廃棄ロス問題を解決するダイナミックプライシングの可能性
小売の利益向上に貢献する「ダイナミックプライシング」
商品・サービスの価格を需要と供給に応じて変動する「ダイナミックプライシング」が注目されています。
古くから航空業界やホテル業界では大型連休などの繁忙期に価格を上げ、逆に閑散期は価格を下げるダイナミックプライシングを取り入れたり、昼と深夜帯で変わる高速料金もダイナミックプライシングの一種です。
このようにダイナミックプライシング自体は目新しい仕組みではないのですが、近年、データやテクノロジーを活用することで、より柔軟で高精度なダイナミックプライシングが実現できるようになり、その可能性は大きく広がりつつあるのです。
ダイナミックプライシングは価格戦略であり、利益を出すために価格を変動させるのが前提の考え方になります。例えば、消費者の需要が高いときは商品・サービスを適正な価格で供給する、逆に需要が低いときは価格を調整することで商品の売れ残りや余剰在庫を削減するといった形です。つまり、ダイナミックプライシングを導入することで、企業は「収益の増加」や「廃棄/ロス削減」が見込めるのです。
例えばスーパーマーケットであれば、営業利益率が決して高くない中で廃棄ロスを減らすだけでも利益率に寄与しますし、価格変動とプロモーションをうまく連動させることで今まで来店したことがなかった新規顧客との接点が生まれたり、金額を調整した商品以外も購入してくれる「ついで買い」などの効果も見込めます。
AI活用によるプライシング自動化がトレンド
こうした背景から、近年は小売・飲食業などのビジネス支援を目指して、ダイナミックプライシング領域の新しいソリューションを創出するスタートアップも増えています。そこで、参考になりそうな海外のスタートアップ企業をいくつか取り上げてみたいと思います。
Competera
2014年創業のCompeteraは、アメリカを拠点とするダイナミックプライシングのスタートアップ企業。過去の価格変動や売上データ、競合データ、サードパーティデータなどをもとに、機械学習とクラウド計算による価格最適化アルゴリズムを活用。価格変動に対する需要予測や、棚全体または製品カテゴリごとの最適な価格設定などを自動化します。同社のケーススタディによると、食料品配達サービスの価格設定の自動化や、スポーツ用品ブランドWiggleの50万を超えるSKUに対する価格最適化、家電量販店Foxtrotにおける需要ベースの価格設定による収益増加を実現しているようです。
Sparkbox
2018年に設立されたイギリスのSparkboxは、小売業界向けの価格最適化を実現するソリューションを開発・運用しています。同社は特にファッション業界に強みを持ち、トレンドや季節性などをAI分析によって把握。取引の機会とリスクを早期にレポートし、ダイナミックプライシングの提案とリアルタイムなレポートを提供します。クラウドアプリを活用するためIT統合などの手間がかからず、わずか数週間でトライアルをスタートできる手軽さもポイントです。創業者のMatt Wong氏とLindsay Fisher氏がForbesのUnder 30 Europe 2020に選出されるなど、若きイノベーターとして今後の発展が期待されています。
Intelligence Node
インドやアメリカを拠点に活動しているのが、2012年創業のIntelligence Nodeです。同社は小売における価格設定、在庫最適化、マーケティング、ブランド保護などを総合的に支援するサービスを提供。その中でAIを活用した価格設定ソフトウェアを使用し、10秒ごとに競合他社を含む市場データなどをベースにしたダイナミックプライシングを実現。ほぼリアルタイムで競合の価格を監視し、最適な価格を反映することができます。同社のソリューションはUnileverやadidas、LVMHなどのグローバルブランドを含む世界各国の企業が利用し、2019年にはシリーズBで550万ドルを調達したようです。
利益だけでなく、社会課題解決にも貢献!
