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詩|心の四季



冷たい強風に煽られながら
駅までの道を歩いた
マフラーを忘れて寒さがしみる
午後二時のホームは人もまばらで
風の音だけがうるさかった
雪でも降りそうな薄灰色の空

誰も座っていない長いシートの真ん中で
後ろに流れていく景色を見ていた
背中で車窓がガタガタ鳴って
線路たちは悲鳴をあげている
オレンジ色の電車は止まってしまった
車両の一番端に座っていた老人が
「またか」と、ため息をついている
動かなくなった世界は冷たくなって
絵画のようにひっそりと佇んでいた

わたしは、かるい眩暈の中で
おもい想いを、持て余している

もう話すことなんて何もなかった
あなたのために選んだ言葉は全部
途中の川に捨ててしまったから
終わってしまったんだ
始まりもしないまま
事切れてしまったみたいに

止まってしまった景色は色褪せて
虚しい輪郭だけが浮かびあがっている

あなたになら、この傷を…
あなたとなら、このまま…
もう言葉はひとつも紡げない

動き出したオレンジ色の電車は
カタンカタンと弱々しい音を立てて
まだ幸せだった頃のふたりの街へ
ゆっくりと帰っていく

恋の真ん中で 桜色だったわたしの心
恋を失い 吹雪の中に置き去りにされた心
人の心にも四季があることを知った

住み慣れた街の小さな部屋には
飼い慣らされた憂鬱が横たわっていた

いつのまにか風は優しく夜をなでている



心の四季 / 月乃



むかーし武蔵野線をよく使っていて
強風のたびに電車が止まっていたことを思い出して
こんな詩を書いてみました
ちなみに北海道にいた頃は汽車で通学していたよ
ぽっぽー♪


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