練習用ミュートの話
トランペットの音となる「燃料」とは何か。
実際はこの前後の話があるのですが、ここだけピックアップするとわかりにくいかと思いますが、レッスンでこんな話をよくします。
お腹は電源(スイッチ)
そして、そのお腹の力で発生した体内の空気圧が「燃料」。
トランペットを演奏することを「吹く」と言うことが多いですが、管にいくら息を吹き込んでも音が出ないことからもわかる通り、吹いて鳴らす楽器ではありません。実際に体内に必要なのは体内に必要な分の空気圧を発生させることなのです。
トランペットは練習できる場所が本当に限られています。スタジオレンタル、カラオケボックス、屋外…。それもいつでもOKというわけにはいかず、条件や軍資金やタイミングが絡んできます。
そこで大活躍するのが練習用ミュート。プラクティスミュートとも呼ばれるこの道具、ベルに差し込めばあら不思議。全然音が聞こえなくなっちゃいます。
なんという便利なグッズだ!と、ここまではなるわけですが、当然デメリットもあります。その最大の問題点は、
空気圧バランスが大幅に変化する
プラクティスミュートの原理は、ベルを可能な限り塞ぐことで管内の共鳴をさせなくしています。トンネルの片方の出口が塞がれてしまった状態。結果空気の出口がない状態になるわけで、当然通常にはなかった息苦しさが生まれるのです。
息苦しくて音がちゃんと出ないから(=いつものようにならないから)、腹筋にますます力を込めて、体内の空気圧を爆上げし、これでもかと楽器の中に空気を吹き込みます。すると、認識できる程度の音が聞こえてきます。
ちょっとまった。
プラクティスミュートは音を出さなくする道具なのに、なんで聞こえる音量まで大きく吹いているのでしょうか。もしその体の使い方そのままにミュートを外したら、どんな音が出てるか想像できますか?
きっと信じられないくらいの爆音、しかもアパチュアが空気圧で押されて開きまくったビャービャーな音でピッチが下がってます。
練習用ミュートなのに通常とまったく違う吹き方で音を出して何の練習をしているのでしょうか。
通常のトランペットの音量を出しているその状態でプラクティスミュートを差し込むと、静かな部屋で自分だけが認識できるかできないかくらいの音量にしかなりません。
どうであれプラクティスミュートは空気を遮って、体内の空気圧を必要以上に高める結果に絶対になるので、緻密なコントロールを手に入れるための練習、や合奏曲をまるで本番のように通すような練習は勝手が違いすぎるので避けるべきだと思います。
とは言え、最近のプラクティスミュートはだいぶ高品質になり、空気圧があまり上がらないようにされているものもありますので、機会があれば試奏してみてください。大切なのはミュートが何をしているのか、人間はどうやってトランペットを演奏しているのか、これらを正しく理解しているか、ということです。
荻原明(おぎわらあきら)