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政治(金融)講座ⅴ1057「リーマン後最大のファースト・リパブリック銀破綻の恐れ」

 3月の米国のシリコンバレー銀行の破綻から始めった金融不安が再燃し出してきた。
 3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)を上回り、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる恐れがあるとの報道に恐れおののいているのである。
 5月連休明けの金融株の値動きが気になるところである。
 読者の皆さん!
 ピンチはチャンスです。 
 儲けのチャンスである。このチャンスを掴んでください。暴落した底値を買うチャンス、信用取引は今が売り時で、底値を買い戻す機会である。
勝者になるのは誰であろうか。
「勝者は貴方かもしれない」と悪魔の言葉が囁き掛けてくるのであるが、往々にして欲に駆られた判断・決断は失敗するケースが多い。株式投資は博打ににており、中枢神経系に存在する神経伝達物質ドーパミンという脳内物質が放出され、快楽を与えて、常習性を引き起こす麻薬のようなものである。統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)は基底核や中脳辺縁系ニューロンのドーパミン過剰によって生じるという仮説がある。
 冷静な判断で、焦らずに、そして、結果は自己責任である。今回は報道記事からその情報を紹介する。

     皇紀2683年(令和5年)4月30日
     さいたま市桜区
     政治(金融)研究者 田村 司

ファースト・リパブリック銀、公社管理下に入る可能性…リーマン後最大の米銀破綻の恐れも

読売新聞 によるストーリー • 1 時間前


米ファースト・リパブリック銀行(ロイター)© 読売新聞

 【ニューヨーク=小林泰裕】欧米メディアは28日、経営が悪化している米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)について、近く米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれる可能性があると報じた。3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB)を上回り、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる恐れがある。


 ファースト・リパブリック銀の資産規模は、昨年末時点で全米14位の約2100億ドル(約28兆円)。16位のSVBを上回る。今月24日の決算発表で、市場予想を上回る大規模な預金流出が3月に発生したことを明らかにし、信用不安が高まった。発表後、ファースト・リパブリック銀の株価は約80%下落している。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは28日、米銀大手JPモルガン・チェースなどがファースト・リパブリック銀の買収を検討していると報じた。

米ファースト銀行、3行目破綻か 「公的管理準備」と報道

共同通信社 によるストーリー • 

米ファースト・リパブリック銀行本社=3月、サンフランシスコ(ゲッティ=共同)© KYODONEWS


 【ニューヨーク共同】巨額の預金流出に伴い株価が急落した米中堅銀行のファースト・リパブリック銀行が近く公的管理下に置かれると、ロイター通信が28日報じた。実際にそうなれば、3月のシリコンバレー銀行(SVB)などに続く3行目の米銀破綻で、2008年の金融危機リーマン・ショック後で最大の破綻規模となる。金融不安が再び広がる懸念があり、市場関係者の関心が高まっている。

 ファースト銀の同日の株価は前日終値比43%下落し、3.51ドル。SVB破綻前と比べ9割超の下落となる。米紙ウォールストリート・ジャーナルは28日、公的管理下に入った後に複数の銀行が買収することを検討中と報じた。

米ファースト・リパブリック銀行に「第3の破綻」の可能性 株価暴落

毎日新聞 によるストーリー • 

ファースト・リパブリック銀行の支店=米カルフォルニア州サンフランシスコで2023年4月28日、ロイター© 毎日新聞 提供

 全米14位のファースト・リパブリック銀行(本店・カリフォルニア州)の破綻懸念が強まっている。28日の米ニューヨーク株式市場で同行の株価は一時、前日終値に比べ5割安の2ドル台に暴落、終値は同43・3%安の3・51ドルだった。3月上旬に米国で金融不安が始まる前、同行の株価は100ドルを超えており、当時に比べ95%以上価値が下がった計算になる。

