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性的マイノリティの平均収入はなぜ低い傾向があるのか?

A. (分析に基づく仮説) :

性的指向に関しては、両性愛者の場合は、雇用形態や学歴の傾向の違いでは説明できない要因がある。同性愛者とその他の性的指向を持つ人の場合は、雇用形態や学歴の傾向の違いが間接的に作用している。トランスジェンダーの場合は、出生時に割り当てられた性別が女性なら、年齢、最終学歴、雇用形態が収入の低下に間接的に作用している。出生時に割り当てられた性別が男性なら、その他の要因が作用している。
(注)論文筆者は、実施された調査方法は偏りが生まれやすく、分析に際しデータ補正は行われていないため、上記の考察は結論ではなく、仮説と考えるべきとしている。また、個人的には、「性的マイノリティ」、「同性愛者」、「両性愛者」などの言葉はアカデミアや行政などで使われる印象があります。「LGBT」、「クィア」、「レズビアン・ゲイ」、「バイセクシャル」などの言葉の方が、当事者が自分たち自身の言葉として使っている印象があり、個人的には好きなのですが、今回の論文では上記の言葉を使われていたため、定義のずれを避けるためにそのまま使っています。

データ

「LGBTに関する職場環境アンケート 2014 」
調査方法: インターネット調査
対象者: 日本の職場で働いたことがある人対象
拡散方法: SNS, 当事者団体のメーリングリスト、調査団体の顧客への協力依頼
調査期間: 2014年 2月から3月
回答者数: 1,815人

分析方法

重回帰分析を2つのモデルで行い、統制変数を追加することによってβの有意性が変わるか調べる。

著者は数値の読みとりに言及していないが、このモデルはLog-Linモデルになる。読み取るとすれば、例えばβ3が0.03の場合、「年齢が1歳上がると、収入が3%上がると予測される」ということになる。

分析結果

性的指向

同性愛者

年齢、最終学歴、雇用形態の条件が同じ場合、出生時に割り当てられた性別が女性の同性愛者と異性愛者の収入差は統計的に有意でない。出生時に割り当てられた性別が男性の場合も然り。

→同性愛者の収入が異性愛者の収入よりも平均的に低いのは、同性愛者に、収入が低くなる傾向がある最終学歴や雇用形態の人が多いことが作用しているからという仮説が考えられる。(コメント: 最終学歴と雇用形態については納得なのだが、年齢は最初のモデルでも制御したほうが良さそう。)

両性愛者

出生時に割り当てられた性別が女性の両性愛者の場合は、異性愛者との収入差は、年齢、最終学歴、雇用形態の条件以外の要因が作用している。(出生時に割り当てられた性別が男性の両性愛者はサンプルサイズが小さかったため、有意差がでなかった可能性がある。)

その他

その他の性的指向については、出生時に割り当てられた性別に関わらず、年齢、最終学歴、雇用形態が同じ条件の場合でも異性愛者と比べた収入の差に有意性がある。-> 更なる検討が必要

トランスジェンダー

出生時に割り当てられた性別が女性

年齢、最終学歴、雇用形態の条件が同じ場合、シスジェンダーとの収入に有意差はない。年齢、最終学歴、雇用形態が収入の低下に間接的に作用していると考えられる。

出生時に割り当てられた性別が男性

年齢、最終学歴、雇用形態の条件が同じでも、シスジェンダーに比べて収入が低い傾向にある。年齢、最終学歴、雇用形態以外の要因が収入の低下に作用していることが考えられる。

このことから、出生時に割り当てられた性別によって、経済的格差が生まれる要因が異なることが推察される。

読んで考えたこと


1. 年齢はモデル1で入れてもよさそう。収入が従属変数なら、その際に年齢と収入の関係は二次方程式で考えても良さそう。
2. 交互作用を分析できそう。異性愛女性は20代後半から40代前半に非正規雇用が増える傾向がある。非正規雇用であるか否かを従属変数にして、年齢、性的指向と二つの交互させた変数を独立変数にして分析したら、女性の非正規雇用と年齢の関係が性的指向によって異なるのか調べられる。多分、非異性愛女性の場合は20代後半から40代前半の急激な増加はあまり見られなくて、学歴の影響があれば、若いうちから非正規の割合が高くなる。もしそうなったら、非正規雇用の労働環境改革みたいな政策を考える上でも、なぜ非正規雇用が選ばれるのかが性的指向によって(妊娠出産育児のしやすさが異なるため)異なり、異なる支援が必要、みたいなことにならんかな~。

参考文献

平森 大規。(2015)。「職場における性的マイノリティの困難 ――収入および勤続意欲の多変量解析」『Gender and Sexuality』 10 91-118。


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