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雨の水曜日に行きつく

中学生の頃、朝自習でクラス全員がさくらももこのエッセイ本「さるのこしかけ」を読んでいたときのことだ。

あの一冊といえば、今でも強烈に覚えているのが、著者が幼少の頃に初めて口にした言葉が「パーマックドライクリーニング」という、カタカナで書かれた看板を読み上げてご家族を驚かせたエピソードだ。



そして他にも印象に残った話がなかったか、掘り深く頭の中を探ってみたところ、


「薄く切ったオレンジをアイスティーに浮かべて」

との歌い出しから始まる大滝詠一の「カナリア諸島にて」という曲を、最終的にどうしてこうなったのか、”ミカンを輪切りにする曲”に行き着いたエピソードがあったのを思い出した。

あの時の私は、それに対して笑うどころか「あぁ、あの曲か」と思わず心の中で納得していた。まだ中学生にも関わらず、既にその曲を知っているどころか、それまで何回も聞いたことがあるからだ。

当然ながら周りの同級生たちは、それが一体どんな曲なのかを思い浮かばなかったことだろう。

それこそ、あの頃のJ-POPは「青春アミーゴ」でお馴染みの修二と彰をはじめ、ORANGE RANGEやDef Techにケツメイシなどといったアーティストたちが一世を風靡していた時代だ。

80年代に発表された楽曲を、当時では余程のことがなければ知る由もなかったことだろう。その後CMや主題歌など、様々なメディアに起用されたりと、それこそ今はサブスクで視聴できるわけだから、多少なりとも羨ましいと思ってしまう。


話を戻すが、私が大滝詠一を知ったのは小学生の頃からである。父から「A LONG VACATION」のアルバムが録音されたカセットテープを興味本位で借りては、昔から家に置いてあったラジカセを使って聴いたのが始まりだ。

そこで初めて聞いたのは「雨のウェンズデイ」という曲であった。

やがて数年後、携帯プレーヤーでも聴きたいと思いつき、レンタルショップに足を運んではそのCDを借りて聴いたところ、一曲目が「君は天然色」で始まることになんとなく違和感を覚えた。

「もしかして父さん、A面とB面を逆に録ったのかな?」

小学生の頃の記憶が正しければ、あの時再生したカセットテープのA面はたしかに「雨のウェンズデイ」から始まり、逆のB面では「君は天然色」から始まっていた。

とはいえ、曲順を間違えて覚えてしまった以上、今もなお私にとっては「雨のウェンズデイ」からの始まりがしっくりくる。そう思いながら聴いていたところ、


「昔話するなんて気の弱い証拠なのさ」

大滝詠一「雨のウェンズデイ」


その歌詞が耳奥に入り込んだ途端、思わず手が止まった。そういやと思い返してみれば、ずっと昔話のことを考えては語ってばかりいた気がしなくもない。

それなら、こんな何のたわいもない出来事をどうして今頃になって思い出しているのだろうかと、別段傷ついていないのに物思いにふけてしまった。



明日はまさに雨の水曜日である。ここのところ、むさ苦しい暑さが続いてウンザリしていたから、いくらか気を紛らわせてくれるだろう。

気温は昨日よりは少し下がるそうだが、その分湿気がさらに多かったり急な土砂降りに見舞われるのは勘弁してほしいと、ひっそり呟くのだった。


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タダノツカサ
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