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#彼女を文学少女と呼ばないで/谷崎「相愛の女たち/祝福の花々はやがて切り裂かれ」

『卍』谷崎潤一郎


ああ、憎たらしい、こんな綺麗な体してて!

うちあんた殺してやりたい


✉️明日の午後はお茶の稽古?そしたら三時にあたしの家へ来られない?
あした学校でイエスかノーかを知らして頂戴、この間のように合図してね。
きっと、きっと、きっと来て!

今もテーブルの瑠璃の花瓶の中で綻びかけた白い芍薬が、
あたしと一緒にあえかなためいきを洩らしながらあなたの来るのを待っているの。


失望させると可愛い芍薬の花が泣きます。
洋服箪笥の姿見もあなたの姿を映したいと云っています。

明日のお昼の遊び時間にあたしはいつもの運動場のプラタナスの下に
立っています。合図を忘れてはいけません。
                                   光様


わたしはそう云うて光子さんのふるてる手頸しっかり握りしめたまま、

一方の手エで顔引き寄せて、唇持って行きました。




すると突然光子さんの方からも、

殺して、殺して、うちあんたに殺されたい




あてかってかくごしてるわあ。

姉ちゃんあてが死ぬ云うたら一緒に死んでくれるなあ?


死ぬわ、死ぬわ、光ちゃんかって死んでくれるなあ?





「あて姉ちゃんと此処で死にたい」と、お互いにそない云うたなり、

それから後は声も立てんと、どのぐらいそこにいたのんやら、

時間も、世の中も、何もかも忘れて、

私の世界にはただ永久に愛しい光子さんと云う人があるばっかり。




_____結局二人藻抜けの殻みたいにさして、

この世の中に何の望みも興味も持たんと、

ただ光子さん云う太陽の光だけで生きてるように、

それ以外に何の幸福も求めんようにさしたい云うことになるのんで、______

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