 ロイター通信によると、米財務省や連邦準備制度理事会(FRB)など金融当局は28日、同行を支援するための緊急協議を始めたが、銀行救済には世論の反発が予想され、米中堅行の「第3の破綻」となる可能性がある。


 ファースト銀の経営不安が再燃したのは、24日に発表した1~3月期決算で巨額の預金流出が明らかになったためだ。3月末時点の預金残高は1044億ドル(約14・1兆円)で昨年末から4割減少。バンク・オブ・アメリカなど米大手11行が3月中旬に経営支援のため計300億ドルの無保険の預金をしたにもかかわらず大きく減っていた事態に市場が動揺し、株価は10ドルを割り込む水準に暴落した。

 米国では3月上旬に全米16位のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻した。急ピッチの利上げで保有国債の価値が下落する一方、預金保険制度で保護される上限(25万ドル)超えの預金が9割を占め、ツイッターなどのソーシャルメディアで信用不安の情報が流れた途端、一気に預金が逃げ出し、破綻に追い込まれた。全米29位のシグネチャー銀行も連鎖破綻し、信用不安は全米に拡大した。

 ファースト銀も預金保険制度の上限を超える預金が全体の7割近くを占め、預金が逃げ出しやすい構造。顧客の預金引き出しに応じるため値下がりした保有国債を売却すれば、SVBと同様に大きな損失が発生する恐れがある。市場では「第3の破綻先」との懸念が浮上し、SVBの破綻直後から株価が急落していた。

 米財務省やFRBは破綻行の預金全額保護や銀行への資金供給などの緊急措置をとり「米国の金融システムは健全で強じん」との認識を示してきた。しかし、第3の破綻が発生すれば全米で信用不安が再燃するのは避けられない。【ワシントン大久保渉】

米ファーストリパブリック銀、経営不安再び NY市場で株価4割下落

朝日新聞社 によるストーリー • 

米ニューヨークにあるファーストリパブリック・バンクの店舗=2023年4月28日午後、真海喬生撮影© 朝日新聞社

 米中堅銀行ファーストリパブリック・バンクが経営不安に陥っている。大量の預金流出で先行きへの懸念が高まり、28日のニューヨーク株式市場では株価が4割超も下落。複数の米メディアは、同行が近く米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に置かれる見込みだと報じた。

 ファースト銀は昨年末時点の資産規模が2126億ドル(約28・9兆円)と全米14位。管理下に置かれれば2008年のリーマン・ショック以降、銀行では米国で最大の経営破綻(はたん)となる。


 同行は富裕層向けビジネスを手がけ、預金保険の保護上限(25万ドル)を超える額を預ける顧客が多い。そのため、3月の米2銀行の破綻をきっかけに経営不安が浮上。預金を引き出す動きが加速した。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げで保有債券の価格が下がり、含み損を抱えていたことも不安要素となった。

 その後、いったん経営不安は落ち着いていたが、今月24日に発表した今年1~3月期決算で、預金が3月末時点で1045億ドル(約14・2兆円)と3カ月前から約41%減っていたことが判明。預金の減少を補うため、預金より高い金利でFRBなどから借り入れを増やさざるを得なくなっており、収益性への懸念が高まった。(ニューヨーク=真海喬生)

米ファーストリパブリック銀、再び崖っぷちに

2023.04.29 Sat posted at 12:55 JST

米サンフランシスコにあるファーストリパブリック銀行の店舗/Justin Sullivan/Getty Images

ニューヨーク(CNN) 米中堅銀行ファーストリパブリック・バンクの先行きは厳しそうだ。

ファーストリパブリック銀の株価は今週、約75%下落。24日発表の1~3月期の決算が期待外れだったことから銀行危機への市場の不安が再燃し、同行株からの資金流出を招いた。

