見出し画像

アメリカ留学時代に問われた原爆投下の是非

かつて1年間ほどアメリカのニューハンプシャー州に留学していた頃の記憶を辿りながら日本とアメリカの子育て・教育について比較をしてみる。
アメリカの,と言いながら,何をもって「アメリカ」とするかは恐ろしいほどに幅も広くグラデーションが存在することは百も承知の上で,敢えて当時(しかも20年以上前)私が暮らしたアメリカで経験したことを日本の一般的なものと比較してみるという試み。

今日は広島原爆投下の日。
朝から平和式典の中継を見ながら,毎年決まってこの時期に思い出す本稿タイトルの「問い」について思い返した。

16歳でアメリカに留学した時,通っていた公立高校では必修科目の中に ”American History” というクラスがあった。
日本でいうところの「日本史」と同じ。
1年間かけて履修するそのクラスでは毎回先生が選んだテキストのテーマに沿って数時間かけて学生同士で討論したりレポートをまとめたりするという授業だった。
日本のように先生が黒板にあれこれ書いて,それを生徒が必死で写す,というような授業スタイルとはまるで違う。

そんな日本人留学生の私にとっては泣きそうなくらいハードな歴史の授業で
第二次世界大戦について学んだ時,先生からこんな問いが出た。

「テキストには,我々アメリカによる日本への原爆投下によって悲惨な戦争が終わった。米日軍共にそれ以上の犠牲者を出すこともなく,日本が占領していた多くのアジア諸国の人々を救うことにもなった。よってアメリカによる原爆投下は多くの人々を救った,と書いてあるが,君たちはこの内容についてどう思う?」

30人弱のクラスで,私以外は全員がアメリカ人。
先生はクラスの生徒一人一人にこの問いを投げかけた。先生はなぜか(あえて?)私を最後にして,もう一度同じ質問をした。
そのとき,私以外の生徒全員が

「アメリカのしたことは正しい。なぜなら,原爆投下によって多くの命が救われた。それはアメリカ人のみならず,日本人さえも救ったのだから。」

という答えだった。

当時の私がその質問にどう答えたのか。

それは

「わからない」

I don’t know

ではなく

It is so hard for me to make a dicision.

20年以上経った今でも
未だに正解はわからない。

いや多分正解なんて存在しない。


もしも時計の針が戻って

あの時の教室に
留学生だった頃の自分に
戻れるならば
こんなことをクラスメイトや先生に伝えたかった。

原爆投下という出来事を含めて戦争は,
その当時その人がどんな立場にいたかによって,受けた影響も見方も全く異なることなので,YESかNOかの二択で正しさを論じることなんて絶対に不可能だと思います。

日本国内でも,
原爆投下が直接の原因で亡くなった方。

なんとか生き残ることができたけれど
原爆投下の時に負ったケロイドがもとで周囲の人たちからの差別やいじめによって自殺で命を落とした方。

原爆で親を失い戦災孤児となって結果的に命を落とした多くの子どもたち。


私なんかには想像も及ばないような
文字通り地獄さながらの苦しみの中にいた
何十万という人たちの存在がありました。

そして,そういう事実を知ってもなお,
原爆投下によってそれ以上新たな犠牲者を出さずに済んだ,ということが言い切れるのか,とも思います。

日本で有名になった「焼き場に立つ少年」という写真を撮ったアメリカ人カメラマンのジョー・オダネルが戦後に「原爆投下は間違いだった」と言ったことも,
当時のトルーマン大統領が「原爆投下は正しい判断だった」と言ったことも,
「正しくない」と否定することは誰にもできません。

「日本人として原爆投下に対してどういう意見を持つべきか」
この問いに対して明確な答えを出すことはできません。
ですが,
今先生からのこの問いに対して,私が葛藤し,悩んだのは
日本人として原爆の悲惨さを知っているからでもあります。

事実,私以外のクラスメイトたちはそれほど悩むことなく,いとも簡単に答えを出し,自国の正義と正しさを心の底から信じていましたから。

現代においてもっとも危険なことは,戦争を知らない世代である私たちが
うわべだけの事実を学び,いとも簡単に
「戦争での犠牲を拡大しないためにも,原爆投下は仕方がなかった」
と結論を出してしまうことのように思います。

私の今の願いは
日本人もアメリカ人も関係なく
今日先生から出されたこの問いについて
我々が生きている限り生涯に渡って考え続けていくこと。

そしてこれは今の時代を生きる私たちの責務でもある,と考えています。

いいなと思ったら応援しよう!

Mariko
ここでいただいたチップは我が家の家計をダイレクトに支えます! いつも応援ありがとうございます!