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Eveが打ち鳴らした、「次の時代」への号砲
【Eve/『おとぎ』】
新しい才能に出会うと、ワクワクする。
この感覚は、とても久しぶりだった。
メロディ、リズム、コードワーク、それら全てが渾然一体となって、革新的なクリティカルヒットを放ち続ける怒涛の42分間。無数の情報が並列化され、あらゆる選択が最適化されていくデジタル時代において、僕たちが求めていたのは、そう、これほどまでに「痛快」な音楽体験だったのだ。
元・歌い手/ボカロP、つまり、ネットの世界を出自とするEveだからこそ、冷静に現行のロック・シーンを見据え、極めて批評的にバンドサウンドを再構築することができたのだろう。まるで、心のスイートスポットを刺激し続けるような、緻密で豪快なギターロックのアレンジが堪らない。
もちろん、サウンドだけではない。
デジタル時代における、ニヒルでドライな目まぐるしい日常を、あたかもデフォルトのものとして受け入れて生きる僕たちの「気分」を、過不足なくトレースしたEveの言葉たちにも、強く心を動かされた。クールな孤独感も、それを上回ってしまうほどの「誰かと繋がっていたい」という欲望も、彼の歌は真正面から撃ち抜いてくれる。
《涙の行方を辿ってしまったせいで/この手をぎゅっと離せなくなったせいで/迷い子達の物語/呪いも魔法も解けちゃくれないが/もう少しこのままでいようか》
《君は感情的で 時には冷静沈着で/相棒は自慢な証明 いきたいないきたいな/もう一度だけ 呼吸を合わせて 合図を送るから/この僕の心を沸かせて沸かせておくれ》
日本の音楽史の中で、幾度となく復権を繰り返しながら、あらゆる世代のリスナーに寄り添い続けてきた「一人称」のポップ・ミュージック、その最新型として、今作は必然的に強く支持されていくだろう。
そしてそれだけではない、Eveの楽曲は、僕たちに数々の気付きを与えてくれる。
《辛気を纏った 少年少女/憂さを晴らした イエスマン患者/誰も何者でもないもの/真意を知れば最期になるならさ/舌が乾くまで話そうぜ》
まどろみ("slumber")から幕を開け、夜明け("dawn")へと向かいゆく今作『おとぎ』は、デジタル時代を生きる僕たちの新しい「目覚め」を促してくれるのだ。
極め付けは、"僕らまだアンダーグラウンド"だ。
あらゆる感情が絶え間なく明滅を繰り返していく内面世界が、かけがえのない「他者」との出会いを通して、色鮮やかに輝きを増していく、圧巻の4分44秒。
《ダーリン ダーリン 示しておくれ/今夜だけ そうさ今がその時なんだ/最高のショーにしようぜ 胸の高鳴る方へ/喜劇的な世界が幕を開ける》
僕は初めてこの曲と出会った時、どうしても胸の高まりを抑えきることができなかった。
そして、恐ろしいことに、この曲のMVには、テン年代を牽引し続けてきたヒット仕掛人・川村元気をはじめとするトップクリエイターが参加している。既に時代は、この卓越した才能に気付いてしまったのだ。
"僕らまだアンダーグラウンド"という号砲が、既存のシーンへの戦線布告のように痛快に響く。2019年、激動のシーンの先駆者となり、時代の空気そのものを丸ごとアップデートしてしまうのは、きっと彼だと思う。
もう、Eveから、目を離すことができない。
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