
【連載小説】再⭐︎生(28)最終話
「やばい、これ、こんな重かったっけ」
電ノコを抱えた姉が、へっぴり腰で後退る。
俺の着古したダウンを着込み厚手のグローブをはめ、まるでスキー初心者のような出立ちだ。
「姉ちゃん、代わるよ」
背後に回り持ち手を掴もうとした瞬間、姉がゴーグル越しに睨んだ。
「あんたね、楽しいとこだけやろうったって、そうはいかないんだから」
親切心から作業を代わろうと思ったのに、電ノコを横取りするつもりだと勘違いされている。腑に落ちないまま丸太の横に移動し、後ろ手に伸びをする。
「あのさ、ふと思ったんだけど、父ちゃん引くんじゃない? 大晦日に帰って来て、庭に自分そっくりの像があったら」
下書きの線に刃を当て、切り出す角度を調整中の姉が返す。
「いいのよ、門松的な感じでさ、門のとこに置こ。あの人、そういうの面白がるタイプだから」
いや、どうしたって父は戸惑うだろう。裏の田中さんなんかが通りかかった日には、父さんまで頭がおかしくなったと思うに違いない。
木彫りの父を目にした人たちの反応を想像し笑いをこらえていると、電ノコの刃が轟音とともに回り始めた。
「あー! 違う! 方向狂った」
騒ぎ立てる姉を背に、縁側のほうへ歩き出す。
「ねえ、このあと手伝ってよ! 工具全部出しといたから」
「ちょっと休憩してくる」
「あー、こんなことなら、去年みたいにいっぱい冬休み取っとけばよかったぁ」
回転する刃が木を削ぐ音とともに、姉の声が遠のいて行く。
縁側に散らばった工具をざっと端に寄せ、空いたスペースに足を掛ける。
黒い靴下の爪先に載ったおがくずとともに居間を抜け、階段を上がる。
窓の桟に肘をつき庭を見下ろすと、横倒しにした丸太と格闘する姉のつむじが見える。
せっかくの連休だ、切り出しの進捗によっては今のうちにゲームにログインし、対戦を始めたい。
「まだ結構かかる感じー?」
痺れを切らし、庭に向かって呼びかける。
「いまお尻のとこ!」
姉が木に電ノコを突き立てたまま返した。
片方ずつ足を上げおがくずを毟り、桟の溝に沿って並べた。
薄い木片が風に持ち上げられ散って行き、残ったいくつかが枠のふもとに収まり、じっとしていた。
完