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創作ノート

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フィクションの創作物をまとめてます。
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#創作大賞2022

『ドリームキャッチャー』〈1〉

『ドリームキャッチャー』〈1〉

【六月三日】
「ねぇ、明晰夢って知ってる?」
 同僚たちと飲んで帰宅した僕は妻の背中に上機嫌で話し掛けた。飲むより食べるほうが好きだから、ほとんど酔ってない。
「めいせきむー?」
 妻は振り向きもせずに答える。熱心に磨いている鍋は、もうピカピカだ。
「『これは夢だ。』って、自分で認識している夢のことさ。夢の中で思い通り、好きなことができるんだ。自由に夢を操れるんだよ。」
「へー…。」
 意味が分か

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『ドリームキャッチャー』〈2〉

『ドリームキャッチャー』〈2〉

【六月四日】
「おはよう。どう?夕べはドリームキャッチャー、ちゃんと使えた?」
 すっかり朝食が準備されたテーブルの前に着きながら妻にたずねる。妻はいつもより生き生きしているように見えた。
「ちょっと難しかったんだけど、簡単な設定はできたの。今日は行きたい場所とか、お店なんかをリサーチしてみようと思ってるわ。」
 弾んだ声に一気に気分が萎えた。
 なんだ、ちゃんと使えたのか…。
 それ以上は、もう

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『ドリームキャッチャー』〈3〉

『ドリームキャッチャー』〈3〉

【六月六日】
 ドリームキャッチャーは僕の妻以外にも研究員家族の数人が使っていた。一週間様子を見たら、すべて回収することになっている。
 研究室の扉を開く。今朝はやけにざわついていた。
「え、井上室長の息子さん?それマズイでしょ。」
「西京大学専門の予備校に通ってるっていう?」
「そうそう。ドリームキャッチャーでも勉強してて。てっきり受験勉強だと思ってたら、西京大学の講義を受けてたんだって。受験勉

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『ドリームキャッチャー』〈4〉

『ドリームキャッチャー』〈4〉

翌朝、いつものダイニングに妻はいなかった。テーブルの上は、夕べ片付けられた時のままだ。
「ドリームキャッチャーを使えなくなるってだけで、これか?」
 僕はぶつぶつ呟くと、そのまま家を出ようとした。だが今日中に必ずドリームキャッチャーは回収することになっている。仕方なく彼女の寝室のドアを叩く。
「入るよ。」
 その寝室へ入るのは二年ぶりだった。
「おはよう。もう、出るんだけど。ドリームキャッチャー回

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