27日には株価が小幅反発し、苦境の同行を救済する「ホワイトナイト」の出現に市場が期待を寄せていることが示唆されたものの、その後事態は悪い方向に転んだ。

政権情報筋は28日、CNNの取材に、ファーストリパブリック銀を救済する新たな計画はないと述べ、政府介入への期待を打ち消した。米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入る可能性が高いとの報道が相次ぎ、民間セクターの支援がまとまる可能性への楽観的な見方も崩壊。株価は約37%下落した。

ファーストリパブリック銀が経営破綻(はたん)するかどうかは依然として不透明だ。近く破たんする可能性もあるし、存続できる可能性もある。

ただ、資金注入なしでは存続は難しいとみられる。ファーストリパブリック銀はすでに先月、大手銀行団から多額の支援を受けた。当時はシリコンバレーバンクとシグネチャーバンクの相次ぐ破綻で投資家や預金者が地銀から流出し、金融セクターの健全性が疑問視される状況だった。

ファーストリパブリック銀の株価は今年に入り約97%下落している。

雲行きが怪しくなり始めたのは今週。1~3月期に預金残高が41%減り、1045億ドルに減少したと同行が報告したのがきっかけだ。アナリストが予想していた預金残高は1367億ドルだった。

マイケル・ロフラー最高経営責任者(CEO)は記者会見で預金の動きは3月末から安定していると述べ、動揺する株主を安心させようと努めた。大手銀行団から受け取った300億ドルを除き、4月4日時点で保険対象外の預金の倍の手元資金があるとも明らかにした。

だが、それでも投資家の懸念は収まらず、激しい売りが発生。ファーストリパブリック銀の株価は25日に50%下落し、その後も下落が続いた。

他の銀行の決算発表で追加の悪材料がなかったことから投資家の懸念が和らぎ、株価は27日に9%持ち直したものの、その後再び急落した。

【マーケットを語らず Vol.101】なぜ大手銀行はファースト・リパブリック銀行に預金したのか/米銀危機の本丸は?/「犯人」の足取りを追う

(今日のマーケット短歌)銀行と CMBS 痛みあり オフィスの変化 やむをえず


重見 吉徳 2023/03/23


刑事ドラマを見ていると、ときおり、犯人は犯行現場に戻ります。そして、証拠を隠そうと動きます。おうおうにして、犯人自身のそうした行動によって「何が問題なのか」「だれが犯人なのか」が明らかになってしまうものです。

今回の米銀の危機でも、大手銀行の行動によって、今回の問題の「本丸」がどこにあるのかがわかったような気がします。

(以下は、あくまで筆者の個人的な見解であり、所属する機関の考えではありません。)

  • 今回の問題の「本丸」は、(シリコンバレー銀行が破綻したきっかけとなった)金利上昇やスタートアップ企業、ベンチャーキャピタルではなく、(リモートワークの普及で使用価値が低下した)「オフィス用不動産」にあると筆者は考えます。

  • そのことは図らずも、米国の大手銀行によるファースト・リパブリック銀行への巨額の預金支援で明らかになりました。大手銀行の預金支援こそが「犯人の足取り」だと筆者は考えています。

  • ただし、オフィス用不動産の価格調整が起きるのは「古いオフィス、郊外のオフィスが中心」と見られます。新しく、設備が良く、地理的利便性の高いオフィスについては稼働率が高い状態が続くと見られます。

  • また、工場や物流施設、データセンター、集合住宅、ケア施設などについては、ファンダメンタルズは変わっていません。企業には引き続き、工場や物流施設、データセンターが必要ですし、家計には集合住宅やケア施設が必要です。ただし、今後の景気後退による循環的な影響は感じられるでしょう。それは、いつもそうです。

  • 話を戻すと、今後の痛み・損失は、米国リートを含む不動産の投資家というよりも、オフィスを中心とする商業用不動産への融資額が多い銀行、およびCMBS(商業用不動産ローン担保証券)の投資家の間で感じられる・認識されると筆者は考えています。