また、ダイナミックプライシングは社会課題解決の観点からも大きな注目を集めています。食料品や日用品、衣料品などの価格を需要に合わせて変動すれば、より多くの人たちにモノが行き届き、無駄な廃棄(ロス)を減らすことができます。また、高速道路や公共交通機関などの価格を最適化することで交通渋滞の緩和や交通機関の運営効率向上などが見込め、SDGsでも掲げられている「持続可能な都市」をシームレスな交通により実現します。他にも、例えば電力に導入すればピーク時に電気料金を高くすることで電力消費を抑える(ピークカット効果)ことが期待できるでしょう。
その中でも注目したいのは、まだ食べられる食料を捨ててしまう「フードロス」の問題です。農林水産省が公表している資料によると、世界では食料生産量の3分の1に当たる約13億トンの食料が毎年廃棄され、日本でも1年間に約612万トン(2017年度推定値)の食料廃棄があり、これは日本人1人当たり茶碗1杯分のごはんが毎日捨てられている計算になります。
フードロスは飢餓や飽食、環境汚染などに関わる世界的な重要課題で、SDGsでも「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる」という目標が明記されています。
この目標からも分かるとおり、フードロスは小売などの事業レベルで発生しているケースも多く、生産過程やサプライチェーン全体での対策が必要とされているのです。
ダイナミックプライシング領域のハルモニアと事業開発スタート!
以前noteでもお伝えしましたが、東芝テックはダイナミックプライシング領域のスタートアップ企業ハルモニアと協業し、小売や飲食店のDXを支援する新規事業開発に取り組んでいます。
先日もハルモニア主催のWebセッションにて当社の執行役員 新規事業戦略部長 平等弘二がゲスト出演し、ハルモニアCEOの松村大貴氏と、協業を通して両社で考えていること、取り組み始めていることを語り合いました。
このセッションの中でも、国内外のフードロス問題が話題に挙がり、その課題解決に挑戦している海外スタートアップ企業が紹介されていました。
松村氏は、フードロス削減にフォーカスした海外スタートアップ企業の中で注目しているものとして、FlashfoodとWastelessをピックアップ。前者はフードロス削減を目的とした商品販売アプリケーションを提供する会社。スーパーやパン屋などで消費期限が近づいた食品を店舗スタッフが撮影し、アプリ上で価格を入力して投稿すると、消費者は購入したい商品をアプリ上で決済でき、店舗に受け取りに行くという仕組みです。この「店舗に受け取りに行く」という点がポイントで、新規顧客の来店や「ついで買い」といった効果を生んでいるようです。
後者のWastelessは、無駄を減らし、収益を最適化することを目的としたインテリジェントな食料品価格設定ソフトウェアを開発する企業。店内の棚に設置されたプライスカードが消費期限ごとに自動で変わるというソリューションを提供し、期限別の在庫管理を実現しています。さらに、それが自動的に棚の価格に反映され、さらにPOSとつながっている点もポイントです。
こうした世の中の動向も踏まえた上で、今回の協業で注力していきたいことについて二人からコメントがありました。
平等は「期限管理は国内の小売店でも重要課題の一つですよね。まずはスーパーの惣菜コーナーやケーキ屋さん、テイクアウトのお寿司屋さんなど、すでにフードロスの課題を抱えていらっしゃるところからダイナミックプライシングに挑戦したいです。また、飲食店にもフードロスの課題があるので、リアルタイムの空席情報やオーダー情報を活用しながら価格設定やプロモーションにつなげていけると考えています」と展望を述べました。
松村氏も「以前は、スーパーの惣菜などであれば段階的な値下げでダイナミックプライシングを活用することがほとんどでしたが、近年はフードロス削減などサステナビリティの文脈でブランドイメージを向上させる目的でダイナミックプライシングを導入する企業も出てきていると思います。ロスを減らすことは日々の粗利を上げることにもつながりますし、価値のあるものが正しい価格で販売されることが一番いいこと。社会課題と企業の経営課題、その双方を同時に解決することにチャレンジしていきたいです」と抱負を語りました。
★詳しいWebセッションレポートはこちら↓
東芝テックとハルモニアはこれから、ダイナミックプライシングを含むプライステックの社会実装を推進してまいります。今後も両社の取り組みについて定期的に情報発信していきますので、引き続きご注目いただけると嬉しいです。