シロが教えてくれたこと
#私の作品紹介 #シロとの出会い#命#キズナ#親子#ねこ
10.シロの異変
「シロ、ただいま〜」
幼稚園から帰ると真っ先にシロに挨拶をして頭を優しく撫でるのが日課になっていた。
ただ、シロも随分学習したようで、みさが帰ってくると長い話を聞かされるとわかっているのか、寝たふりをしたり、どこかに隠れたりすることも度々あった。
やっぱり、ねこは気まぐれなのかな。
シロも同じなのかな。
今日もいつものようにシロがどこかに隠れているのか、シロの姿がみえない。
みさは手洗いを済ませてから服を着替え、お母さんが用意してくれたおやつを片手に、シロを探していた。
食いしん坊のシロにはおやつで釣るしかない。
みさもシロとの何気ないやりとりを楽しんでいた。
「シロ、シロ、おやつだよ。」
『おかしいなぁ、いつものシロなら顔を少しだしてくるんだけどな。』
と思いながらシロを探す。
みさの家も普通の間取りでファミリーサイズの家だから、全部屋探してもそんなに時間はかからない。
ある程度のところでいつもシロは御用となる。
「シロ、シロ、どこにいるの?」
と呼びかけながら探す。いつもならもう見つかってみさの腕の中なのに。
みさは少し不安になっていた。どこに行ったんだろう。いつもより念入りに探すことにした。
観葉植物が置いてある後ろやソファーの下をのぞきこんでみたりした。そして、やっとの思いでソファーの下でうずくまっているシロを見つけた。
「あっ、シロがいた。シロこんなところに隠れていたの。も〜心配したんだから。」
「シロ、一緒におやつ食べるよ。」
と話しかけてみたけれど、シロは反応しない。明らかにおかしい。いつものシロじゃない。
息はしているが、なんだか苦しそう。
「シロ、シロ、どうしたの?」
みさがあまりにも大声で叫んでいたので、お母さんはキッチンからみさの元に飛んできた。
「みさちゃん、どうしたの?そんな大声だして。」
「だって、シロがおかしいから。絶対いつものシロじゃない。お母さんいつもの病院に早くシロを連れていって。」
お母さんもシロの様子をもう一度確認してみた。
確かにみさの言う通りだった。
夕飯の支度はそのままにして、お母さんは、すぐに近くの動物病院に連絡した。
みさは、その間にシロを動物病院に連れて行く準備をした。
急いで車に乗り込み、動物病院に向かうこと5分。
ようやく病院についた。みさにはとても長く感じられた時間だった。
獣医さんから、説明を求められる前にみさは、
「先生、シロが変なの。助けて。お願い。」
と必死に助けを求めた。
先生は冷静な口調で、
「みさちゃん、シロちゃんを診てみるから、少しだけ向こうの待合室で待っていてね。」
と話すと、日中一緒にいたお母さんにシロの今日の様子をききながら、シロの体をゆっくり順に触れていった。
先生は看護師さんにレントゲンの準備を指示した。
先生はお母さんに、こんな質問をしていた。
「シロちゃんは、よく、ひもでじゃれたり遊んだりしていませんか?」
確かに、シロはひもが大好きでよく一緒に遊んでいた。先生の予想では、ひもか何かを食べてしまったのではないかと。だから、レントゲンを撮ることにしたのだった。
シロは辛いのか動くことなく、大人しくしていたためレントゲンはスムーズに終わった。
お母さんとみさは、先生に呼ばれてレントゲンを一緒にみた。
シロの体にひものような長い影が写っている。
先生の予想通りであった。かなり長めのひもだと思われたため、緊急手術となった。早く取り除かないと命に関わるからである。
その動物病院は手術もできる大病院であったことが救いであった。
みさは、その時の気持ちは、いっぱいいっぱいで気づくことができなかったが、後になってやっぱり『奇跡』だと認識するのだった。
腕が良いと評判の先生だから、もちろん手術は成功。
もう周りは真っ暗になっていた。陽が暮れていた。
どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。
シロは少しの間、動物病院に入院することになった。
あごひげが自慢の優しい先生から、みさはこう告げられた。
「みさちゃん、シロちゃんはもう大丈夫だから安心してね。でも、シロちゃんが何だかおかしいってよく気づけたね。みさちゃんがいつもシロちゃんをしっかりみてあげてるからだね。みさちゃんが気づいてくれたから、シロちゃんは助かったんだよ。ありがとうね。」
先生はそういうと、みさの頭をゆっくりと優しく撫でた。
「あとね、これからはシロちゃんが食べてしまいそうなひもは見えないところに片付けておいてね。これは、家族みんなで気をつけてあげてね。また食べちゃうとみんなが悲しいからね。」
みさは、初めてのことで気が動転してか、先生の言葉をきいた途端に涙が溢れ出ていた。
どうやら、シロの異変に真っ先に気づいたのが、みさであることを話していのはお母さんだった。
手術後のシロはすやすや眠っている。
呼吸も安定している。
みさはほっと息をつき、緊張がほぐれたような様子だった。
そのままシロを先生にお願いして、お母さんと車に乗って帰宅した。
久しぶりのシロのいない夜。なんだか、心にぼっかり穴が空いたような寂しさであった。
まだ5歳のみさには、なかなか現実を受け入れるのが難しい出来事だったようで、知らぬ間に寝てしまった。
お母さんはいつものようにお父さんに話しかけていた。
「みさちゃんはたいしたものよ。シロの異変に気づけたんだから。私にはできなかったの。あの子は成長したわ。シロが来てくれて本当によかった。」
「大変な一日だったね。お母さん、いつもありがとう。」
リビングには穏やかな空気が流れている。
昼過ぎの慌ただしさがうそのよう。
みさちゃん、今日はゆっくり眠ってね。
シロを助けてくれてありがとう。
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