『嗣永伝 NO.8』 嗣永の自己紹介というか、活字に苦手意識を持っている人間が、自身で小説を書くようになった経緯を語っていく。
noteと出逢ったぼくは、『蝶々と灰色のやらかい悪魔』の投稿を開始する。
『蝶々』の投稿をはじめてから、まあ、それなりに、読んでくれる人はいたし、スキをしてくれる読者も増えはじめ、好意的なコメントもちょこちょこ貰えるようにもなっていた。
そのときはじめて、文学賞への応募だけが、小説家になるための道ではないのではないか、と思うはじめる。
それ以前に、文学賞に対する疑問を持っていた。
一人の編集者なのか、数名の編集者の目によって(何名かは知らないが、少人数の人の目によって)、作品の優劣を判断され、当選だの落選だのを決められる、そのシステムに違和感のようなものを抱いていた。
作品はもっと多くの人に、読んで貰うべきだし、それを元に優劣を判断されるべきだと。
それにこの多くの娯楽に溢れた世の中で、紙媒体の小説の需要も減少していっている中(それ以外の媒体も需要が減少傾向にあるので、べつに小説に限ったことではにないが……)、紙媒体で小説を売ろうとすれば、業界内で少ないパイを奪い合うことになるので、必然的に原作者である作家が手にするインセンティブも少なくなる。
そんな出版業界におんぶにだっこの現状で、小説家が食っていこうと思えば、至難の業だ。ほんの一握りの選ばれし運と才能を持った、たぐいまれな文章力やアイデアで勝ち残ることのできる、小説家になるために生まれてきたような、2、3百万人に一人の逸材だけだろう。
そんな無謀な挑戦をしようと思う人のほうが、希だ。
それは、そうとして、自分の作品を投稿できるプラットホームを見つけることができ、だんだんと転職先の仕事にも慣れ、今の住んでいる家に引っ越しも一段落し、過去の文藝賞の落選への傷も少しずつ癒えはじめたころ、何かの拍子に妻が、「また、小説書いてみたら?」と、そんなことを言いはじめた。
書きたい題材は2、3個ストックがあったが、今、書きはじめて、ぼくの求めているクオリティーに書き上げられる気がしなかったので、「んー、どうだろう? そのうちね……」くらいの返答しかしていなかったのだが、何を思ったのか妻が、「あなたの書く、官能小説を読んでみたい」と、突拍子もないことを口にする……。
「は? か、官能小説?」
いやいやいやいや……、読んだこともなければ、書こうと思ったこともないわ!?
初めは断る気満々だったのだが、あまりにしつこく言われるので、冒頭だけを書いてみることにした。といっても、読んだこともないものを、書けるとも思えなかったので、とりあえず、どんなモノなのかを確認するために、試しに官能小説を書店に買いに行くことにした。
妻と出かけた際に、書店で官能小説を吟味する。一時間ほどかけて、あーでもないこーでもないと選んだのは、3冊だった。で、レジを確認してみると、見事に店員は女の子だった……。
買いづらい……。
まあ、エロ目的ではなく、勉強のためだと自分に言い聞かせ、その本を持ってレジに向かう。3冊も官能小説をまとめ買いする男性というのは、店員の女の子からどう映ったのだろう?
背後を確認すると、妻は遠くのほうで、本棚の裏に隠れて、他人のフリを決め込んでいた。言い出しっぺのくせに、なんてヤツだ。人間性を疑う……。
そして、とくに店員の女の子から冷ややかな目を向けられることもなく(ほんとは軽蔑されていたのかもしれないけど、それを表に出されることもなく)、官能小説の会計を済ませ、家に持ち帰ってから、買ってきた官能小説を読んでみることにする。
官能小説には、官能小説独特の表現があることに気づく。
「はー、すごい表現だな〜。こうやって書くのか〜……」
なにせ、初めてちゃんと読む官能小説である。目新しさと、文章に対する貪欲な好奇心というか向上心から、そんな感心をしながら、読みふけっていたのを覚えている。
さっそく自分の文章にも取り入れてみようと、てきとうに小説の冒頭を書いてみる。作品の善し悪しなど関係なく、自分にも官能小説なるものが書けるのかを、純粋に試してみたかった。
そんな気軽な気持ちで書きはじめた。
妻に読ませてみると、「お、前のよりイイじゃん」と余計なことを言う。いちいち感に障る言い方をしてくるところが腹が立つ。純粋に褒めればいいのに、いつも一言余計である。
ということで、書きはじめることになったのが、後に『翠』となった作品である……。(ちなみにまだこの作品を読んだことがない人もいると思うので、ここで改めて、『翠』の一話目の作品を載せておきたいと思います。興味があれば読んで頂けると嬉しいです)
取材もプロットもなし、設定もなしで、書き進めてしまったため、話の本筋グラグラだし、設定もブレブレだし、ストーリーも過去へ遡ったり、視点はコロコロ変わるし、場面も安定してないし、今の読書の方には、ほんとにお見苦しいというか、読み苦しい作品とは思いますが、これまで一話から読んでくださっている読者の方には感謝しかないです。
ここで、改めてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございますm(__)m
予定では、もうすぐ物語も佳境を迎えるので、最後まで読んで頂けると幸いでございます。もうしばらくお付き合いください。
次回へ続く……
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?