『ウルトラセブン』の音楽はやっぱり最高
いにしえのテレビ番組『ウルトラセブン』の音楽は、テーマ・曲中音楽ともほんとに素晴らしいなぁと思い続けていた。冬木透+青山通著『ウルトラ音楽術』を読んで、その素晴らしさの理由がすごくたくさんわかったので、一部を拙い感想として記しておこうと思う。
『ウルトラセブン』については、少なくともたわくしが直接知っているファンがたいていはまっているのが、最終回でダンがアンヌに自分の正体を明かした瞬間に、シューマンのピアノ協奏曲第1楽章冒頭が流れる場面だ。あれはもう本当に印象的で、折に触れて、場面のイメージが音楽とともにたわくしの脳裏にも浮かび出てくる。きっとそんな人は、世の中には多いだろうなぁと推察している。
その選曲が、本来なら作曲者である冬木透さんが自分で作曲した曲を使ったほうがいいと思っていたことや、制作関係者の間で多少の誤解を交えてシューマンの協奏曲になったこと、さらには、ベストな演奏を求めた結果がリパッティ(ピアノ)+カラヤン(指揮)の演奏になったことなどが本書には書かれている。実はたわくしはカラヤンの演奏はそれほど好きではなかったのだけど、この選定に関しては大いに納得した。カラヤンさん、ありがとう。
本書を読み終えて、最も印象に残ったのは、実は割と初めのほうにあった。満州に住んでいた冬木さんの子どものころのクラシック音楽体験の中で、ワーグナーのオペラ『ワルキューレ』(『ニーベルングの指環』の一部)の「魔の炎の音楽」が隣にあった父親の部屋から聞こえてきて、子ども心に不思議さを感じていたというのだ。
日曜ヴァイオリニストを自称するたわくしは、この曲を何度かオーケストラで演奏したことがあるのだが、炎のメラメラを演奏するのが、本当に火を吹きそうになるほど難しい。ワーグナーはなぜこんなに難しい楽譜を書いたんだ! などとも思っていた。しかし、冬木さんがそんな経験をしたからこそ『ウルトラセブン』の音楽ができたのなら、これはもうワーグナーに感謝するしかないな、と思った。ワーグナーさん、ありがとう。
戦後過ごした広島での、ピアニストのケンプとの出会いに関する記述も印象的だった。実はここでケンプが弾いたのはパイプオルガンだったのだが、ケンプは演奏する前にしばし両手を組んでお祈りをしたという。「あとで本人に聞くと、『よろしくお願いしますよ……』と楽器に語り掛け、心を通わせていた」のだとか。そうした経験はおそらく冬木さんの音楽と接する際の姿勢を育てたのだろうと思い、たわくしも、(覚えていたら)自分の楽器を弾き始める前に、楽器にあいさつくらいはしておこうと思った。
さて、『ウルトラセブン』に関して特に「をを」と思ったのは、監督をはじめとするスタッフ一同、これを子ども向けではなく、おとなも鑑賞できる番組として制作していたということだ。たわくしは、初回放送時から見ていたので、子どもとして鑑賞していたわけだが、そのときにどう感じたかはさすがに覚えていない。しかし、何だかほかの怪獣とかロボットが出てくるような番組とは違うなぁという感覚は持っていたように思う。そして、音楽もまたほかの番組とはずいぶん印象が違うと感じていた。
ちなみに、たわくしが高校生のときに入っていた吹奏楽部では、たわくしが編曲した『ウルトラセブン』のテーマ曲を学内のイベントで演奏した記憶がある。その頃再放送があったかどうかは定かではないが、やっぱり曲を愛していたのだろうなあとしみじみ思う。数年前には、エキストラ出演したアマチュアオーケストラで交響詩『ウルトラセブン』第1楽章を演奏する幸運を得た。本当に幸せだった。ついでを言うと、シューマンのピアノ協奏曲も演奏する機会を得たことがある。やはり幸せだった。
本書は『ウルトラセブン』に特化した内容ではなく、冬木透さんの音楽人生が書かれた、青山通さんによる聞き書きによる自伝だ。実はたわくしは冬木さんのほかの曲のことをほとんど知らないので比較ができないのだが、『ウルトラセブン』の音楽は少なくとも自分の中では燦然たる輝きを保ち続けているので、『ウルトラセブン』に収斂する形で書かれた本書を、心から楽しむことができた。書籍の刊行を実現した冬木さん、青山さん、集英社さんに深く感謝申し上げます。
★おまけ映像です。