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Instagramフォロワー1万人突破!広島県人気No.1スーパー⁽*⁾「ノムラストアー」の強さの秘密とは?
日常生活で利用することが多いスーパーマーケット。
“品揃えがとにかく豊富” “オリジナル商品の品質が高い” “生鮮食品の鮮度が高い” など、お店によって強みや注力しているポイントは異なるかと思います。
各企業が様々な取り組みを行なう中、高付加価値型の店舗づくりに舵を切り、商品ラインナップの強化や独自の商品開発だけではなく、SNSも積極的に活用することで競合との差異化に成功している広島県「ノムラストアー」について、「食品商業」編集長 三浦慶太さんにレポートいただきました。
⁽*⁾ ねとらぼ調査隊「広島県で人気のスーパーマーケット」ランキングTOP10(2024年6月版)より。
同調査でノムラストアーは頻繁に1位を獲得している。
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主力商品のボリューム展開でお客様が殺到
ノムラストアーは1972年に創業し、1983年に法人化。1997年に本社を兼ねる可部店、2002年に馬木店、2005年に熊野店を順次オープンし、現在に至ります。経営理念は「どこにも負けない新鮮な生鮮食料品をどこにも負けないお客様への心遣いを添えて、うまい物をドンドン安く売ることを目指す企業」。信条は「店はお客様のためにあり社会と共に栄える」。高品質な商品をリーズナブルな価格で提供し、お客様の健康的な食生活に貢献することをモットーとする地域密着型のスーパーマーケット(SM)です。
さっそく可部店の売場を紹介していきましょう。取材当日も、開店前に駐車場はほぼ満車になり、約70名の行列ができていました。売場面積は約250坪と一般的なSMに比べると小型ですが、店内には空間を埋め尽くすようにたくさんのポスターやPOPが溢れています。ただ賑やかなだけでなく、仕入れや調理法へのこだわりなど、商品の価値が伝わる情報をインパクトたっぷりに伝えています。
売場に目をやると、青果コーナーではバナナ、みかん、白菜、さつまいもなど、主力の品目を単品量販しています。藤井章弘店長によると、その月によく売れる品目をAランク商品(上位10アイテム)として設定し、週ごとに徳用、袋入り、バラ売りなど、規格に変化をつけて売り込んでいるそうです。売れ筋商品の単品量販によって売上を稼ぐ戦略です。
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鮮魚コーナーでは、毎日市場へ行って直接買い付けた鮮度の良い丸魚を売り込みます。同時に、生ネタ、国産米、手作りの寿司酢にこだわった「鮮魚握り寿司」をコーナー展開。本マグロ、カンパチ、ヒラメなどの高級魚をふんだんに盛り込んだコストパフォーマンス抜群の商品が並びます。
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さらに精肉コーナーに行くと、崩れそうなほど商品が積み上げられた冷蔵ケースに衝撃を受けます。この日は恒例イベントの「ポーク&チキンフェスティバル」を開催。豚肉と鶏肉が圧倒的なボリュームで売場に積まれ、精肉部門だけで1日200〜250万円を売り上げるそうです。牛肉が主役になる「ミートフェスティバル」の日はさらに伸び、1日400〜500万円の売上があるそうです。
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スイーツ部門を「TTPS」によって劇的に進化させる
新鮮で品質の良い生鮮食品を、お値打ち価格で売り込むというのがノムラストアーの強みですが、ノムラストアーの人気の理由はそれだけではありません。ここ数年で、スイーツと惣菜のカテゴリーを強化して、新たな集客の核に育てました。藤井店長は次のように話します。
「20年ぐらい前までは安売りの店だったんです。とにかく安くて、薄利多売で売上を作っていくスタイルでした。SMの現場では、毎日が同じルーティンになりがちです。でも未来を見てそこから変化していかないといけないし、待遇面でも他の業界と比べて改善していかないといけない。
そういうことを考えて、セミナーに参加して学びを得たり、全国各地にいろんな仲間ができたりしていく中で、劇的に商売のやり方が変わっていきました」
こうした考えから、藤井店長はそれまでの安売りから高付加価値型の店づくりに舵を切り、その具体策としてスイーツと惣菜を強化していきました。スイーツと惣菜を強化するにあたり、藤井店長が採用した手法は「TTP」でした。「TTP」とはカジュアルな場面で使われるビジネス用語で、「徹底的にパクる」のローマ字の頭文字を取ったものです。さらに最近になって、「TTP」に「S」を付けた「TTPS」という言葉が登場しました。「S」は「進化」です。徹底的にパクって進化させる。ノムラストアーのスイーツ、惣菜は文字通りこの「TTPS」を実践しています。