  • そのひとつの理由は、①米国リート市場に占めるオフィス用不動産の割合は低く、オフィス用不動産の主戦場は、銀行や機関投資家などのプライベート市場であるためです。

  • もうひとつの理由は、➁不動産融資はノン・リコース・ローンであるためです。言い換えれば、オフィス用不動産に投資をしているオーナーや投資家にとってみると、テナントや賃料収入が減って融資の返済が困難になる場合=デフォルトする場合には、担保になっている不動産を銀行やCMBSに渡すだけで、債権・債務関係は解消されます。たとえ担保価値が大きく落ちていても、オーナーや投資家が保有している他の資産まで差し押さえられることはありません。すなわち、損失は、銀行とCMBSの投資家に「パス・移転される」ことになります。

  • こうして、今後、銀行やCMBSは、リモートワーク普及によって以前よりも担保価値が低下し、デフォルトしたオフィス用不動産を受け取り、引当金などの損失を計上することになるでしょう。

  • 限られた公開情報(FRB、FDIC、NAREITのデータ)に基づいて仮想的に試算すると、銀行セクターの損失は、資本の8.7%(~13.2%)程度と見積もられます(→景気後退が他の融資に与える影響は除きます)。言い換えれば、銀行の資本の大部分に影響は与えないと見られます(→あくまで、筆者の仮想的かつ個人的な試算です)。

  • もちろん、住宅ローンやカード・ローン、企業の事業向け融資、集合住宅など、銀行によって融資先と金額の構成は異なりますから、損失の金額は個別に異なります。結果として、一部の銀行は、吸収合併されるか、資本増強がなされるでしょう。

  • 金融危機(=取り付けの連鎖)については、毎回と同様に、FRBや財務省、FDICによる預金の全額保護や流動性支援、部分的損失補償を含む合併支援によって防がれるはずです。

  • まとめると、「米国の銀行セクターで少なくない損失が認識される可能性があるものの、金融危機には至らない」と考えています。

  • 最後に、重要な点として、【次の図】に示すとおり、米国の銀行セクターは、1990年前後のS&L(貯蓄貸付組合)危機や、2000年代後半のリーマン危機を経て、資本を増やしてきています。大きな安心材料です。

では、時間をさかのぼって、犯人の足取りをたどってみましょう。

なぜ、米国の大手銀行はファースト・リパブリック銀行に預金したのか

みなさんは不思議に感じられなかったでしょうか。

「3月12日に米連邦準備制度理事会(FRB)が銀行の流動性支援プログラム「BTFP」を用意したのにもかかわらず、なぜ、16日になって、米国の大手銀行は、中堅銀行のファースト・リパブリック銀行に300億ドル(約4兆円)もの預金を実行したのか」についてです。

その理由のひとつは、同じ16日に、イエレン財務長官が上院の委員会での証言で、預金の全額保護は、シリコンバレー銀行とシグニチャー銀行の2行に対する例外的な措置との認識を示したことが挙げられます。「例外」と言われると、これら2行以外の大口預金者には不安が残ります(→21日になって、イエレン財務長官は、必要に応じ、他行でも預金を全額保護すると見解を修正したものの、22日には、全面的な預金保護は検討していないと述べています)。

実際には、問題は「預金保護の限定」にとどまりません。

シンプルに、大手行は、

  • BTFPでは、シリコンバレー銀行は救えても、ファースト・リパブリック銀行は救えない、

とわかっていたのです。さらに重要なことを言えば、

  • 今回の問題の「本丸」は、(シリコンバレー銀行が経験したような)「金利上昇による国債やMBS(住宅ローン担保証券)の損失」や「スタートアップ企業の資金枯渇」にあるのではなく、もっと別の、大きいところにある、

と認識していたのだと筆者は考えています。

実際、金融市場も「今回の問題はそれらに留まらない。それゆえBTFPでは十分ではない」と見透かしていたために、銀行株の売りが続いたのでしょうし、銀行株の続落を見た預金者の不安は解消されなかったために、預金の引き出しが続いたのでしょう。

