ホット・ケミストリー
毎年この季節になったら、一度でも必ず聴くようにしている一枚のアルバムがある。
真冬の空から雪の結晶が舞い降りてきたかのような音を奏でる「Prelude」から始まる「Hot Chemistry」は、私が中学生の時に手に取ってから十年以上経った今もずっと聴き続けているアルバムだ。
その中で「ココロノドア」→「Why」→「白の吐息」の曲順は、初めて耳にした時から具体的な感想を述べずとも非常に良いと感じていた。
やがて大人になる手前で恋愛という一つの感情を覚え、そして紆余曲折を経たうえで改めて聴くとさらに心を揺さぶられてしまうのである。
ただ純粋に良いと思うだけでなく、心の奥底に眠ったもどかしい部分を引き立たせてくる。それはまるで、チョコレートが持つ本来の味を知った時の感覚に似た気がしている。
しかしながら一通り聴いてみると、ほろ苦さだけでなく甘さであったり温かさも同時に感じてくるので、冬の間は是非聴いてみてほしい一枚である。
私が「Hot Chemistry」というアルバムを購入したのは、リリースされてから間も無く1年が経過しようとしている時期…まさに今と同じぐらいの時期だった。
親によく連れて行ってもらっていたCDショップには、その一枚が棚に並べられている姿はなく、そこから2、3軒回ったがいずれも置いておらず…。
CHEMISTRYは当時人気アーティストの一組でもあり「Hot Chemistry」自体がいわゆる限定盤と謳っていたこともあって、市内にとどまらず隣町まであちらこちら探し回っても売り切れなのは当然であった。
結局諦めて、後日近くにあるレンタル屋でたまたま見つけたCDを借りてはじっくり聴き込んでいたが、どうしても円盤を買うことを諦めていなかった。
それからあまり出入りしたことのないショップに足を運んだところ、プラケースの間に挟まれた、レッドブラウンの色が付いたデジパックに目が留まった。
…という今じゃあまり考えられないような出来事を、それこそ中学生の時からCDを買いに行くことを当たり前のようにしてきたものである。
あの当時は親からお小遣いとして、月に一千円か二千円しかもらえていなかったため、当たり前だがあれこれ頻繁に買うことはできなかった。
ただ限られた中で無駄遣いしないように、やりくりしなくてはならないことを親から叩き込まれたこともあって、この時からお金の使い方について今一度見直すようになったものである。
とはいえ、現在では定額制で音楽を聴くことが当たり前となり、ストレスフリーで年代問わず幅広いジャンルを聴けるようになっている。
今の学生たちが羨ましいと思う反面、一方でCDが売れない時代へと突入してしまったのは、物寂しいと思わざるを得ない。
一昔前まで至るところにあったCDショップはおろか、レンタルショップも過去と比べてすっかり姿を見かけなくなっている。
私自身も最近じゃCDを買うのも殆どネット通販しか利用しておらず、購入する頻度も学生時代より下回っているかもしれない。
それでも心から惹かれた音楽については、一番音質が良いとされているハイレゾ音源で配信されているものであっても、時代の流れが変わろうとも私はこの先もCDを買うことをやめないと思う。
物心ついた時から常に音楽が日常に溢れていた私にとって、どうこうしてでも1枚の円盤を手にしてはずっと聴き続けていたいー。
そんな感情があの時手にした「Hot Chemistry」で芽生えたからこそ、その衝動はこれからも大事にしていきたいものである。