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苦しさと恋と夢が混ざった中3の夏②


保健室登校中の私はベッドをカーテンで遮り
保健室内で自由に過ごすことはほぼなかった。

別に養護教諭と特段仲が良いわけでもなく
何かがしたくてきているわけでもなく
教室へのスモールステップとしてという提案で
連れてこられているだけなのだ。

保健室には時折友達が訪ねてきた。
部活の友達やクラスの友達。
そんな中、珍しい訪問者が私の前に現れた。

「おぬ、調子はどうだ?」

カーテンを開き声をかけてきたのは数学担当の
K先生だった。K先生は初任でこの学校にきて3年目。
比較的若い先生だった。エネルギーに溢れた好青年
という印象だった。顔も爽やかめの優しい雰囲気で
前から好きな部類の先生だったと思う。

「おぬがいないと教室が寂しいよ。」

お世辞かもしれないがそんな言葉をかけてくれる
K先生にとても救われた。
他愛ない話をしたあと、K先生は授業へと向かった。
その会話はグレーな毎日を送る私にとってとても
新鮮で、彩りが生まれたようだった。

その日私はK先生に手紙を書いた。
話に来てくれて嬉しかったこと。
先生を揶揄うような質問。
女子中学生がきゃっきゃして書いた手紙そのものだ。
違うところは悩みを少し書き添えたことくらい。

次の訪問の際、K先生に手紙を渡した。
お礼のつもりで書いた手紙だったが、
K先生は律儀に返事を書いて後日私に届けてくれた。

それから私とK先生の文通が始まり、
少しずつ教室へ戻るきっかけとなった。

数学の授業には先生がいてくれる
それが私の安心材料になった。

教室への恐怖というのは一度乗り越えてしまえば
案外容易いもので、それからするすると私は
教室へ復帰していった。
ただ、気持ちの波は激しく、虚ろな顔をして
座っているだけのような日も多かった。
(今思えばあの頃もうつ状態だった気がする)

授業が終わり、学年職員室へ帰るK先生を
呼び止めては手紙を渡した。
K先生も授業から戻るときに
「あとで職員室へおいで。」と私を呼び出しては
手紙のお返事渡してくれた。
いつも「秘密だよ。」の言葉を添えて。


私は完全に恋をしていた。
K先生の教師としての優しさに恋をしていた。


------------ つづく。


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