出費の痛みを少なくしたい(販売心理学①)
夜、友人と飲みに行き、最後の会計時に金額を見て、ふと思う。
「思ったより高いな」
気分よく、飲み食いしたが、思いのほか、飲みすぎたのか、思っていたより売価が高かったのかもしれない。
「思っていたより高い」「払う金額がそもそも高い」その状態で、会計時に現金を支払う時に人は心に出費の痛みを感じます。
カジノはなぜ現金ではなくチップで賭けるのか?それはチップを使うことで、お金を払う感覚を忘れさせるためです。100ドル相当のチップと100ドル札では、賭け手の気持ちは変わります。現金だと出費の痛みを感じるが、チップだと大胆に賭けることができるのです。
出費の痛みとは、何かの代金を支払う時に感じる何らかの形の精神的苦痛のことです。人はこの痛みを緩和させるために、現金ではなく、クレジットカードや電子マネーで支払おうとします。出費自体は変わらないはずなのに、その場で現金を払わない方が痛みは少なく感じるのです。
通販での買い物は出費の痛みを感じづらくします。実店舗で現金払いをするよりもオンライン上でクレジット決済をする方が支払いの実感が薄れるためです。代引きや後払いでの購入の場合には後日、痛みが発生しますので、販売側はクレジット決済の変更を促す場合もあります。
日本クレジットカード協会の調査(「現金とクレジットカード間の購入単価格差に関する調査」/2017年度)によると、支払いをクレジットカードで行う人は現金で行う人より1.7倍多く使うという結果が出ています。同じ1万円でも現金とキャッシュレスでは感じ方が違うのは間違いないようです。
https://benesse.jp/kyouiku/201912/20191210-1.html
出費の痛みを理解している企業は様々な施策を講じています。
スターバックスが発行している「スターバックスカード」、キャッシュレスで利用できるプリペイドカードです。1枚のカードに1,000円から30,000円まで、金額を繰り返し入金でき、更にWeb登録するとスターバックスリワードに参加することができます。利用客にとっては、お金をチャージした時点で心の中で支払いは終わっています。利用時に出費の痛みを感じることがない上に、ポイントも貯まるのでお得感も得られることができます。
Amazonを利用する方であれば便利な1クリックでの購入はご存知のはずです。クレジットカード支払いのAmazonで利用者は欲しい商品をクリック1回するだけで、購入完了します。では、この1クリックについて1997年に特許を申請していたことはご存知でしょうか?Amazonは1999年~2017年までこの技術を特許で守っていました。APPLEはAmazonに特許料を支払い、1クリックの技術を利用していました。この1クリックでの購入がいかに出費の痛みを感じさせないかが理解できる事例です。
出典元のサイト
https://forbesjapan.com/articles/detail/14817
ある人気旅館の取り組みです。この旅館では独自のクーポン券を販売していて、8,000円払うと1万円分のクーポン券をもらうことができます。お客様は2,000円の得をしますし、旅館も1万円以上の売上を見込むことができます。旅館は頻繁にリピートする施設ではないので、クーポン券は使い切って帰るお客様が多いためです。
筆者が以前、利用したアンダリゾート伊豆高原での体験をお伝えします。きっかけは親しい知人が何度もリピートしているホテルがあるという話を聞いたことでした。ネットの口コミ評価も高く、その要因を知りたくて、行ってみることにしました。このホテルのターゲットは若いカップルか小さい子供のいる主婦です。
まずチェックイン時に支払いを済ませると、宿泊費の20%にあたる6,000円分のクーポン券をもらいました。この券は次回宿泊時もしくは当日の食事やお土産のケーキに利用できます。施設内にあるオプション(ダーツ、卓球、カラオケなど22種類)が無料で利用できます。さらに、夜の食事、その後のバータイムではドリンクが飲み放題です。仮に、クーポン券を全額利用すると共に、夜の食事とバータイムでお酒を何杯も飲めば、この分の料金は宿泊費から引かれた感覚になります。
通常、ホテルを利用する際には、食事の際のドリンクやオプションは別料金であることが多く、利用と共に出費が増えていきます。アンダリゾート伊豆高原の場合には、チェックイン後はドリンクもオプションも利用するほど、元を取る感覚になるので、お得感が得られます。
ホテルや旅館では、施設内の売店、飲食店の支払いは部屋番号を伝えれば、その場で現金で払わなくても良い対応をしているところが多くあります。これも出費の痛みをなるべく感じさせない取り組みです。
高単価の商品やサービスを提供しているお店はこの出費の痛みに対して敏感です。いかに痛みを感じさせないようにするか、様々な工夫をしているのです。
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