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地元の民のみぞ知る、美味さとリアル。

仕事で取引先に伺う、友達のお宅を訪問する、お世話になったあの方へ。

そういったシーンで手土産を持参することが往々にしてあるものです。

大体はデパートなどの贈答品売り場や、駅の周りの名の知れたお店などで買い求めることが多いものですね。

何となく笑点で客席に座って登場する歌丸さんや円楽さんのような書き方になって来た気がしますが、そんな手土産を地元の小さなケーキ屋さんで買っていました。

駅と駅の中間でやや寂びれた商店街にあったケーキ屋さん。


自分が子供頃からあった覚えがありますが、他のもっと近いケーキ屋さんで購入することが多くて、そのお店では買って貰ったことがありませんでした。

40代に突入してから子供の頃の夢を叶えるため、「Quatre」というケーキ屋さんや、駅に近い割と有名なケーキ屋さんで年末恒例のホールケーキ一気食い大会(参加者一名)のケーキを購入していました。

「Quatre」はどのケーキも美味しいのですが、特にフルーツロールが美味しくて時々買っていました。


ある日、商店街のケーキ屋さんの前を通った時、外からショーケースが見えるのですがロールケーキに目が止まりました。

お値段は「Quatre」よりもお値打ちな上に「デカイ」。

値札が見える程に外からガン見していたんですね、その時の自分。

書いていて、今気付きました。

そして、呼ばれるようにお店に入りました。

相当美味しそうな「フルーツロール」であり、お値段も優しいと来たら、買わないなんて弱虫です。

ケーキ屋さんなのに妙に不愛想な店主さんと思しき男性に「お持ち帰りのお時間は?」と聞かれ、「すぐそこなので・・」とポソポソ返事をして、ササっと帰宅しました。


「まあ、安いからね」と「Quatre」以上の期待を全くせずに食べたところ、激ウマ!!!

生クリーム好きのハートを鷲づかみするしつこくない軽さと、ロールケーキ部分のしっとりっぷり!!

フルーツの量の惜しげの無さ!!!

「やだやだ、ちょっと、奥さんっっ!!! ご存じだった??!」


と、自分の中の奥さんに熱く語りかけたものでした。

この日から、2週間おき位で特にイベントが無くてもちょこっと買って実家で親と食べたり、バレンタインデーの辺りで、とある会議へ参加の際に、袖の下感覚でチョコを買って持って行ったところ、舌の肥えた面々に「有名どころよりも美味しい」と大好評でした。


そんなある日。

決算の打ち合わせのために、会計士さんの事務所へ持参するケーキを買いに行こうと思って、朝から仕事をしていました。

会計士さんは「とらや」などのスタンダードな高級品は飽き飽きらしく、前のチョコを大絶賛していたので、喜んで下さるに違いありません。

忙しかったので真面目にバリバリ仕事をしていましたが、お昼前位からスマホにLINEやメールの着信がバシバシと。

「うふふ、人気者だわ、困っちゃウ♥」と、ニマニマ仕事をしていましたが、ふと耳を澄ますとヘリコプターの音がビュンビュンと聞こえてきます。

「??」っと思いながらLINEやメールを読んでみると「大丈夫?」「心配!」「無事?」などの文面ばかり。

「なんぞ??」とヤホーニュースを検索してみたら、どうも割と近くでリアルタイム殺人事件が勃発している様子。

ひとりで仕事をしているので「マジか??」とビビります。

どうも女性が刃物で切り付けられて道端で亡くなっていて、犯人逃亡中と。

そりゃあ、心配メールも来ますがな!!

慌てて開けていた窓を閉めて、玄関もロックして、「大丈夫、無事です」と返信をして、ちんまり仕事を続けました。

怯えて過ごしている昼過ぎに幼馴染から「ちょっと現場を見てこい」と鬼の連絡が!!

「犯人捕まって無いじゃん、やだよ、自分で行きなよ!」と返信すると、「わたしはこれから子供のお迎えがあるからいけない」っと。

自分にお迎えが来たらどうしてくれようか!!


そんなこんなで、夕方になりました。

ヘリコプターのビュンビュンが静かになった頃、犯人の男性が自宅で自殺体にて発見とヤホーニュースで知りました。

「ヒェーーー!!」っと、ほっとしつつも恐ろしや。

そこで思い出します、手土産を買わねばならないことを。

ケーキ屋さんに行くには「事件現場」の相当近くを通らねばなりません。

そして閉店時間が近づいていました。

ヘンなものが落ちていて、踏んだらどうしよう・・・

有り得ないことを思いながら、取り敢えずケーキ屋さんへ向かいます。

道すがら、テレビクルーや中継車がわんさかいる中、現場方面は見ないようにしてどうにかケーキ屋さんへ到着。

焼き菓子のセットを買うことにしました。


ここで閃きます。

この不愛想な店主さんとお近づきになるチャンスなのでは?

「事件」の当人達を、知っているんじゃなかろうかと。

焼き菓子セットを包んで貰う際に「さっきの事件、怖かったですね・・」とドキドキしながら話し掛けてみました。

すると店主さんが若干「待ってました!」的な雰囲気を醸しながら「あれね、女性がかなり問題のある人だったらしい。ご近所トラブルで男性もちょっと変わった人だったけど、相当困っていたみたいだね。」と。

さすが地元のお店、事情通!

あぁ、なんてことでしょう、こんな時に心が通じ合うなんて!!

「あらぁ、そうだったんですねぇ・・」っと、必要以上に熱い相槌を打っていると、奥から女性が出ていらして、「そうみたいねぇ」っと不安でいて、それでいて愛想良く。

一気に距離を縮められた瞬間でした。


それからは買いに行くと、少しはにかんだ感じで「いつもありがとう」と言って下さったり、閉店間際だと「余っちゃうから」とオマケして下さったりしました。

それからしばらく色々と忙しくなって、足が遠のいていました。


久しぶりに食べたいなぁっと思って行ってみたら「閉店のお知らせ」がシャッターに貼られていました。

「ええええ!!」

詳しいことは書かれていませんでしたが、移転でも無く閉店といった文面。


数か月経って、公園をジョギングしているお二人を遠目で見つけました。

噂だと店主さんの具合が・・と聞いたような。

「あ、お元気なら良かった。」っと。。


あれから10年近く経ちました。

あのお店のフルーツロールを超えるものには遭遇しておりません。

お二人が元気で、どこかでまたケーキ屋さんをなさっていたら、買いに出掛けたいものです。

ああ、食べたいなぁ、美味しかったなぁ!!



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