BTFPでは、シリコンバレー銀行は救えても、ファースト・リパブリック銀行は救えない理由

【次の図】に、シリコンバレー銀行とファースト・リパブリック銀行の資産と負債の主要項目を示します。この2行は、ほぼ同規模の資産と預金額を持っています。

FRBの流動性支援プログラム・BTFPは、銀行が持っている「投資有価証券」を担保に、FRBが銀行に資金を融資する流動性支援制度です。「投資有価証券」全体ではなく、米国債や政府機関債、政府機関MBS・CMBS、地方債などの信用力の高い債券に限られます。

【上の図】のとおり、シリコンバレー銀行(資産2,117億ドル)の場合には、「投資有価証券」が資産の半分超を占めるために(→担保適格資産は約1,155億ドル)、仮に、預金(約1,731億ドル)の半分近くが流出しても、BTFPを利用すればFRBから資金を調達でき、その資金を預金の流出に充てられます。

他方で、ファースト・リパブリック銀行(資産2,126億ドル)の場合には、「投資有価証券」が資産の一部のみです(→BTFPの担保適格資産は約287億ドル)。このため、仮に、預金(約1,764億ドル)の5分の1超が引き出されてしまうと、BTFPで調達できる資金では対応できません。

すなわち、BTFPは、シリコンバレー銀行のように、あくまで「信用力の高い債券への投資規模が大きく、金利上昇によってそうした保有債券の価値が目減りし、それが不安を呼んで預金流出を招く銀行のみを救える制度」です。

仮に、預金者の不安が「投資有価証券」だけでなく、BTFPではカバーされない「融資」の部分にも広がっていれば、預金流出は止まらない可能性があります。そして、それが今回起きたと筆者は考えています。

この問題の「(とりあえずの)本丸」はどこにあるのか

BTFPでは問題が収まらないということは、問題は、「投資有価証券」だけではなく、「融資」にもあります。

融資の一部が焦げ付く可能性があるため、自己資本の部分が小さく評価される結果、銀行株が下落するのです。

では、その「融資の一部」とはどこか。

それは、商業用不動産向けの融資であり、中でも「オフィス用不動産向けの融資」に含まれると筆者は考えています。

なぜなら、逆に、オフィス以外の、家計向けや事業向けの融資、あるいは(オフィス以外の)商業用不動産向け融資については、(今後の景気後退による循環的な影響以上の)ファンダメンタルズに関する根本的な変化は起きていないと見られるためです。

参考までに、【次の図】では、米調査会社ギャラップ社が米国企業を対象に「リモートワークが可能な社員の労働形態」をヒアリングした結果を示しています。パンデミック後も、企業は「リモートワークが可能な社員」の8割近くに、リモートワークを利用させていると回答しています。

【次の図】では、「リモートワークが可能な社員」に「もし、あなたの会社がリモートワークの機会を提供しなくなったら、どのくらいの確度で転職を考えますか?」と尋ねた結果を示しています。リモートワークの機会が多い社員ほど、「リモートワークがなくなったら、かなり高い確度で転職を考える」と回答しています。

パンデミックの発生当初、企業は「パンデミック後には、従業員たちはみな、職場に戻ってくるだろう」と考え、オフィスの賃貸契約を更新したり、既存の賃貸契約を一時的に「サブ・リース」(転貸)しました。

しかし、パンデミックが実際に終わってしばらく経った現在、企業は「交替出社を含め、リモートワークは恒常的に続くため、以前ほどのオフィス・スペースは必要ない」ことを認識し始めています。オフィス用不動産の収益性は、リモートワークの普及により、恒久的に低下したと考えられるでしょう。

ただし、オフィス用不動産すべてで収益性が落ち、価格調整が起きるというわけではなく、収益性の低下と価格調整は「古いオフィス、郊外のオフィスが中心」と見られます。新しく、設備が良く、地理的利便性の高いオフィスについては稼働率が高い状態が続くと見られます。

