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一杯の清算 | ショートショート

過去に降りかかった、とてつもなく苦味のある思い出を忘れることを、わずか一瞬にしてできたなら、どんなに清々しいことと思えるのだろう。


オマエも、そうは思わないか?


誰しも、己の人生を全うして歩んでいても否だとしても、そう簡単に逃れることの難しい茨の道を辿ることは、必然的となっている。


その存在を知りながら、瞬く間に躓いてしまった時に、怖ろしくも醜い腫れ物を外より先の世界に露呈してしまうことを、無意識に恐れているだろう。


だが、それは決して悲しいことではない。むしろ、その全てを悲しいことだと一方的に決めつけてしまうのは、あまりにも惜しいことをしている。


そこでもったいないとすぐに気がつけるのか、後々になって気づくのか。

老いも若いも、芳醇な香りに包まれた其の一杯の前では、年齢や経験など一切関係ない。


シャンパンゴールドのような色に満たされた、一杯のグラスを手にとったのなら、答えは一つのみ。


今日だけは…いや、今夜だけはすべて…。




(410文字)


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タダノツカサ
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