對馬 樹

東京藝術大学卒業、東京大学大学院中退、Graduate Diploma in Contemporary Art History and MA Research Architecture, Goldsmiths, University of London

對馬 樹

東京藝術大学卒業、東京大学大学院中退、Graduate Diploma in Contemporary Art History and MA Research Architecture, Goldsmiths, University of London

最近の記事

密輸的現代批評へ向けて

(以下はこれから連載していこうと思っている展覧会批評の序文にあたる文章の下書きです) はじめに この連載では現代アートと呼ばれる分野の作品や展覧会を巡りながら、「現代」を批判的に考察していく。そこには間違いなく批評的な性質があるのだが、私は伝統的な鑑識眼(good eye)に基づいて「芸術作品」の品定めをしたり作者の意図を読み解いたりしないので、一般に期待される現代アートの批評とは異なるものになるだろう。また、作品や展覧会の背景に「読解されるべき真実」があるという素朴な前

    • フィールドワークとは何か?

      今日の午前中は「フィールドワークとは何か」という議論に終始した。個人的にとてもよい機会となったので、簡潔に本日の学びを以下に簡潔に記しておきたい。 1.フィールド(ワーク)とは何か? フィールドという語は盆地のような地理的空間を指すこともあれば、「研究対象とその周辺環境」みたいな曖昧な意味で使われることも多い。学術領域や専門領域のことも指すし、やや特殊な例を挙げれば磁場(magnetic field)を意味することもある。フィールドという語は自明のようでとても広い意味を持

      • 「君たちはどう生きるか」: 覚えていないことを思い出すこと

        映画「君たちはどう生きるか」の内容に少しだけ言及するのでネタバレ注意。 どうも都合がつかず公開から2ヶ月も経ってしまったが、ようやく「君たちはどう生きるか」を観てきた。ネタバレや余計な考察を目にしないようにビクビクしながらツイッターXを開く日々もついに終わったのだ。 読解を拒否すること いわゆる「難解」な映画だからだろうか、ネットには多種多様な考察が飛び交っている。細かい描写へのほとんど病的とも言える分析からストーカー的偏執性を彷彿とさせる構造分析まで、数えきれないほど

        • 政治的芸術というトレンド 【ドイツ紀行 Part 4】

           ドイツ紀行もついに Part 4 まで来たわけだが、おそらくこれが今回の紀行シリーズの最後になるだろう。  ドイツには2日間しかいなかったが、モンハイムトリエンナーレの他にもK20とK21という2つの美術館を訪れることができた。ドイツに入る前は約9ヶ月間ロンドンに住んでいたのでもちろんTate Modernや戦争博物館などを訪れたし、帰国してからすぐに森美術館の展示を見に行ったので、比較的短いスパンで3カ国の展示を見たことになる。この最後の旅行記では、これら3カ国で体験した

          恥の文化と言語 【ドイツ紀行 Part 3.5】

          短い東京滞在を終え、仙台へ向かう新幹線の中でドイツ紀行 Part 4 を書こうとしていた。しかし車内でのちょっとした出来事がドイツでの経験を想起させたので、中途半端な数字になるが Part 3.5 としてそれを書き残しておこうと思う。 新幹線が発車して間もなく、車内販売のカートが僕の横を通り過ぎようとしていた。驚くべきことに僕が乗っている車両の中はほとんどが外国人観光客で、そのうちの一人が添乗員にお水は無料で貰えるかと英語で聞いていた。カートを押す小柄な女性は英語が堪能では

          恥の文化と言語 【ドイツ紀行 Part 3.5】

          モンハイムトリエンナーレ 【ドイツ紀行 Part 3】

          帰国して蒲田のホテルにチェックインした。小さいながらもしっかりした机があると飛行機よりも数倍作業しやすい。Part 3 は Monheim Triennale について少しだけ書こうと思う。 Monheim Triennaleは今年で第二回というまだ若い企画だ。初回は音楽にフォーカスしていたようで、今回はThe Soundと銘打って俗に言うサウンドアートをメインテーマにした展示だった。会期は2023年6月いっぱいの約1ヶ月間であり、いくつかの作品はその性質上限られたタイムテ

          モンハイムトリエンナーレ 【ドイツ紀行 Part 3】

          デュッセルドルフ 【ドイツ紀行 Part 2】

          前回はデュッセルドルフ国際空港でPart 1を書いたわけだが、そこから少し時間が経った。ドバイでの乗り換えを無事完了し、いよいよ羽田空港へ向かう飛行機に搭乗し、その中で今Part 2を書いている。 さて、このPart 2で書いておきたいのはデュッセルドルフの街並みである。ドイツは過去にミュンヘンとカールスルーエに行ったことがあるが、今のところ今回訪れたデュッセルドルフがドイツで一番好きな都市だ。理由はいくつかあるが、安易な言葉で表現するならば自然と文化がよく調和した都市であ

          デュッセルドルフ 【ドイツ紀行 Part 2】

          ドイツ人は肉眼でQRコードが読める【ドイツ紀行 Part 1】

          僕は今ドイツのデュッセルドルフ国際空港で飛行機を待ちながらこれを書いている。ロンドンからデュッセルドルフに来たのはつい2日前のことだ。準修士号としてのロンドンでの在学期間が6月半ばに終了し、修士課程が始まる9月までの約3ヶ月間が完全にフリーだったため、一度日本に戻ることにしたのだ。要は夏休みの帰省である。会社員時代は夏休みなど名ばかりで、無職時代は年がら年中休みであるため、夏休みなどというものは大学卒業以来存在しないようなものだった。少なくとも7年ぶりくらいの正当な夏休みとい

          ドイツ人は肉眼でQRコードが読める【ドイツ紀行 Part 1】

          とあるドキュメンタリー映画について

          The Coveという映画がある。日本の和歌山県太地町におけるイルカ漁に関する自称ドキュメンタリー映画で、2009年にアメリカで発表され翌年にはアカデミー賞を受賞した。稚拙な正義感で闇を暴こうとするYouTuberみたいな動画の上位互換を楽しみたい方にオススメの一作である。お忙しい方はグーグル先生に評判を聞いてみるといいだろう。インテリを称する道化たちが批評と呼ぶことは愚かジョークと呼ぶことすらも憚られる文字の羅列を恥ずかしげもなく広大なネットの海にばら撒いている。抱腹絶倒必

          とあるドキュメンタリー映画について

          罪と法、あるいは鶏と卵

          暖房が壊れたクソ寒い講義室でダウンを着たままとある博士候補生の研究発表を聞いていた。彼は武力紛争法(Law of Armed Conflict)の問題点を指摘しながら、法律がカバーできない人々の苦しみについて分析していた。そもそも個人の苦しみは一般化のしようがないことに対し法律というものはある種の一般化を前提としているため、そこにどうしようもない不可能性があることは確かだろう。 しかし彼の研究の目指すところが僕にはいまいちよくわからなかった。法がカバーできない個の苦しみを描

          罪と法、あるいは鶏と卵