Uber/DoorDash/出前館比較!アフターコロナでフードデリバリーサービスはどうなったか?
忙しい時や疲れた時、外出できない時などに重宝されているフードデリバリーサービス。大きなバッグを背負って配達するドライバーの姿も、すっかり日常の風景に溶け込んだ印象があります。最近はできたての料理だけではなく、食料品や日用品も配達してくれるなど、消費者のニーズに合わせて進化し続けているようです。
今回はフードデリバリーサービス3社の決算資料から決算が読めるようになるノートさんに解説していただきました。
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が蔓延していた時に外出を控え " フードデリバリーサービスの利用が増えた" という方もいると思います。中には、その後もフードデリバリーサービスを利用する習慣が一定続いているという方も多いかもしれません。
今回の記事では、そのようなフードデリバリーサービスについて、グローバル大手であるUber、米国大手DoorDash、日本国内の大手出前館の3社の決算を比較しながら分析していきます。
フードデリバリーサービスは、今も成長を続けているのでしょうか?その場合、どのようなニーズに応えているのでしょうか?
■各サービスの簡単な説明
まずは、簡単に各サービスの紹介をしていきます。
Uber(Uber Eats)
Uberは、主に配車サービスとフードデリバリーサービスを提供する米国の会社です。日本でも、両サービスを提供しています。もともとは配車サービスから展開が始まっていますが、最近では「ウーバー」というと、Uber Eats(フードデリバリーサービス)の方を意味するくらいにフードデリバリーが広がっています。
DoorDash
こちらは、日本に住んでいるとあまり馴染みがないかもしれませんが、実は米国ではUberのDelivery部門を凌ぐ規模感になっている巨大デリバリーサービスプラットフォームです。日本では、DoorDashが買収したWoltのブランドで、都市部を中心に展開しています。
出前館
2000年にサービス提供が開始されている、日本のデリバリープラットフォーム。こちらも、Uber Eatsと同様に、日本在住の多くの方がご存じでしょう。テレビCMでもおなじみです。
■新型コロナ前後の売上推移
それでは、各サービスの売上推移を見ていきましょう。
世界的に新型コロナの発症事例が急増し始めたのは、2020年の2〜3月頃です。そのため、その約1年前からの推移を見てみると、以下のようになります。
売上規模だけを見ると、次のことがぼんやりと分かるかと思います。
Uber及びDoorDashと出前館とでは規模が異なっている
全体的に、Uberに対してDoorDashが徐々に追いついてきている
■新型コロナ前後の売上推移を指数で見ると?
続いて、2019年1-3月の売上を100とした際の売上指数の推移を見てみましょう。
これによって、各サービスの売上規模の違いに関わらず、純粋な成長度合いを比較しやすくなります。
このように、DoorDashの成長が著しいことが一目瞭然な結果となりました。
2024年1-3月時点の指数は、それぞれ以下の通りです。
DoorDash: 1,889
Uber: 600
出前館: 797
2019年1-3月からの5年間で、DoorDashは18倍にも成長したことになります。これは恐るべき数字ではないでしょうか。
DoorDashが他を圧倒しているため印象が薄いかもしれませんが、Uberや出前館についても、5年間で約6倍、約8倍にそれぞれ成長しているのは、ネット系企業の中でも、高い成長率と言えるでしょう。
■売上成長率で見てみると?
次に、売上成長率の推移も見てみましょう。
異なる指標を見ることで、また、別のインサイトが得られます。
薄い青の背景をつけている箇所は、新型コロナの感染拡大が始まってから10四半期(2.5年)の期間です。
これを見ると、実はDoorDashは、新型コロナの感染拡大が始まる以前から、年間成長率が+200%を超える異常なまでの成長率を叩き出しており、勢いそのままに、新型コロナ禍の期間中にもシェアを伸ばしていったことが分かります。
さらに、注目すべきは、2023年に入り、Uberや出前館の成長率が落ち込む中、DoorDashは一定の売上成長率を維持しています。
最新2024年1-3月の決算では、次のように、かなり顕著に差が出ています。
DoorDash: +23%
Uber: +4%
出前館: +2%
このDoorDashが成長を継続できている理由については、後半で詳しく見てみましょう。
上記の図において、日本の出前館は、他2サービスに比べて、売上成長率の盛り上がりがやや遅れてきているという特徴もあります。これは、もともと四半期に10億円程度だった広告宣伝費を50億円程度まで拡大したタイミングと一致します。
Uber Eatsの日本の売上推移はデータがないので見られませんが、Uber Eatsが先に伸びる中で、出前館が広告宣伝費を大量に投下して、一気に売上を盛り返した、というストーリーが見えてきます。
■DoorDashの成長継続理由 #1 M&Aによる国際展開の垂直立ち上げ
ここからは、DoorDash が継続的に成長できている理由について、見ていきましょう。
大きくは2点あります。1点目は、M&Aによる国際展開の垂直立ち上げです。
DoorDashの米国内外の売上および売上成長率は、以下のようになっています。
米国内: $2.222M(YoY+20.37%)
米国外: $291M(YoY+53.97%)
DoorDashは2年ほど前までは、米国内のみで運営していましたが、2022年1月より米国外の売上も発生し始めています。
