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ここは風街、台湾の街角で

ここは風街。びゅうっと吹けば、スカートが揺れる。街角からは八角が香り、漂うスパイスの香りで鼻の奥がつんとする。ガヤガヤと聞こえる異国のことば、所狭しと並ぶ商店。果物に野菜、鶏の頭に魚の頭。いくら目を見開いても足りないほどに、この街は鮮やかで美しい。

今わたしは台湾に滞在している。ひと月過ごすねぐらは、"風城"との異名を持つ、新竹という街だ。風の強い、美しいこの街。わたしにとっての風街を、ようやく見つけたような気がしている。





台湾を好きだと思ったのは、すでに行きの飛行機の中だった。隣に座ったおばさまが中国語でバーっと話しかけてきたのだけど、わたしはソーリーを繰り返すしかない。すると、急に日本語で「高菜おにぎり、食べてもいいと思うか?空気を読みます!」と、おばさまは宣言。わたしも、メイビーオーケー…?と返事。持ち込みがダメなLCCで、CAさんの目を盗んでこそこそ食べるおばさまを見てクスクスしてしまう。きっと、楽しい国なんだろうな、そう確信したフライトだった。

台北の桃園空港に降り立つと、恋人が「歓迎你来台湾!」と書いた大きな紙を掲げていてくれた。恥ずかしかったけれど、それよりも嬉しくって思いきり抱きついた。久しぶりの、彼の温度だった。

台湾についてから、焦るようにたくさん食べた。一ヶ月も滞在する癖に、ぜんぶ食べたい!モードになってしまって爆食い。恋人に笑われてしまうわたし。胡椒餅、葱油餅、牛肉麺、牡蠣オムレツ。スパイスたっぷり、時には塩と油だけ。台湾の味は濃くて甘くて、あっさりしてる。住むなら胃が3つくらいほしい。

なにを食べても美味しいのは間違いないのだけど、わたしの印象はちょっと違う。

はじめの一口は、ん?と感じる。食べ慣れない味が口に広がって、甘すぎる?しょっぱすぎる?なんて悶々とする。続いてもう一口、なんだか慣れてきて美味しくなってくる。さらに3口目は、もうすっかりこの味の虜!そうやってどんどん癖になってゆく。スパイスも味わいも、この国でしか味わえない。数時間経てば、また食べたいなあと指を咥えることになる。

台湾は癖のある、愛すべき街だ。




台湾を旅行する上で最も大事なことがある。それは、自分の中で表現できる最大限の困った顔で、ソーリーを繰り返すことである。

全然台湾の言葉がわからないわたし。買い物するのにも一苦労。「ポイントカードありますか?」「袋いりますか?」「会員ですか?」など中国語で尋ねられる。そんな時大事になってくるのが、"困った顔でソーリー"である。顔は困っていればいるほどいい。台湾のひとたちはほんとうにやさしいから、困った顔をしていると、なんとなく雰囲気で察してくれる。

あともうひとつ、大切なスキルがある。それは道を渡るとき「わたしが最優先です!」という顔をして堂々と渡ることである。信号のない横断歩道や歩道のない道では、バイクもタクシーも滝のようにやってくる。台湾はアジアの中ではマシな方だと思うけれど、それでもみんな高速でブイブイ言わせている。そこを渡るために大切なのは、とにかく堂々とすること。 

この2つのスキルさえあれば、台湾では楽しく生きていける(と思う)。




台湾の夜は、きらきらしている。屋台も看板も光っていて、人々で溢れる活気のある夜だ。バーに行けば美味しいお酒を出してくれるし、雰囲気のいいお店もたくさんある。

恋人と手を繋いで街を歩けば、なんだかどこまでも歩ける気がしちゃう。どこに行っても美味しい匂い。タピオカ入りのミルクティーに、丸ごとスイカジュース。ジャスミンティーに東方美人茶。夜のお供は選び放題だから、わたしたちは飲み物を片手に街と遊ぶ。

風が髪をなびかせて、セットした髪はいつもぼさぼさ。暑くて汗をかいてしまうし、お化粧も落ちがちだ。けれど、それ以上に強く吹く風がいつだってわたしの心を揺らす。美しい街を吹き抜ける風に身を任せれば、この街のやさしさが見えてくる。

口づけを交わし合って、恋人と異国の地にいる不思議さを思う。日本で出会ったわたしたちが、ことばも知らぬ国で愛を紡ぎ合う。どの地でも、ひとは生きていて、愛しあう。当たり前の美しさを、忘れてしまいがちな美しさを。





まだまだ一ヶ月は長い。これからこの街のたくさんの顔を知って、たくさんの人と出会いたい。来月紡ぐことばはもう、きっとこの街の言葉だろう。愛を紡げますように。

読んでくれてありがとう!シエシエ!

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