匂いと記憶

少し前になるが、金木犀に関する記事がたくさんアップされていて、つい引き込まれるように読んでしまった。

近所を歩くと、ふと濃厚な香りがする。
朝窓を開けると、我が家にも華やかな香りがかすかに舞い込んできた。

パーっとしたお祭りのような夏の後ろから、ゆっくり静かに訪れる秋が好きだ。カラリとした風。悠然とした満月。木々の彩り。そして金木犀の香り。

そして香りとともに蘇るのは、子供の頃に金木犀のあるご近所宅を通るときの、どこかワクワクした気持ち。

子供時代に不意に引き戻されるきっかけは、いつも匂いだ。視覚は絶えず新しい情報を仕入れてくるからかもしれない。更新頻度が高ければ、当然古い記憶は薄く消えていく。

昔の写真を見ただけでは、もはや「あーここよく行ったね」という記憶の認識というか俯瞰的な感覚しか抱かない(そこで着ているワンピースに着目して、これお母さんが作ってくれたなぁと認識して、母がミシンに向かう姿を思い浮かべて、ようやく当時の気持ちに引き戻されることはある)。

それに比べて匂いの連れてくる記憶の世界はすごくリアルで圧倒的だ。雨の日の湿っぽい匂い、秋刀魚を焼いている匂い、父の強烈なローションの匂い、祖母宅のお仏壇の匂い。オーブンでクッキーを焼いている匂い。その当時の自分の感情までもが芋づる式に蘇り、切なくも不思議な感覚に陥る。

いつか嗅覚を利用した脳内タイムトラベルができるかもしれない。利用したいようなしたくないような。複雑な気持ちになる。

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