米国外の勢力拡大においては、フィンランド発のデリバリーサービスであるWoltを買収して、Woltのネットワークを活用して立ち上げを行っています。
Woltは日本でも見かけたことのある人もいらっしゃると思いますが、フィンランド発ということで、欧州圏でも影響力を持っています。DoorDashは、このWoltの力を最大限に利用することで、短期間でのサービス拡大を狙っているわけです。
ちなみに、Uber全体の売上のうち、北米(米国及びカナダ)の占める割合は、54%です。これにはモビリティも含まれているため、Delivery部門のみの数字は分かりません。ただ、DoorDashはわずか13%であるため、まだまだ伸びしろがあると言えるでしょう。
■DoorDashの成長継続理由 #2 グローサリーという新たなニーズの収益化
DoorDashはこれまで、都市部に強いUberに対して、ローカルな地域でも確実にシェアを伸ばしてきました。
新型コロナ禍のピークが過ぎ去ってフードデリバリーの需要が落ち着く中でも、2020年に日用品カテゴリーの配送事業を開始し、フードデリバリーと並行して展開することでうまく利用者のニーズを掴むことに成功しています。
2023年9月には、様々な地方のグローサリーブランド(食料品などを取り扱うブランド)との連携を強化して、これまで以上に人々の生活に根付いた店舗からの配送を担う存在になっています。
また、直近では、アルコール飲料店や美容小売大手との提携も発表し、「日用品×ローカル」の強みをさらに高め、TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)の拡大を図っています。
DoorDashの狙いは、フードデリバリーに閉じない、あらゆる日用品のデリバリープラットフォームとなっていくことにあるとも言えるでしょう。
■グローサリー市場はUberも猛追
一方、DoorDashだけでなく、Uberについても、同様にグローサリー市場の拡大を画策しています。Uberは、2020年7月よりグローサリー配送を開始していますが、特に、その動きは2024年に入り、強化されています。
具体的には、2024年5月7日には、グローサリー配送最大手のInstacartとパートナーシップを発表しました。
これは、Instacartのアプリから、Uber Eatsのフードデリバリーができるようにするものです。直接的にUberのグローサリー売上を向上させるのではなく、フードデリバリーとグローサリーデリバリーの双方で巨大化するDoorDashに対して、InstacartとUberがタッグを組むことで対抗しているという座組です。
また、2024年5月15日には、小売大手のコストコとのパートナーシップも発表しました。メンバーシップ制のコストコからのデリバリーを、コストコメンバー以外のユーザーでも可能にするものです。これは、日本でもすでに有効化されています。
さらに、日本国内では、イオン系列の大手スーパーマーケットの「まいばすけっと」とのパートナーシップも2024年6月26日に発表されています。
DoorDashが勢力を伸ばすグローサリー市場をUberも奪いにきていることが如実に分かります。今後、出前館も同領域に進出してくることがあるかもしれません。
■まとめ
今回の記事では、DoorDash、Uber、出前館の決算数字を時系列で確認した上で、特に目を瞠る成果を残しているDoorDashに関して、その成長要因を深堀りして、解説してきました。
サマリーをまとめると、以下のようになります。
DoorDashは、2019年1-3月からの成長度合い、直近1年間の成長率の双方において、他サービスを凌ぐ数字を残している。特に2019年1-3月から5年間で18倍以上の売上成長となっており、インターネット企業の中でも、特筆すべきレベルである。
その主な成長要因の1つは、Wolt買収を含む、グローバル展開にある。米国外の売上は、立ち上げから2年で全体売上の10%を超え、垂直立ち上げに成功している。また、Uberの数字を見ると、まだ成長余地は多く残されている。
成長要因の2つ目は、「日用品×ローカル」の強化。米国内のローカルエリアに展開する、各小売店と提携し、フードデリバリーに閉じない、あらゆる日用品のデリバリープラットフォームになってきている。
今後も、各デリバリーサービスの売上推移や、DoorDashの米国外売上比率、ローカルエリア拡張戦略の進捗については、様々な動きがありそうなので、注目していきたいと思います。
(文:「決算が読めるようになるノート」)
DooreDash、Uber、出前館の決算情報を比較しながら、特に成長が著しいDoorDashの取り組みを中心に解説いただきました。日本でもサービス展開しているWoltのネットワークを活用したグローバル展開、地域のグローサリーブランドやアルコール飲料店との連携によるローカル展開など、“他社との共創”という手段を用いてサービス拡大に取り組んでいるところが印象的です。Uberも他社との連携を強化する動きがあるようですが、Instacartやコストコなど比較的大きな企業と協業しているため、2社の成長にどのような違いが生まれるのかも興味深いところです。
また、国内サービスの出前館も売上規模では他2社に劣るものの、2019年から4年間で約8倍もの成長を遂げていることを考えると、フードデリバリーサービスが日本に浸透し、今もなお消費者のニーズに応え続けていることがうかがえます。今後、3社のシェアがどのように推移していくのか、そしてさらに生活を豊かにする便利なサービスが登場するのか、引き続きウォッチしていきたいと思います。