ratio:株価収益率)とPSR(Price Sales Ratio:株価売上高倍率)を比較すると、コストコが双方の指標において、株式市場から高く評価されていることが分かります。
前述した通り、コストコは売上成長率が高く、メンバーシップによる安定的な収益基盤等の特徴が、他の小売企業と比較して高く評価されていると予想できます。
■まとめ -独自の戦略で競合に負けないポジショニングを確立-
本記事では、低価格帯の大衆向けのコストコ、ターゲット、ウォルマートの3社の売上や売上総利益率、営業利益率、販管費といった財務指標に加えて、株式市場からの評価を図るPERやPSRを比較しました。
コストコの四半期売上は$58Bで、ウォルマートの約1/3の規模感
コストコの売上総利益率は競合他社の半分以下であるものの、営業利益率はほぼ同水準
その理由の1つは、売上規模は小さいものの利益率の高い「メンバーシップ収益」があるため
また、強固な会員基盤と圧倒的なコストメリット、口コミ等により、広告宣伝を抑えながら消費者を獲得することで、他社の半分以下の売上対販管費率を実現
これらの特徴的なポイントが株式市場から評価されていると想定される
これまで見てきたように、コストコは小売業界の競合企業と比較して、かなり特徴的な戦略を推進していることが伺えます。
コストコの売上成長率がどのように推移するのか、メンバーシップによる収益の成長等、今後の動向に引き続き注目していきたいと思います。
(文:「決算が読めるようになるノート」)
コストコが原価に近い価格で商品を提供しながら成長し続けられる理由について、競合他社の決算情報との比較も交えて解説していただきました。メンバーシップによるサブスクリプション売上が高い営業利益率に大きく貢献しているようですが、メンバーシップへの新規入会や更新を維持・増加させるためには、消費者にとって会員になりたいと思えるメリットを提供し続けなければなりません。
店舗サービスや商品ラインナップ、イベントなどを充実させることはもちろん、ブランドイメージの向上やマーケティング戦略も重要になりそうです。それを広告宣伝に頼らずに展開しているところも興味深いポイントです。コストコの顧客体験の作り方や戦略からはもっと学べることがたくさんありそうですね。