【次の図】で、もう一度、シリコンバレー銀行とファースト・リパブリック銀行の資産と負債の主要項目を比較すると、ファースト・リパブリック銀行は、総資産に占める融資の割合が大きいことがわかります。

ファースト・リパブリック銀行については、FRBの流動性支援プログラム・BTFPがカバーする「投資有価証券」(約287億ドル)以上に預金が流出すれば、「融資」(1,660億ドル)の一部をローン市場で「投げ売り」する必要が出てきます。あるいは、預金流出が他行に広がれば、ローン市場全体への売り圧力が強まり、取引価格がファンダメンタルズ以上に下落する恐れが生じてしまいます。

米国の大手銀行は、(当然のこととして)「一部の銀行のオフィス用不動産向け融資が焦げ付く」と知っており、その問題が、ファースト・リパブリック銀行からの預金流出を「きっかけ」にして、無用に拡大・悪化するのを防ぐために、同行への多額の預金(300億ドル)を決定したと見られます。

「不動産」と言えば、「米国リート」を思い浮かぶ人も少なくないと思います。これについて、次節で考えます。

米国リート市場全体への影響は限定的。念のため、投資している米国リート・ファンドがどこに投資をしているかを確認しよう。

筆者は、米国リートでは大きな問題は生じないと考えています。3つの理由があります。

  1. まず、【次の図】に示すとおり、①米国のリート市場に占める「オフィス」の割合は限定的です【右の棒グラフ】。オフィスに融資をしているのは、銀行や機関投資家などのプライベート市場が中心です【左の棒グラフ】。


  2. 次に、【次の図】に示すとおり、➁オフィス・リートは、銀行などのオフィス用不動産融資に先んじて、既に大幅に調整が進んでいます。言い換えれば、工場や物流施設、集合住宅などの他のリート・セクターは既に「連れ安」の影響を少なからず受けているはずです。


  3. また、工場や物流施設、データセンターや集合住宅、ケア施設などについては、ファンダメンタルズは変わっていません。企業には引き続き、工場や物流施設、データセンターが必要ですし、家計には、集合住宅やケア施設が必要です。オフィスとは異なり、パンデミックがマイナスの影響を与えるといったことはありません。もちろん、今後の景気後退によって、循環的かつ一時的な悪影響は受けるでしょう。景気循環は避けられないものです。

ただし、米国リートに投資をしている方は、

  • 投資しているファンド・投資信託が、オフィス・リートにどの程度、投資しているのか、

  • リートの運用会社は、オフィス・リートへの投資を今後、どうするつもりなのか、

を確認しておかれることも良いでしょう。

今後の損失は、銀行とCMBSが引き受けることになる

今回の事態で、損失を受けるのは、

  • 銀行(→中小行の方が不動産向けの貸出残高が多い)、

  • CMBSの投資家、

  • オフィス・リートの投資家

の3者です。ただし、前節のとおり、オフィス・リートの投資家は既に大幅な損失を受けています。

また、【次の図】に示すとおり、CMBSでも少しずつ調整が始まっています。

いずれにせよ、今後、損失を受ける投資家は、

  • 銀行

  • CMBSの投資家

の2者と見られます。

損失を受ける主体が、「オフィス・リートの投資家」に加えて、「銀行」「CMBSの投資家」である理由は、商業用不動産のローンがノン・リコース・ローンであるためです。

オフィス用不動産のオーナー(≒レバレッジをかけてオフィスに投資している投資家)にとってみると、テナントが減って家賃収入が下がり、ローンを支払えなくなると=デフォルトすると、ローンの担保となっているオフィス用不動産を、銀行に渡すだけで「万事OK、万事終了」です。

ローンを支払えなくなっても=デフォルトしても、オーナー・投資家が持つ他の資産が差し押さえられることはありません。ただ「ギブアップ」すれば良く、これはビジネスですから、「もうからなくなったら、即ギブアップ」です。

