『日日是好日』 森下典子 著
「し、し、し、しーーー…」
釜の鳴る音。風の音。
雨が降る時のむっとした匂い、春の訪れを告げる花々の甘い香り。
日々色んなことに悩みや迷いを持つ現代人にぜひ読んでいただきたい1冊でした。
教養本でも、啓発本でもない。
ただお茶の稽古を辿っていく中で、自分が満ち足りていること、"今、ここ"に没頭することで、日々のそれぞれの輝きに気づくこと、そんなことを教えてくれる1冊です。
また、丁寧な言葉の端々から春の花々や梅雨のむっとした土の匂いまで鮮やかに、目の前に広がっているかのように読むことができました。
さりげない幸福感に包まれる読後感。
お茶をするわけではなくても、毎日を丁寧に過ごし、自分の周りの人々や風景に目を向けて歩んでいきたいと感じさせられます。
大好きな言葉を、本文より抜粋。
p.6
春は、最初にぼけが咲き、梅、桃、それから桜が咲いた。葉桜になった頃、藤の房が香り、満開のつつじが終わると、空気がむっとし始め、梅雨のはしりの雨が降る。梅の実がふくらんで、水辺で菖蒲が咲き、紫陽花が咲いて、くちなしが甘く匂う。紫陽花が終わると、梅雨も上がって、「さくらんぼ」や「桃の実」が出回る。季節は折り重なるようにやってきて、空白というものがなかった。
p.185
「やめる」「やめない」なんて、どうでもいいのだ。それは、「イエス」か「ノー」か、とは違う。ただ、「やめるまで、やめないでいる」それでいいのだ。
p.196
会いたいと思ったら、会わなければいけない。好きな人がいたら、好きだと言わなければいけない。花が咲いたら、祝おう。恋をしたら、溺れよう。嬉しかったら、分かち合おう。
幸せなときは、その幸せを抱きしめて、百パーセントかみしめる。それがたぶん、人間にできる、あらん限りのことなのだ。
p.217
今を味わうことだ。過去も未来もなく、ただこの一瞬に没頭できたとき、人間は自分がさえぎるもののない自由の中で生きていることに気づくのだ。
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