まずスイーツは、他企業に行って教えてもらったり、全国の有名店の商品を買い集めたりして研究し、商品開発を行いました。最初はパフェから始めて、杏仁豆腐、プリン、タルト、フルーツサンドなどに広げています。
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ここまでは、他企業が成功している商品を徹底的に真似した「TTP」だといえます。藤井店長はそれだけでは不十分だと考えて、進化の「S」を実行します。
「広島にも話題のスイーツを提供する飲食店やフランチャイズの専門店が出店してくるようになりました。そうすると次第に売上は落ちていきます。そこで私たちが行なっているのがイベントによる差別化です」
例えば「苺フェア」では、いちごのフルーツサンド、いちごのパフェ、いちごのプリンなどのスイーツを360cmの大型の冷蔵ケースで展開します。その裏側で、素材のままのいちごも販売します。さらに店先に販売ブースを構えて、藤井店長がいちごのかぶり物をして、いちご飴やいちごのスムージーを売るという徹底ぶりです。藤井店長は「苺フェア」のねらいについて次のように話します。
「今までフルーツサンドだけで売上が作れていたのが作れなくなってきたので、イベント化することで総合的にお客様を楽しませて、売上をクリアしていく作戦に変えました。店先のブースも、ただの売店で終わらせずに、『ストロベリーパラダイス』という看板を掲げ、ロゴを作ってブランディングしています。お客様からすれば、ノムラストアーがやっているのではなくて、どこかの専門店が出店してきたと思われます。
ここまでやることで、いちご飴が1日800本、スムージーが200杯売れるという、イノベーション的なことが起こるのです」
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おにぎりも「TTPS」で競合が模倣できない境地へ
惣菜部門の「ほぼ具おむすび」も、「TTPS」によって開発した人気商品です。もともと交流のあった愛知県のローカルスーパーY社に社員を派遣して、作り方を教えてもらったそうです。驚いたのは、おむすびのバリエーションの豊富さです。週替わりで和風、アジアン、魚、肉、中華の5つのテーマを設定し、それぞれ15種類のおにぎりを品揃えしています。
人気の上位3種類は毎週レギュラー商品として品揃えして、それ以外に12種類を週替わりで品揃えしています。合計63種類にもなり、すべて店内手作りです。
「毎週、商品が変わる仕掛けにしているので、今週食べたから満足ということで終わらせずに、リピートしてもらえる作戦をとっています。競合店はおむすびの製造は真似できても、この作戦までは真似できません。手間がかかって大変ですから。
最近は平日に30〜40個ぐらい売りながら、おむすびをメインで仕掛ける日曜日には300〜400個ぐらい売っています」
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週替わりで和風・アジアン・魚・肉・中華の5つのテーマ、各15種類を品揃え
この「ほぼ具おむすび」に加えて、他にも年配者をターゲットにした5種類の塩むすび、肉巻きおにぎり、山賊焼き弁当など、「ほぼ具おむすび」以外の新商品も開発しています。おにぎりのカテゴリーでも、「TTPS」を実践して競合店が真似できないところまで進化させています。
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スイーツ、おにぎりに加えて、藤井店長はさらに他のカテゴリーの強化も進めています。揚げ物では「ほぼ具かき揚げ」全10種類を開発し、販売を開始しました。若者をターゲットに、たこ焼きかき揚げ、ししゃものかき揚げなど、従来の概念を覆す新しい発想のかき揚げです。
このように、ノムラストアーでは「TTPS」によって既存の商品カテゴリーを進化させ続けているのです。
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Googleマップ、Instagramの積極活用
ノムラストアーのもう一つの大きな強みが、SNSの活用です。SNSの中でも、藤井店長が特に力を入れて運用しているのがGoogleマップとInstagramです。可部店のGoogleマップには630件のクチコミ(評価4.0)、と、2,486枚の写真がアップされています(2024年6月10日時点)。
少し調べてみると分かりますが、Googleマップの写真の数が2,000枚を超えているSMは極めて稀です。Instagramは昨年9月にフォロワーが1万人を突破。こちらもSMでフォロワーが1万人を超えている企業は滅多にないと思います。
GoogleマップとInstagramの運用のポイントについて、藤井店長は次のように話してくれました。