実際、「ギブアップ」によるオフィス用不動産のデフォルトは少しずつ起きています。米大手メディアの記事を拾っておきます。

したがって、損失は、オフィス用不動産のオーナーではなく、

  • オフィス用不動産を担保に融資している(そしてこれから、テナントが入っていないオフィス・ビルを受け取ることになる)「銀行」か、

  • 銀行のバランスシートから切り離された融資債権を束ねた・証券化した「CMBS」に投資をしている投資家、

が受けることになります。

【次の図】は、商業用不動産と集合住宅を合わせたローンの延滞状況です(→米抵当銀行協会・MBAの資料から)。【左側】の「銀行融資に関する90日以上の延滞率」はまだ低水準です。言い換えれば、実際に延滞が増えるなら、損失・引当金の本格的な認識・計上はこれからです。

他方で、【右側】の「CMBSに関する30日以上の支払い遅延と差し押さえを含む延滞率」はやや上向いているように見えます。

(参考までの試算)米銀の損失はどの程度になるか

最後に、米国の銀行がどの程度の損失を計上する可能性があるのかについて、米連邦準備制度理事会(FRB)、米連邦預金保険公社(FDIC)、NAREITのデータに基づき、次のとおりに試算しました。

(あくまで限られた情報に基づくものであり、仮想的かつ個人的な試算であることをくれぐれもご承知おきください。)

  • 仮に、米国の銀行が、オフィス用不動産に対するローンについて、33%の引当金を積むと、銀行部門全体の資本2兆ドル超のうち、約1,932億ドルの損失になると試算されます(→自己資本に対する比率は約8.7%)。

  • 33%ではなく、(オフィス・リートのピークからの下落率と同様に)50%の引当金を積むと、銀行部門全体の資本2兆ドル超のうち、約2,928億ドルの損失になります(→自己資本に対する比率は約13.2%)。

  • (ただし、以上の数値はいずれも、景気後退によって他の融資でも引当金が積まれることは考慮していません)。

これらの試算が正しいと仮定すれば、銀行の資本の大部分に影響は与えないと見られますが、オフィス用不動産向け融資が多い、一部の銀行については、吸収合併されるか、資本増強がなされるでしょう。

付録として、試算の方法を記しておきます。

  • まず、FRBの商業銀行統計によれば、2月末時点で、(オフィス用不動産向け融資が含まれる)非農業・非居住用不動産向け有担保貸出の残高は、1.7兆ドル/0.5兆ドル/1.1兆ドル(米国全体/うち国内大手行/同中小行)。残りは国外行。

  • (上を含む)不動産融資全体の残高は、5.4兆ドル/2.4兆ドル/2.8兆ドル(米国全体/うち国内大手行/同中小行)。残りは国外行。

  • (さらに上を含む)融資の残高は、12.0兆ドル/6.4兆ドル/4.5兆ドル(米国全体/うち国内大手行/同中小行)。

  • (さらに上を含む)総信用(融資+証券投資)の残高は、17.5兆ドル/10.3兆ドル/5.9兆ドル(米国全体/うち国内大手行/同中小行)。

  • したがって、中小行の不動産ローン、中でも非農業・非居住用不動産向け有担保貸出は、割合が高い(→【次の図】を参照)。


  • 同統計では、オフィス用不動産向け融資の割合が明らかではないが、先に示したNAREITのレポートに従うと、プライベート不動産市場でのオフィス用不動産の比率は24.5%である。

  • ただし、NAREITのプライベート不動産市場には「集合住宅(27.9%)」が含まれる一方で、FRBの統計では集合住宅は別立てであるため、これを除くと、プライベート不動産市場におけるオフィス用不動産の割合は33.9%である。

  • この割合をそのままFRB統計に適用すると、オフィス用不動産への貸出残高は、0.6兆ドル/0.17兆ドル/0.4兆ドル(国内全体/国内大手行/国内中小行)と推計される。

