イタリア旅行なんてベタすぎる。
イタリアは、いかにもロマンチックすぎるから。いつでも行けるから。何となく想像がついてしまうから。様々な理由をつけて避けてきた国だった。
でも10年前、新婚旅行を機に訪れた。おそらく新婚旅行という大義名分がない限り訪れることはないだろう。この機に飛び込んでみよう。ふと、そう思ったのだ。
実際に訪れたイタリアは隅から隅まで美しかった。”粗”とか”ボロ”といったものが一切ない。品の良い石畳の道を辿っていくと、かつて文明の中心地だったことを物語る豪奢な建物が姿を現す。街中に響く教会の鐘の音も、レストランに出てくるパスタでさえサマになる。
●花の都「フィレンツェ」
●カラフルな漁師町「チンクエ・テッレ」
私の印象に残ったのは、フィレンツェから車で3時間ほどの場所にあるチンクエ・テッレ(Cinque Terre)。
チンクエ・テッレとはイタリア語で「チンクエ=5」「テッレ=土地」を意味する。つまりリグーリア州の海岸線に点在する美しい5つの村の総称だ。世界遺産にも登録されている。
11世紀に要塞都市として建てられた村で、城壁や見張塔が残っている。他との往来は船だったので陸の孤島だった。そのため今も当時の面影が色濃く残っているのだとか。
断崖にできた村は、いたるところに柔らかな陽射しが降り注ぎ、エメラルドグリーンに輝く地中海を臨むことができる。
ちなみにこの日のday tripのガイドさんは、北イタリアの30代と思しき男性だった。彼によると、イタリアでは女性の社会進出が進んでいて家庭料理が簡素化しているらしい。昔は、どこの家にもパスタマシーンがあってお母さんがお手製のパスタ麺をこしらえていたけれど、今はスーパーで既製品を購入するようになってしまったとか。お手製のパスタ麺を毎日自宅で…?それ最高じゃないですか。私には無理だけど。。イタリア男性はマザコンが多いと聞くけれど、その気持ちも分かる気がする。
●水の都「ベネチア」
さて、ところ変わって水の都ベネチア(世界遺産)へ。
最初に受けた印象は、静かな街。たまに軽く響く水上バスのエンジン音以外は、さざ波の音だけ。
それもそのはず。ベネチアでは車やバイク、自転車の乗り入れは禁止されている。交通手段は全て船。救急車や消防車も水上バスだし、物資もフェリーなどで運ばれる。地上には人しか歩いていない。
ベネチアでは、毎年秋から冬にかけて「アクア・アルタ」と呼ばれる高潮のシーズンが到来する。ここサンマルコ広場はベネチアの中でも最も低い位置にあり、浸水被害がたびたび発生。
気候変動による海面上昇で、年々、高潮の頻度と激しさが増していると専門家は指摘している。この浸水対策のため、2003年に政府の肝いりで始まった「モーゼ計画」。巨大な78個の可動式の堰を建設し、高潮発生時に海底から立ち上がって水をブロックするつくりで、2022年に稼働予定だったらしいが、汚職事件が発覚し計画は暗礁に乗り上げ、先行きは不透明だと言う。
●最後は夜のベネチアへ
ベネチアを歩いていると、たくさんの「バーカロ」を見かける。バーカロというのは、ベネチア独自の立ち飲みワイン居酒屋。オンブラ(グラスワイン)とチケーティ(小皿料理)を気軽に楽しめる。
このお店は、ベネチアで最も古いバーカロ「Cantina Do Mori(カンティーナ・ド・モーリ)」。なんと創業は1462年。日本は室町時代で応仁の乱が始まる前!
カウンターにはチケーティがずらりと並び、好きなものを注文できる。すごくシンプルだけどどれも絶妙に美味しい。ハズレが無いのが、さすがイタリアクオリティ。イワシの南蛮漬け、揚げ団子、魚介や野菜のフリット、ブルスケッタ(みたいなやつ)、ラザニア。チーズの種類も豊富。正直、迷う!
ベネチアの夜はひときわ静か。さざ波の音しか聞こえない。そして街を照らす灯りがあまりに柔らかく仄暗いので、夢の中にいるかのような幻想的ムード。
イタリア旅行なんてベタだと思っていたけれど、気付けばその魅力に深く深く取り込まれていた。