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「食べる」を繰り返す

ここで、一般常識クイズ。 人生とは、辛く苦しいものである。マルかバツか。 聡明な読者諸君はご存知の通り、このクイズの答えはマルである。 ここでバツと答えてしまう人は一時的に頭がどうかしているか、もう手遅れの人なので気を付けられたし。 自身、一時期人生は幸せに満ちていると感じていたことがあったが、今思えば完全に頭がどうかしていた。 大仰な書き出しであるが、 大上段に構えておいて、出てくる技はちゃらんぽらんなのが僕の剣術なので安心していただきたい。 日曜日、明日からの一週

    • 第14回「食べる」を取り戻す

      シン・米この季節がやってきた。新米である。 米は少しかために炊いたのが好きなので、新米を炊くときは水を少な目にするのだが、それでも表面はつやつやと光り、食べると芯までみずみずしい。 ちょうど大相撲秋場所が始まったので、帰宅するとダイジェストを観るのだが、新米と大相撲というのは僕にとって危険な組み合わせだ。 大相撲を観ると、身体が大きくパンパンに張った力士に憧れ自分の肉体が貧相に思えて仕方なくなり、「もっと食べなくては」という思いに駆られる。 また、講談で相撲取りを扱っ

      • 第13回「食べる」を取り戻す

        名前のない料理自炊をしている、と言うと「ひとりなのに偉いね~」と言われることがままある。今ひとり暮らしをしていて、自炊をする人なら共感する人も多いのではないか。 おそらく、自炊=節約している、身体に気を遣っているというイメージがあるからだろうが、自分について言えば、別にそんなことを目的にしているわけでは無いのだ。 仕事が終わって、腹が減っている。 机を片付けながら、さて、何食べるかな…と考える。 会社を出て、最寄り駅まで歩く道。 ラーメン、牛丼、そば、中華、居酒屋、ハンバ

        • 第12回「食べる」を取り戻す

          旅中華旅先で中華料理屋に入ることが多い。 せっかくだからどこでも食べられる中華じゃなくて、名物料理、ご当地料理を食べろよ。と思うだろうが、たいてい一通りの名物は旅館やホテルの食事で出るので、わざわざ混んでいる有名店に入るよりは、価格も味も安心な中華料理屋に入るのが快適なのだ。 先週末に4年ぶりの開催となった「しまなみサイクリング」に行ってきた。瀬戸内海の島々を渡っていく有名な道、しまなみ海道を舞台としたサイクリングイベントだ。 この手のイベントは当日朝早くに出発するので

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          第11回「食べる」を取り戻す

          寒くなってまいりました急に寒くなった。こう寒いと身体をあっためるものが食べたくなる。 一番に選択肢に上がるのが、生姜である。 向田邦子のエッセイに出てくる料理で、雪平鍋に酒と水、刻んだ生姜をぐつぐつやって豚肉をしゃぶしゃぶして食べ、その後にほうれん草を千切ってぶち込みスープとして食べる、というのがあるのだが、寒くなるとかなりの頻度でこれを食べる。 酒と生姜の効能で食べてるうちから身体がぽかぽかしてくる。 にゅうめん漢字で書くと煮麺となるにゅうめんは、要するにそうめんをあ

          第11回「食べる」を取り戻す

          第10回「食べる」を取り戻す

          祭と食事先日、川越のお祭りに行ってきた。開催は三年ぶりらしい。 友人の弟に山車を引かせてもらったり、クラフトビールやジンを飲みあるいたりと良い体験になった。感染対策の混雑予防のためテキ屋が出ていなかったので比較的歩きやすく、地元の店が潤っていてよかった。 幼い頃、母方の実家がある町のお祭りに毎年行っていたので、その頃の(恐ろしいことにもう十年以上前だ…)祭の記憶が呼び覚まされた。今回は祭と結びついた食べるについて思い出していく。 カツオの半身祖父が氏子総代を長く勤めていた

          第10回「食べる」を取り戻す

          第9回「食べる」を取り戻す

          ラーメンの温度感ある時、「ラーメンでも食べに行くか」って温度で食うものなんだよな、とあるラジオパーソナリティが話していた。 これは昨今の高級化したこだわりラーメンがグルメとして取り上げられるようになった風潮に対しての発言だったと思うが、僕は妙に共感してしまった。 ラーメンは、とびきりのごちそうじゃなくていい。 十三詣りおいしいラーメンとして僕の記憶にあるのは、12歳の時に食べたラーメンだ。 なぜピタリと年齢を覚えているかというと、13歳になると神社に詣でるという風習、十

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          第8回「食べる」を取り戻す

          嵐が来ると思い出す9月は嵐が多かった。 すっかり季節は夏から秋へと切り替わった。 嵐の日に思い出すのは、シュトゥルム、ドイツ語で嵐を意味するぶどう酒。これはオーストリアの名物で、嵐の時期にしか飲めない季節モノである。 学生生活最後の夏、友人とふたり東ヨーロッパを周遊する2週間程度の旅に出た。夜行列車や長距離バス、LCCを使って移動して回り、ウィーンから日本へ飛び立つ最後の夜。 夕食をとろうと空港近くの街の気取らないパブでこれに出会った。メニューとは別の、テーブルに乗った