  • このうちのどの程度について引当金を積むことになるかを考えてみる。

  • ①仮に、33%の引当を実行すると、引当金は1,932億ドル/547億ドル/1,303億ドルとなる(国内全体/国内大手行/国内中小行;直近の引当金/融資比率を用いて、既に引き当てられている分を考慮)。

  • ➁仮に、50%の引当金を積むと、2,928億ドル/829億ドル/1,974億ドルとなる(国内全体/国内大手行/国内中小行;直近の引当金/融資比率を用いて、既に引き当てられている分を考慮)。

  • FDICの統計によれば、2022年10-12月期における、米国の商業銀行の自己資本(Tier1リスクベース資本)は約2兆ドルであるため、損失は、33%引当の場合には、自己資本の8.7%、50%引当の場合には自己資本の13.2%と見積もられる。

  • 先の商業用不動産の融資残高を考えると、損失は国内の中小行を中心に認識される。

  • ただし、この試算では、景気後退で全般に引当が増えることは考慮していない。

  • 最後にCMBS市場についても同様の試算を行うと、米抵当銀行協会(MBA)のデータによれば、2022年第3四半期におけるCMBS市場(集合住宅を含む商業用不動産;CDOや他のABSを含む)の規模は約6,100億ドルである。先のNAREITのデータに従って、オフィス用不動産の割合を24.5%とすると、33%の損失計上では8.1%程度が、50%の損失計上では12.3%程度が損失を受けることになる。この試算が正しいと仮定すれば、弁済順位の低いところに影響が及ぶことになる。

3月の金融不安でアメリカの地方銀行の一つ 約10兆円の預金流出

2023年4月25日 11時55分


先月、アメリカで銀行破綻が相次ぎ金融不安が広がっていたさなか、経営への懸念が高まっていた地方銀行「ファースト・リパブリック・バンク」は、およそ10兆円もの預金が流出していたことを明らかにしました。

これは、西部カリフォルニア州に拠点を置く「ファースト・リパブリック・バンク」が24日の決算発表で明らかにしたものです。

それによりますと、3月末時点の預金残高は、去年の年末時点と比べて719億ドル、日本円でおよそ9兆6000億円減少しました。

銀行の預金全体のおよそ4割が流出したとしています。

先月は、「シリコンバレーバンク」など、銀行の相次ぐ経営破綻で金融不安が広がっていました。

マイケル・ロフラーCEOは決算説明会で「前例のない預金の流出を経験した」と述べています。

当時、経営への懸念が高まった「ファースト・リパブリック・バンク」は、11の大手金融機関から経営への支援策として、合わせて300億ドルの預金を受け取りました。

アメリカのメディアは、これを除けば1000億ドル、13兆円を超える預金が流出していたと報じていて、金融不安に伴う預金流出の速さが改めて示された形です。

銀行ではコスト削減策として、ことし6月までの3か月間に従業員をおよそ20%から25%減らす見込みだとしています。


参考文献・参考資料

ファースト・リパブリック銀、公社管理下に入る可能性…リーマン後最大の米銀破綻の恐れも (msn.com)

米ファースト・リパブリック銀行に「第3の破綻」の可能性 株価暴落 (msn.com)

米ファーストリパブリック銀、経営不安再び NY市場で株価4割下落 (msn.com)

米ファーストリパブリック銀、再び崖っぷちに - CNN.co.jp

なぜ大手銀行はファースト・リパブリック銀行に預金したのか/米銀危機の本丸は?/「犯人」の足取りを追う | マーケットを語らず | 投資信託のフィデリティ投信 (fidelity.co.jp)

3月の金融不安でアメリカの地方銀行の一つ 約10兆円の預金流出 | NHK

米ファースト銀行、3行目破綻か 「公的管理準備」と報道 (msn.com)

ドーパミン - Wikipedia

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