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小売企業とSDGs17の目標。関係性が深いのは?

SDGs達成に向けた取り組みがグローバル規模で拡大・加速していく中、小売業界でも大手・中小にかかわらず持続可能な社会の実現に貢献するアクションに注力する企業が増えています。そこで今回は、SDGsで2030年までに達成することを目指している17の目標のうち、小売企業と関係性が深い目標は何なのかを調べてみたいと思います。

SDGs達成度ランキング上位はヨーロッパが独占。日本は19位

2022年6月、国際的な研究組織である「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)」は「Sustainable Development Report(持続可能な開発レポート)2022」を発表しました。

レポートによると、世界のSDGs達成度は2年連続であまり進歩がなく、2015年から2019年にかけては年平均スコアが0.5ポイントのペースで進んでいたのに対し、2021年の平均スコアは2020年からわずかに低下しているようです。

この要因の一つとして、新型コロナウイルスの流行がSDGsの目標1「貧困をなくそう」や目標8「働きがいも経済成長も」に影響を与えたと考えられており、さらに今後ウクライナでの戦争が貧困や食糧安全保障、エネルギー価格などにも影響を与えることが懸念されています。

163カ国のSDGs達成度を比べた国別ランキングでは、フィンランドが2年連続で1位となり、2位デンマーク、3位スウェーデン、4位ノルウェーと北欧勢が続きました。上位18カ国は旧東欧を含むヨーロッパ圏が独占しており、次いで19位に日本がランクインしています。

日本は昨年の18位から一つ順位を下げており、「ジェンダー平等を実現しよう」(目標5)、「つくる責任 つかう責任」(目標12)、「気候変動に具体的な対策を」(目標13)、「海の豊かさを守ろう」(目標14)、「陸の豊かさも守ろう」(目標15)、「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)の6つについて「大きな課題が残っている」という評価をされています。

ただし進捗状況を詳しく見てみると、17の目標のうち14個については「SDGsの達成に向けて順調に進んでいる、または維持している」「適度に改善している」という評価を得ており、まだ課題は残っているもののSDGsを支持している国として、目標達成に向けて着実に前進していることが伺えます。

SDGs達成に向けて、小売企業が持つ重要な役割と課題

noteでもサステナブルファッションやリユース、食品ロスといったテーマを取り上げたことがありますが、これらの取り組みはSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に該当します。

サステナブルファッションに関しては、環境省が専用サイトを立ち上げて対策や具体的なアクションを紹介するなど、日本でも積極的に推進している取り組みの一つですが、普段、目にしたり耳にしたりする活動が具体的にSDGsのどの目標と関係しているのかを意識する機会はあまりないと思います。

そこで今回は、小売企業が取り組むSDGsが17の目標とどう関係しているのかを整理するとともに、ランキング上位のヨーロッパが小売企業とSDGsの関係をどう捉えているのかについても見てみたいと思います。

今回参考にしたいのが、2021年1月にAthens Institute For Education And Research (ATINER:アテネ教育研究機関)の学術雑誌「Athens Journal of Business&Economics」に掲載された論文「The Sustainable Development Goals and Leading European Retailers(「持続可能な開発目標」とヨーロッパの主要小売企業)」(著:Peter Jones, Daphne Comfort)です。

この論文は、小売企業のオンラインデータベース「Retail-Index」にて、売上高でランク付けされた上位10社のうち、ウェブサイトでSDGsへの取り組みを報告している7社(Schwarz、Aldi、Carrefour、Rewe、Tesco、Auchan、J. Sainsbury)のレポートから様々な課題についてまとめたものです。

論文内では、それぞれの具体的なレポート内容について取り上げていますが、ここでは小売企業とSDGsの関係についてポイントであると感じた点をまとめたいと思います。

要点は下記の4つです。

① 小売企業がSDGs達成に重要な役割を果たす
② 小売企業と関連が深いのはSDGs12と13
③ SDGsへ取り組むことで競争優位性が得られる
④ 小売企業がSDGsに取り組む上で4つの課題がある

以下、簡単にご紹介したいと思います。

①小売企業がSDGs達成に重要な役割を果たす

SDGsの達成に向けて、大手小売企業が果たす役割について「自社の活動」、「サプライヤーとの関係」、「消費者との日々の交流」、そして「オピニオンリーダーとしての社会的役割」という4つの点においてSDGsを推進する非常に強力な立場であり、「SDGsの達成に貢献しているのに適しているようだ」と述べています。

英国小売連合(British Retail Consortium)も「小売業界を動員して今後数十年の最大のグローバル課題に対応する」ことを目的とした「Better Retail Better World」イニシアティブを2018年に立ち上げており、このようにヨーロッパの小売業界内でも、小売企業がSDGsに貢献するために重要な役割を担っているという認識があるようです。

② 小売企業と関連が深いのは目標12と目標13

まず目標13の「気候変動に具体的な対策を」に着目し、国連の「健康、貧困、飢餓など人類最大の課題のうち、いくつかを悪化させる可能性を秘めた脅威の拡大要因であるという点で、SDGs17項目のうちの1つ以上のものである」という指摘を交えながら、小売企業にかかわらずあらゆる民間企業にとって13が重要であることを強調しています。さらに、北欧閣僚理事会の「12は他の目標と最も連動性が高い目標であり、残りの16の目標のうち14以上と連動している」という主張を挙げた上で、「より具体的には、目標12はサプライチェーン内で生産と消費の両方のプロセスを推進する強力な立場にある小売企業と特に関係があると思われます」と述べています。

