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『ブロークバック・マウンテン』感想|これは禁断の愛か、それとも純愛か。
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公開:2005年
監督:アン・リー
脚本:ラリー・マクマートリー、ダイアナ・オサナ
出演:ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール、ミシェル・ウィリアムズ、アン・ハサウェイ ほか
あらすじ
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1960年代、北米ワイオミング州の雪山ブロークバック・マウンテンで、ジャックとイニスの二人のカウボーイが、羊の牧童の季節労働者として雇われた。
常にいがみ合っていた二人だったが、ある夜にお酒をたらふく飲んで、「寒いから」という些細な理由で同じテントに入り、たったそれだけのことがきっかけで禁断の恋が芽生えてしまう。
中でもイニスは小さい頃に父親がゲイの男性を惨殺するところを見せつけられており、それ以降そのトラウマが消えないという過去を持っている。
当時ゲイだということは許されることではなかった(そもそも宗教的にも同性愛は罪だった)ため、ブロークバック・マウンテンでの仕事が終わってからは、二人は離れてそれぞれで家庭を持つことになる。
しかし、到底忘れることなど出来るはずもなく、年に数回会うことになるのだが、もちろん表立ってデートなんてできるわけもなく、気持ちは押し込まれていく一方だった。結果的に不倫せざるを得ない状況にまで追い込まれていく…。
解説
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原作はE・アニー・プルーによる同名の短編小説で、約80ページ前後ほどしかない非常に短い小説である。それを134分の映画に仕上げるラリー・マクマートリーとダイアナ・オサナの脚色力に脱帽する。
監督のアン・リーは『ウェディング・バンケット』(1993年)と『いつか晴れた日に』(1995年)でベルリン映画祭金熊賞を受賞し、『グリーン・デスティニー』(2000年)でアカデミー外国語映画賞を受賞。脂がのりにのっている時期であり、本作は彼の演出力が全編に冴え渡っている。
2005年のヴェネツィア国際映画祭では金獅子賞を受賞。ゴールデングローブ賞でも、作品賞(ドラマ部門)、監督賞、脚本賞、主題歌賞の4部門を受賞。あまりの評価の高さに、その年の映画賞をほとんど総なめにした。
しかしアカデミー賞においては、作品賞を含む最多の8部門にノミネートされたが、作品賞は『クラッシュ』に奪われ、監督賞、脚色賞、作曲賞の3部門のみにとどまった。これによってアカデミー会員の保守性が批判されることとなった。
感想
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僕はこの作品をオールタイムベストに入れるくらい好きだ。その一番の理由は「勇気」があるからだった。まず当時のハリウッドでは同性愛者のラブストーリーを描くことはをテーマとされていた。ハリウッドに保守的な人が多いこともそうなのだが、そのような映画はヒットしないと言われていたからだ。
しかし、本作は低予算で製作されたにもかかわらず、結果的には全世界で1億7000万ドルを超える興行収入を記録し、2005年最大の評価を獲得。歴史的な快挙となった。(過去には『真夜中のパーティー』や『モーリス』などの映画が公開されているが、ここまでヒットしたことはなかった)。
もし本作が公開されていなかったら『ムーンライト』や『君の名前で僕を呼んで』『ゴッズ・オウン・カントリー』などの名作も生まれていなかったんじゃないか、とすら思うと、余計にこの作品を偏愛してしまう。
タブーとされていた題材というだけあって、LGBTQの恋愛をこれでもかと繊細に扱っている。視聴者へ理解を押し付けるわけではなく、純粋に恋愛をしたい、その欲望だけを描いている。社会は許してくれないし、ダメなことだと分かっていても辞められない。なぜなら彼を愛しているから。そんなシンプルな物語を、監督のアン・リー自身も「普遍的なラブストーリー」と強調して宣伝していた。
それだけではない。本作はまだまだ勇気が垣間見える。例えば舞台は保守的な思想が根強く残る西部ワイオミングであり、カウボーイという存在はアメリカでは「男の象徴」とされている。それを同性愛者として描くこともめちゃくちゃ勇気が必要なはずなので、これも台湾出身のアン・リー監督ならのことだなと思わせられる。ただ本人は『ハルク』を撮り終わった息抜き程度で本作を携わったらしくて、それでここまでの評価を得てしまったのが少し微笑ましい。
また、同性愛者の生きる難しさを描いた作品に、あえて女性側(奥さん)の視点を入れることもどれだけ勇気のいることか。今となってはよくある手法かもしれないが、当時は革新的なことであり、それを平然とやってのけることにも鳥肌が立つ。
大きなテーマとして、社会批判にもなっており、同性愛を否定する社会は男性も女性も同性愛者も異性愛者も全員が苦しい思いするのだということを強烈に訴えかけてくる(どちらの家庭も子供はいれど、夫婦関係は冷えきっているのが唯一の救いか)。本作は奥さん視点があってこその作品なのに、不倫を肯定だあーだこーだと批判するのはお門違いがすぎる。
むしろ不倫を肯定するどころか、罪と罰としてしっかり向き合って描いている。それがこの作品の好感が持てるところなのだ。不倫をしたくてしているんけではないし、むしろ不倫をすることで本人たちの苦しみが増している。本当にただ、普通に恋愛したいだけなのに、できない。その様子があまりにも切ない。
そんな苦しみの果てに待ち受けるあのラストシーンは号泣必須。今となってはやり尽くされた(むしろ否定的な意見も多いような)オチかもしれないが、あの展開のおかげで二人は永遠の愛に出会い、救われたのだと僕は信じている。
少なくとも僕の心の中では、イニスとジャックはまだブロークバック・マウンテンの麓で仲良く遊んで暮らしている。今もずっと。
あとがき
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正直、二人で一緒にテントへ入った途端、何の前触れもなくいきなり発情しだすのは少々やりすぎな気もする。このシーンだけは見返すたびにいつも「なんでやねん」って思う。
でも実際に山奥で生活してみないとなんとも言えないから文句を言いづらい。例えば刑務所にいると我慢できずに仕方なく男性と性行為をしてしまう、という話を噂程度で聞いたことがある。それに近い感覚なのかもしれない。
きっとジャックは生まれつき男が好きだから、反射的に襲ってしまったのだと思うのだが、それをすんなり受け入れてしまうイニスの方に個人的にめちゃくちゃ萌えてしまう。すごく愛おしい。
もうif…の世界線でもいいから、二人がブロークバック・マウンテンで一生幸せに暮らすスピンオフを作ってほしい。今からでも遅くない。永遠に観ていたい。