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森宮さんを好きになるための小説だ|『そして、バトンは渡された』@つじりの図書室


映画の公開に合わせて、瀬尾まいこ 著『そして、バトンは渡された』という小説を以前に読んだ。


主人公である優子は、幼少期から高校生の現在に至るまで計4回も親や名字が変わるという普通の人から見たら複雑な家庭環境で育った。

親が変わる、名字が変わる、片親になる…
他人から見たら、どれも不幸だと感じる環境だ。

だけど、優子は不幸ではなかった。
血は繋がってなくても、
住む環境が変わっても、
バトンを受け取った人たちはいつも
優子を愛してくれたのだ。

**

そういえば僕も幼少期に3度、名字が変わったことがある。

その時は年中〜小学生低学年くらいの時だったから「3回も名字が変われるなんてラッキー」くらいに思ってた。(周りの子は変わらないのに!)

僕の場合は、3歳くらいのときに父がいなくなり、6歳くらいの時に新しい父がきた。

新しい「お父さん」とはいえ、赤の他人だ。
「家族」というにはまだ脆く、とつぜん家庭の中に「社会」が出来たような感覚だった。

だから「一歩下がって状況を見る」「ワガママを言わない」「相手のことを考えて話す」などの能力、というか癖みたいなものは、そういった家庭環境で養われた気がする。(優子にも似たような所があって、すごく共感できた。)

*

僕が結婚するとき、
母から「本当のお父さんに会いたい?」と聞かれたことがある。

これで「うん、会いたい」と言えば、会えるのだろうか?と少し興奮もしたけれど、僕は断った。

ここまで育ててくれた今の父に申し訳ないような気がしたから。

*

結婚式の日。
新郎側の父による謝辞のとき、父はこれでもかというくらい泣いていた。
それでも挨拶をしっかりと話し切った。

正直そこまで仲良くはなかったけれど、そのとき僕は初めて血の繋がってない父からの愛、みたいなものを感じ取った。

**

最後の森宮さんの一人称で進む章は、
僕のこのエピソードと重なって、
すごく胸が温かくなった。

幼少からの優子の境遇、
森宮さんとの生活、
学校、恋愛、受験、
この小説の優子にまつわる全ての物語は、
最後の森宮さんの一人称に繋がるためにあったんだと思う。

梨花が言ってた。
優子ちゃんの母親になってから、明日が二つになったって。
親になるって、未来が二倍以上になることだよって。
優子ちゃんと暮らし始めて、明日はちゃんと二つになったよ。
自分のと、自分のよりずっと大事な明日が、毎日やってくる。
すごいよな。

これは、この小説で一番好きな森宮さんのセリフ。

親が変わる、名字が変わる、片親になる…
一見大変なことだけど、
バトンを渡された人たちが、
大事にバトンを握っていれば、なにも不幸ではないのだ。

早瀬くんには、
森宮さんから受け取ったバトンを
大きな未来へ繋いでほしいものである。


それでは、また。


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