さらに、SDGsは17の目標のほか、関連する169のターゲットが存在しますが、論文では12のターゲットについて「2030年までに天然資源の持続可能な管理と効率的な利用を達成すること、小売店および消費者レベルでの一人当たりの世界の食品廃棄物を半減させること、企業による持続可能な実践と持続可能性に関する報告の導入を促進することなどが含まれています」と説明し、小売企業と深い関係性があることを示しています。

実際にウェブサイトでレポートを公開している7社のうち6社がそれぞれの方法で目標12に取り組んでいることも本論文には明記されていました(もちろん、17のSDGs全てに貢献することを報告している小売企業も存在するので、全てが特定の目標だけに注力しているわけではありません)。

その一方で、12や13だけを達成すれば良いのではないということも書かれており、欧州委員会の「異なる目標やターゲットが密接に結びついていることを認識し、断片的ではなく統合的な方法で全体として実施しなければならない」という認識を紹介しています。

③ SDGsに取り組むことで競争優位性が得られる

小売企業がSDGs達成に貢献しようと取り組むことで、事業の効率化を推進し、競争優位性を獲得できるという見方もあるようです。論文では例として、「二酸化炭素排出量、エネルギーや水の消費量、廃棄物の発生量を削減し、気候変動とその影響に対処するための行動を追求することで、小売企業はコストを削減することができる」ことや、「ディーセントワーク、男女平等、健康と福祉に対する小売企業のSDGsへのコミットメントは、労働力の安定、安全、忠誠、効率性を促進するのに役立つ」といった効果を紹介しています。

④小売企業がSDGsに取り組む上で4つの課題がある

ヨーロッパの大手小売企業は、SDGsへの民間企業の関与を求める国連の呼びかけに積極的に応えていると見ることができるようですが、一方で本論文では課題点も挙げています。

1つめは、「小売企業が特定のSDGsに焦点を当てることについての課題」。2つめは、「小売企業のSDGsへの貢献度を把握するための、測定と評価の課題」。3つめは、「活動報告のための公式な枠組みがなく、小売企業はそれぞれの方法で報告・コミュニケーションを取っているという課題」。4つめは、「持続可能性と経済成長の間に根本的な緊張関係がある中、SDGsと経済成長を両立させないといけないという課題」です。

最初の「小売企業が特定のSDGsに焦点を当てることについての課題」についてもう少し触れると、論文ではSDGs12 と 13 を優先している小売企業のアプローチに課題があることを指摘しています。

例えば、小売企業はSDGs12を持続可能な消費ではなく「責任ある消費」と再定義しているものの、責任ある小売の定義を提示していません。これについて、小売企業ではなくむしろ顧客に主導権を置いているとみられるのではないか?それならば、店舗で責任ある小売企業としての何かしらの重要な役割があるのではないか?と述べ、実際に調査したところ、店頭で持続可能な消費または責任ある消費を促進する試みはほとんど見られなかったと言います。

また、小売企業は、自社の事業における炭素排出量を削減するための行動について報告したものの、世界中に散らばるサプライヤーに炭素排出量の削減を促し、その排出量データを独自にモニターすることは、コストと時間がかかり、経営的にも難易度の高い作業であるため、サプライチェーン全体で炭素排出量を削減することは、より困難な課題であることを説明しています。

小売企業としては特定のSDGsを優先することで「最も意味のある貢献ができる場所に集中している」と主張することもできるでしょう。しかし、これについてPwCは、「多くの企業がより表面的なレベルで関与している」「企業の支援を最も必要とする目標の優先順位付けや、放っておくと将来的に最大の問題を引き起こす可能性がある目標への取り組みに失敗している」「事業成長戦略や計画に対する長期的なビジョンとアプローチが必要」といった課題を指摘しているようです。

2030年に向けて、小売企業のさらなる貢献に期待

本論文では最後に「SDGsの達成に向けた小売企業の成果を検証するためのプラットフォームを提供する」という展望を掲げ、そのために「1社または複数の大手小売企業と正式な共同研究プロジェクトを立ち上げ、小売企業がSDGsの達成にどのように貢献しているかを調査することが最初のステップとなるかもしれない」と述べています。

今回ご紹介した論文からは、noteでも何度か取り上げていたテーマである目標12「つくる責任 つかう責任」と小売企業の関係性が深いことを改めて認識することができました。

さらに、ヨーロッパでは民間企業や小売企業がSDGsの目標達成に大きく貢献する可能性があるものの、SDGsは複雑で貢献度を測る共通の枠組みがなく、積極的に取り組んでいるランキング上位国であっても課題が多くあるため、論文が書かれた2021年はSDGs目標の達成に向けてまだ軌道に乗っていないという状況のようでした。

2030年の達成期限に向けて、世界中でSDGsへの取り組みが進む中、引き続き小売企業にどのような貢献ができるのかを探っていきたいと思います。