          第8回「食べる」を取り戻す

          第7回「食べる」を取り戻す

          なしのはなし梨が美味しい季節になりました 僕の地元は梨の産地でもあるから、実家にいたときは、秋になると買ったり貰ったりして家にたくさん梨があった。 大好物で暇さえあればシャクシャクとその食感と味、さわやかな香りを楽しんでいた。 しかし、そんなにしょっちゅう食べていたのに、「今まで食べた梨で一番美味しいのは?」と聞かれたら、実家を出てから、東京でひとり暮らしをはじめてから食べた梨を挙げるだろう。 大学時代の友人からある日連絡が来た。 「梨は好き?」 すきすき、ちょー好

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          第6回「食べる」を取り戻す

          スイジューニューロウ水煮牛肉と書く。四川料理である。 さっぱりした字面とは裏腹に実物のヴィジュアルは極めて刺激的だ。 真っ赤に煮えたぎる油に牛肉や野菜が浸かっており、唐辛子が大量にぷかぷか浮いている。 いかにも辛そうな、口だけではなくそこから体外へと続く管の内側がまるまる焼け爛れそうな食べ物だ。 ひと口食べるとわかるが、ただ辛いだけではない。この料理には、ユーラシア大陸に大輪の華、中華が生み出したテクノロジーが使われている。 文字通り牛肉料理であるが、この牛肉がすごい。

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          第5回「食べる」を取り戻す

          プルドポークプルドポークという食べ物を知っているだろうか。 プルがむしるという意味なので、直訳するとむしった豚肉。 豚肉の塊肉を低温で加熱し、中までじっくり火を通したらフォークなどでほろほろにほぐし、ソースなどであえて食べる。 もともとがアメリカ大陸のバーベキュー料理で、スモークして作ることが多いらしい。日本ではタコスやサンドイッチの具として使われているのを見かける。 塊肉をまるごと燻してほぐして食べると聞くと、いかにもアメリカ大陸的な豪快料理だが、脂っこくなくておいしい

          第5回「食べる」を取り戻す

          第4回「食べる」を取り戻す

          主食王決定戦少しかために炊いた白ごはんが優勝。 それはそうなんだけど、日々いろんな主食を試している。 社会人になってから、朝飯に白米を食べるとどうも午前中眠くなって仕方ないから、1年半ほど玄米を食べていた時期がある。田舎から精米せずに送ってもらっていた。 玄米はかたく、よく噛んで食べる上、ゆっくりと血糖値が上がるから眠くなりにくいのだ。 しかし消化が大変なので、少しでも胃の調子が悪いとこれがどうも上手くいかない。炊くのも時間がかかるので最近はやめてしまった。 蕎麦にハマっ

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          第3回「食べる」を取り戻す

          なますinバインミー目黒に来ている。 急に東南アジアのスコールのような強いにわか雨が降ってきて、雨宿りがてらバインミー屋に入った。 バインミーとは、フランスパンを使ったベトナムのサンドイッチだ。 ここ2、3年で流行りがあったようで、都内にこれを出す店が急に増えた。 これにはなますが入っている。 なますと言えば人口に膾炙(カイシャ)するの膾(なます)で有名だが、改めて調べてみたらここでの膾は細く切った生肉のことで、炙はあぶり肉らしい。 あれっ、酢の物の紅白なます(細く切

          第3回「食べる」を取り戻す

          第2回「食べる」を取り戻す

          メンチカツめずらしく、わけもなく気持ちが沈んでいる日。 そんな時は「落ち込んでても仕方ないでしょ!ほら!とにかく食べなさい!」という母の言葉を思いだす。 食事も喉を通らないよ…と思う日でも、食卓に座ると案外もりもりと食が進み、前向きな気持ちになれたものだ。 ひとりで暮らすようになってからも、この記憶を大切に持っていてこんな日に思い出す。 お客とは午後の約束だが、少し早めに出て昼飯を食べる店を探すと、いい店を見つけた。 カウンターしかない老夫婦がやっている食堂。 生姜焼

          第2回「食べる」を取り戻す

          【新連載】「食べる」を取り戻す

          療養中に、食が損なわれてしまい、実際に体重も減った。 それをきっかけとして、自分の今までの食べる記憶や経験、嗜好を掘り起こしていくことを目的に連載を始めることにした。 (とりあえず毎週火曜日更新) ウーバーイーツ療養期間は家から出られないので、生肉や生野菜が手に入らない。 それゆえ、レトルト以外の飯を食べられない。 この状況に風穴を開けるためにウーバーイーツを使ってみた。 肉が食べたかったので、肉丼やハンバーガーを頼んだ。 玄関に置いてもらい、手に取った時にはまだ温かくて

          【新連載】「食べる」を取り戻す

          青森ラン(2日目)

          起床(朝5時) ものすごい雨の音で目が覚めた。 時計を見ると朝5時だ。身体は脚から肩から凝りに凝ってバキバキ。 深夜にも何度か館内に響く足音で中途覚醒した記憶がある。おそらくバイクおじさんが煙草を吸いに玄関に出たのだろう。 飯にするかとパンを焼いたりカップ麺にお湯を入れたりしていたら、少し離れたソファで寝ていた同行者が起き出し、ものすごい雨が降っているのを確認しスマートフォンを少しいじって「バスは10時ごろ出ているみたいだな…」と呟いて再び寝た。 僕は朝から元気に冷たい

          青森ラン(2日目)