「食べる」を繰り返す
ここで、一般常識クイズ。
人生とは、辛く苦しいものである。マルかバツか。
聡明な読者諸君はご存知の通り、このクイズの答えはマルである。
ここでバツと答えてしまう人は一時的に頭がどうかしているか、もう手遅れの人なので気を付けられたし。
自身、一時期人生は幸せに満ちていると感じていたことがあったが、今思えば完全に頭がどうかしていた。
大仰な書き出しであるが、
大上段に構えておいて、出てくる技はちゃらんぽらんなのが僕の剣術なので安心していただきたい。
日曜日、明日からの一週間は気合を入れていくぞと早めに床に入ったのだが、朝起きてみるとおもいきり首を寝違えており、右方向および上下が向けない。
無論、終業時刻まで気合が入ることはなかった。
人の世とは、なんと思い通りにならないものだろうか。
では、何を食べようか。
こんな日は食べるものくらい自分の好きなものを、と思うのが人情。
早々と会社をあとに、最寄り駅近くのスーパーへ。
野菜はその霊力で選ぶのがよい。
たいてい力のみなぎっている野菜というのは、玉のようにつややかに照り映える旬のもので、その上割安なのである。
目についたのが群馬の下仁田ネギ。透明感のある白さ。一瞬ざんばら髪時代の遠藤関と見まがう。太く、張りのある立派な佇まいであった。
今夜はこいつを軸にすることにしよう。
4分の1にカットされた白菜、特売の大根1本、生姜、舞茸、豚肉。
活きの良い国産食材は俺を選んでくれと食材側から語りかけてくるので迷いようがない。
瞬間、野菜、重ねて
食材を抱えてほくほくとした表情で帰宅。
湯を沸かし、その間に生姜を刻んでおく。
大き目の鍋に酒と沸騰したお湯を投入。刻んだ生姜をいれ、さらにおろし器で鍋の上から生姜をすりおろす。
さらに鶏がらスープの素をテキトーな量投入し、胡椒とめんつゆもなんとなしに投入。
鍋を火にかけ、蓋をする。
大根を切り、投入。下仁田ネギを切り、投入。白菜を切り、投入。
豚肉を白菜の表面に張り付けるように並べ、さらにその上から白菜、舞茸を投入。無理やり蓋をしてぐつぐつと煮る。
うまいこと煮えると、おたまですくってどんぶりに入れ、お好みでポン酢や七味唐辛子、柚子胡椒なんぞをつけていただく。
名を、力~ちから~と言う。
この料理が僕が作る料理の中で最強であることは論を待たないが、あえて名付けて呼ぶこともないので、これを力(ちから)と呼ぶことにしよう。
力を食べると力がみなぎる。
食べた後ももちろん、翌日もかなり元気になる。
身体がポカポカするのは多分、酒と大量に入れた生姜が効くだろうと思うが、やはりその時々に選ぶ食材の持つエネルギー、霊力なるものを取り入れているのが大きい。
スープも絶品で、大抵2,3杯食べた後に残ったスープに白米を投入して食べるが、これがまた、最高なのだ。
総じて、味付けは薄味なのだが、それゆえ素材が持っている滋味が際立ち、その味わいは食べているうちに絶妙に変化していく。
特に下仁田ネギはとろりとした触感の後じわりと甘味が押し寄せてきて絶品であった。
豚肉も脂身の少ないものを買ってきたが、白菜や大根と豚の肉汁が絡んでうまみをブーストしていた。
幸せな気分になったので
食後、茶を淹れて飲む。
実に気分が良い。
そうだ、明日からは小倉で競輪祭がはじまる。
調子を見るために久しぶりに車券を買ってみるか、と思い立ち平塚のレースを3千円分買って、夕食にヤキトリを追加するハメになった。
明日からの競輪祭はツキがくるまで「見」に回ることにする。
競輪はいつも大切なことを思い出させてくれる。
人生というのは、思い通りにならないものである。