栄光の陰、陰の中の栄光。 ~ 音楽劇 浅草キッド ~
レキシさんの音楽を中心に構成された「愛のレキシアター ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ」という舞台を以前観劇しました。
ミュージカルですが、主演の山本耕史さんと松岡茉優さんの歌の上手さに感激!
特に山本さんの歌や踊り、演技の全てがカッコイイ!!
今回の舞台も音楽劇と銘打っているだけに山本さんが歌い踊るに違いない!!っと、チケットをポチっと致しました。
そして、ルンルンと明治座へ。
お席は前から10列目で真ん中のやや右寄りですが、演者さんのお顔はしっかり見える良席でした。
左前の男性の座高による頭頂部にやや残念感はありましたが、余は満足じゃった。
ここからはネタバレを含む感想を書きます。
これから観劇予定の方は、後日お読み頂けましたら幸いです♪
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こちらの舞台はビートたけさんご自身が芸人になるまでから、漫才で爆発的な人気を得てトップスターに上り詰めるまでの自伝エッセイ「浅草キッド」が原作です。
物語は学生運動花盛りの時代。
大学を中退してタクシー運転手を適当にこなしている北野武こと林遣都さん。
当時全盛だった学生運動の色々なグループの論陣に参加しては「これは違う」「これも違う」としっくりこない気持ちを持っています。
ある日、友人に頼んで会ったグループの上層部の人間と会い、話をするもしっくりこない。後日決起する学生運動のデモに参加させられましたが、気付くとその上層部の人間はデモに参加しておらず。
機動隊にデモを解散させられた後に、物陰から見ていた上層部の人間に「なぜ参加しないのか?」と問い詰めると「“就職”して企業の中から革命を起こす」と言われ、脱力。
あてもなく浅草をフラフラしている時に、ひょんなことからストリップ小屋のフランス座でエレベーターボーイの仕事をすることになります。
そのフランス座の興行主であり役者(芸人)が深見千三郎こと山本耕史さん。
フランス座のもぎりをしているあめくみちこさんが「芸人」を望んでいないのに林さんの弟子入りを強く推す中、望んでいないと見抜いていた山本さんは「イヤだ」と拒否していました。ですが、山本さんとしっかりと対峙していく内に本気で芸人を目指す林さんにほだされ、エレベーター内でタップダンスを披露する山本さん。「取り敢えずこんな芸から始めてみろよ」と林さんの弟子入りを認めます。
山本さんは今でこそフランス座でお下品なネタのコントを繰り広げていますが、その昔は俳優で鳴らしていました。
ところが招集された戦争で使う爆弾工場で働いていた際に、左手の親指以外の4本を切断する大事故に見舞われ、「見た目が大事」な映画には出られない体になってしまいます。
映画界にもう呼ばれないならば・・
ちょっとした日常会話のヒントから、自ら劇団を率いて東京で演劇を始めます。
東京が空襲され演劇をしている場合では無いとなると、出身地の北海道をドサ周りする逞しさを見せます。
いざ戦争が終わると、劇団員は映画に呼ばれたり、座員同士で結婚するなど劇団を抜けて行ってしまいます。
そして、ひとりになった山本さんはフランス座のコント師としての他の後輩芸人たちと「俳優(芸人)」を続けているのです。
面倒見の良い山本さんにいつも飲み屋でおごって貰っていたので、てっきり羽振りが良いと思っていた林さんや後輩芸人たち。実は山本さんが自分たちに紹介してくれたオンボロアパートの自分達が2階・3階に住んでいる上の4階に住んでいるという事実を知ります。
この事実により、いくら頑張ってもフランス座にいる限り、自分達は芽が出ないと思い知ります。
ある日、借金の形に興行権をかつての弟子に売り飛ばしてしまった山本さん。
するとこの弟子は芸人ではなく音楽バンドをフランス座のメインに据えるようになり、「コント芸」はどんどん隅に追いやられて行きます。
ここにいても絶対に芽が出ないと悟った林さんは、先輩芸人でのちのビートきよしとなる兼子二郎こと今野浩喜さん(愛はあるんか?の職人さん)と、こっそり漫才の営業を始めます。
ところがこの今野さんの漫才ネタが時流に合わず古すぎて全くウケません。
そこで林さんは今野さんに内緒で、後輩の芸人希望のマーキーこと稲葉友さんと組んで営業を始めます。
どちらも鳴かず飛ばずで、挙句に師匠の山本さんにバレた際には「漫才なんか芸じゃない」とこき下ろされてしまいます。
今野さんの取って来る営業は、飲み屋などで漫才をしたところで誰も聞いていなかったり、せっかく演芸場で漫才を披露出来るのにお客さんが二人だったり。
ある日、キャバレーの酔客が歌う歌の太鼓持ちをしないといけない時、やけくそになった林さんは気持ちよく歌っている酔客のカラオケを止めてしまいます。これに怒ったお客さん、それを仲裁しようとする今野さん。
その中で毒舌を吐き続ける林さんへ「よしなさい!」と止める今野さん。
そのやり取りを見て怒っていた酔客たちも笑い出し、ここをきっかけに毒舌漫才として才能が開花し、演芸場や飲み屋でのしがない毎日からゴールデンタイムのテレビへと日の当たる場所へ一気に駆け上がって行きます。
この過程で後輩芸人の稲葉さんは林さんの才能にコンプレックスを持ちすぎて身を持ち崩し、林さんだけに脚光が当たり今野さんはその影に隠れる状態へ。
興行主で無くなり、すっかりコント芸も隅に追いやられた山本さんを支えるために、妻・志の川亜矢こと紺野まひるさんは、ストリッパーから向島の芸者(枕芸者)への転身を図ります。これが堪えた山本さんは兼ねてから誘われていた、元劇団員が起業した化粧品会社に営業として入社することを決意します。
押しも押されぬトップスターとなりお笑いの大賞を取った林さんは、山本さんへ賞金全部を手渡して、飲みに誘います。
弟子の林さんの活躍と気遣いが嬉しい師匠の山本さんは、林さんと何軒も飲み歩き、泥酔して帰宅します。
亡くなった紺野さんの遺影に嬉しい気持ちを語りかけつつ、タバコに火を点けウトウトした山本さんは・・・
ビートたけしさんの自伝エッセイですから、随所随所に笑いと悲哀がちりばめられています。
歌もタップなどのダンスシーンも素晴らしい山本さんの芸達者ぶり、そして恐らくアドリブと思われる笑えるシーン。
「芸人」として誰にともなく「笑わせる芸」を見せる山本さんのラストシーンは、おかしいのですが切なくて泣けて来ました。
自身はストリップ小屋で、それでいて浅草では知らない人はいない芸人として、日陰の中の栄光を過ごしつつ、たけしさんの才能もくさすことなく、影の中でも日を当ててくれようとする面倒見の良い師匠の山本さんや、仲間として暗い状況を打破すべく支え合っていた仲間など、たけしさんのスター街道は個人の実力ももちろんあった上ですが、ひとりで開花させた訳では無いことを知りました。
栄光を掴むために、もがきながらする選択のタイミングや出会いって、本人が選んでいるようでそうでもないのかもしれない、とも思いました。
ちょっと気持ちが辛かったり、キツイ状況にある方には辛いシーンが多々あるかもしれません。
でも、それらを乗り越えた人やその後の人生を見ることで、ちょっと頑張ってみようかなっと思える舞台かと思います。
本当に尊敬出来て信じられる人との出会いは財産だと思います。
ラストシーンのたけしさんや師匠を思い出すと、グっと来ます。。
この歌がまた・・・(号泣)