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ふたりの前を遮る世界 | ショートショート

今日は、彼と初めてのデートだった。


手を繋いで公園を散歩したり、街中を散策したり…などと。

彼は今日のために、いろんなデートプランを練ってくれていた。

それが現実になると思うと、楽しみで仕方なかった。


けれど運悪く、生憎の土砂降りに見舞われてしまった。

折角、はじめて長く過ごすはずの時間も、見事に水に流されてしまっている。

けれど幸いなことに、車を持っている彼のおかげで、今もこうして車内で、ふたりだけの世界を創り出している。


立ち寄ったコンビニの駐車場でクルマを停め、今か今かと雨が止むのを待っている。

しかしいつまで経っても、フロントガラスより先の視界は、変わらないままだ。

いつになったら、私たちの前を遮る世界は、落ち着きを取り戻してくれるだろうか。

やがて車内は、彼が買ってきてくれたコーヒーの香りに包まれていく。




すると、コーヒーを口にした彼は、沈黙を破るようにポツリと呟いた。



その台詞を聴いた私も、啜りながらこう続けたのだった。




(410文字)


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タダノツカサ
最後までお読みいただきありがとうございました。 またお会いできる日を楽しみにしています!