雨の音のホワイトノイズを、聴かないと眠れないワケ
イヤホンをしないと眠ることができない
うるさいな
気になるな
イライラしてくる
ゆっくり眠らせてほしい
音にはとても敏感で、同じ部屋で眠る人の寝息だけじゃなく、家電や照明から微量に流れるジーっとかサーっとか、そういうのも気になってしまう
イヤホンをしなかったり、してもいつのまにか耳から外れていたりして、夜中に目が覚めてしまったときには、頭がカーッとなり、神経がたかぶって眠れなくなってしまう
安心して眠りたい
幼少の頃、
物心がつく前から母とふたり暮らしだった
木造の風呂なしアパート
それが、ふたり暮らしのスタートの家だった
壁は段ボールみたいに薄くて、住人もいろいろな事情を抱えている人たちの集まりだった
そういう環境で暮らしていると
夜中に目を覚まさなければならないことも多かった
隣人は、絵に描いたような、お酒に飲まれるおじさんだった
昼間ばったり会うときは、シャイで声も小さく、とてもおとなしそうな雰囲気だった
それが、夜になると一変した
お酒に飲まれ、真逆の人格が出てくる時間だった
毎晩くり返される、おじさんのあの怒りは、結局、おじさん自身に向いていたんだろうな
今ならわかる
まだ小さかった私と母は、毎晩おじさんの怒りの音と声で起こされた
母もまだとても若く、物音のすごさもあって、こわくてふたりで抱きしめ合って耐えた
部屋の押し入れを開けると、すぐそこに居るんじゃないかと思うほど、より一層、声がよく聞こえた
内縁の妻のような人が一緒に住んでいて
そのおばさんはとても優しく、いつ会っても笑顔でたくさん話しかけてくれた
そのおばさんが、母に一万円を渡したことがあった
彼女なりのお詫びだったんだとおもう
一度、真夜中に窓ガラスを割られた
寝ている私たちの頭から、2mくらい離れたところ
私たちは一階に住んでいて
窓の向こうはベランダもなく、人がスムーズには歩けないほど狭く、草が生い茂っていた
住人以外が簡単に入れるような場所ではなかった
母とふたり、こわくて震え上がった
小さかった私と、まだとても若かった母は、ただ抱きしめ合うしかなかった
何があるかわからないから、人に相談することもできず
割られた窓ガラスを直すお金もなかった
そうして、段ボールとガムテープを貼って、しばらく過ごした
安心して眠りたい
小さい頃から、音楽がとても好きだった
遺伝もある
小学生の頃にはプレイヤーも買ってもらい、毎晩、イヤホンで好きな曲を聴きながら眠った
プレイリストはとてもトレンディーで
人気DJさながら、曲順にはとてもこだわった
割と爆音だった
のちに母は、イヤホンから漏れる音がうるさくて、あの曲が嫌いになった、と笑って話してくれた
母にも、そのアーティストにも、お詫び申し上げたい
音楽とイヤホン、そして、それを理解してくれる母の優しさと愛によって、わたしは不安な夜から解放された
隣人のおじさんは、毎晩の深酒から身体が弱り、気づけば静かになっていた
ああ生きるしかなかった事情があったのだろう
それでも、私はあなたが嫌いです
イヤホンは睡眠という生命線
生まれ持った気質と育った環境から
音にはとても敏感
物音で夜中にすこしでも不快に起こされると、怒りがおさまらない
そうしてしばらくの時間、眠れなくなってしまう
それは
幼い頃に我慢した、真夜中のあの恐怖や怒り、不安、悲しみ、助けはやってこないんだという絶望感
そういうものが掘り起こされるからなんだと、今ならわかる
今までいろいろな音源を試した
好きなアーティストの曲
ラジオ
お笑い
瞑想
セラピー系の周波数帯のもの
せせらぎ
最近は、お気に入りの映画を
ネットフリックスでとても小さな音で再生しながら眠るときもある
映画のストーリーと会話によって、考えすぎる脳が、休息モードになる
それでもやっぱり
本気で眠る体勢に入るときは
雨の音のホワイトノイズ
何度も助けられた
飲んだことはないけど、私にとっては睡眠導入剤みたいな効果がある
ただ、イヤホンをつけている時間が長くなるときは、耳のケアや、休める時間も大切
そういうことも、そろそろちゃんと調べないとな、とおもう
さいごに。
まだ小さかった私にも、こんな世界を味わわせてあげたかった
たくさんの不安なあの音たちから解放してあげたかった
想像してみる
あの木造アパートで、真夜中、怯えながら耐える幼い頃の私に、今の私が会いに行く
その小さな耳にイヤホンをそっとつけてあげる
あのとき一番好きだったものを聴かせてあげる
そして、我慢したきもちをぜんぶ聞いてあげる、ひとつひとつ丁寧に
いっぱいがんばったね、もう大丈夫だよ
そうして抱きしめてあげる
フラッシュバックする度に
そうやってSOSが聞こえる度に
何度でも迎えに行く
今日も
ただ安心したい
ただ愛を感じたい
ただ素直でいたい
愛を知りたい、思い出したい
育みたい
まずは、このこころのなかから
すべては、このこころのなかから