「コロナ禍が始まる前ぐらいから、戦略的にGoogleマップやInstagramなどのSNSのマーケティングを進めてきました。Googleマップについては、SMのお店ではお客様からのお褒めやお叱り、商品の要望などをアンケート用紙に書いて箱に入れてもらって回収していますが、あれをGoogleマップを使ってデジタル化したという考え方なんです。
同時に5段階で星の評価もしてもらい、ホームページやSNSともリンクさせることで、Google上でのエンゲージメントを上げていく戦略です。その結果、ネット検索で常に上位表示されるようになっていきます。そのためのSEO、MEOの対策を全て行なっています。
Instagramの方は、3店舗それぞれのアカウントがあり、社員10人ぐらいで共有して運用しています。Instagramという媒体は“リアル”や“今”を伝えるものなので、現場のスタッフがリアルタイムの情報をストーリーとして投稿しています。夕方から夜にかけてはリールを投稿したり、“いいね周り”をしたりしています」
一般的に、SNSで企業アカウントのフォロワーを伸ばすことは難しいと言われています。企業アカウントの投稿は無個性で無味乾燥なものになりがちで、かつ企業の宣伝くさくなってしまうからです。可部店のアカウントはその問題をクリアして、多くのファンを獲得しています。
「フォロワー数が伸びた要因は、DMやコメントをもらったら必ず返信していることです。Googleマップのクチコミも同じです。一方通行ではなく、人間味のあるアカウントにすることを心掛けています。そうすることでGoogle上でエンゲージメントが溜まって、自分たちの投稿やアクションがより外部に露出しやすくなるのです。
それから、インスタライブをやってスタッフの見える化をしていることも大きいです。どういう人が働いているのか、どういう人が売っているのか。それこそローカルだからこそできる強みで、大手企業には真似できない部分だと思います。インスタライブでは地域の飲食店さんやメーカーさんとコラボしてプレゼント企画を実施していますが、毎回500〜700人の方が視聴してくださり、50個ぐらいのプレゼントに対して応募のDMを300通ほどいただきます」
以上見てきたように、従来からの生鮮食品の強みに加え、スイーツや惣菜などの既存カテゴリーのブラッシュアップ、さらにSNSを効果的に活用することで、地元で圧倒的な人気を誇るノムラストアー。しかし、最後に忘れてはいけないのは、こうした藤井店長の店づくりの戦略を具現化するスタッフの存在です。
可部店のスイーツや惣菜を見るかぎり、相当高度なオペレーションを行っているように思えます。スイーツについては熊野店で製造したものを可部店に配送しているので、可部店では品出しだけで済んでいるそうですが、おむすびや寿司などの惣菜は毎朝米を炊くところから店内で調理しています。
こうした店舗運営を限られた人数で実現するために、可部店では「マルチジョブ化」を進めています。一人のスタッフが、曜日や時間帯によってレジや複数の部門を担当し、店内の装飾やSNSの運用などは皆で協力して行っているそうです。藤井店長は、「可部店の強みはスタッフ」だと言い切ります。
「以前はよく『肉が強いんでしょ』と言われました。精肉でお店を引っ張ってきた部分は確かにありますが、でもやっぱり総合力で勝っていかないと本当の意味で競合店には勝てません。そのためには皆の力を借りて『全員経営』をする必要があります。だから、一緒に商品開発もするし、一緒に売場も作るし、皆で楽しむときはしっかり楽しむようにしています。
今のうちの強みはスタッフなんです。スタッフが素晴らしいから、広島で人気ナンバーワンのSMとして選んでもらえたり、SNSで支持してもらえたりしているんです」
一見すると、派手な店内装飾と、SNS映えする商品が目を引くノムラストアー。しかし、その土台になっているのは、スタッフ同士がお互いに助け合うチームワークの良い組織風土です。藤井店長が、店づくりと並行してこうした「人づくり」を行なってきたことも、見過ごしてはいけないノムラストアーの強さの理由です。
※商品の金額は2023年11月のものです。
(取材・文:「食品商業」編集長 三浦慶太)
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地域で根強い人気を誇るノムラストアー、その強さの秘密を詳しく紹介していただきました。新鮮で品質の良い商品をお買い得価格で販売することはもちろん、ポスターやPOPで埋め尽くされた賑やかな店内、魅力的なイベント、バリエーション豊富なオリジナル商品など、何度もお店に行きたくなるような工夫が随所に散りばめられていることが分かります。そのような売場のワクワク感やライブ感をSNSで発信することで、来店動機を促進することにもつながりますし、お店に行けない時でもファンとの継続的なコミュニケーションやブランディングに貢献しているのではないでしょうか。
また、お店の強みを商品や売場、SNSではなく“スタッフ”と断言しているところも印象的です。“全員経営”を実現するために、採用や人事、育成などにどのような工夫を取り入れているのか、組織づくりにも成功の秘訣がありそうですね。