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外的コントロールと内的コントロールのコーチング:AIと選択理論で考える#1

はじめに

この記事では、選択理論における「外的コントロールと内的コントロールの考え方」を踏まえて、「外的コントロールのコーチング」と「内的コントロールのコーチング」について考察します。そして、内的コントロールを尊重するコミュニケーションの難しさと、選択理論によるコーチングが目指すところを解説しています。

1、選択理論における外的コントロールと内的コントロールの考え方

選択理論では、人の行動は外側からの刺激や影響によってコントロールされるのではなく、本人の内的な行動選択システムを通じて自らの欲求を満たすために引き起こされる(選択される)という「行動の内的コントロール」の考え方をとります。

一方で、その人は、他者に対して、外的コントロールの行動を選択することがありますが、他者を変えようとする外的コントロールの行動は、人間関係を損ね、相手の内発的な行動を阻害する可能性があります。そのため、選択理論には「人は自分の行動だけをコントロールできる(相手を変えることはできない)」という、もう一つの基本的な考え方があり、この考え方を最重要視しています。

以下では、選択理論に基づく外的コントロールと内的コントロールの考え方をもとに、「外的コントロールのコーチング(クライアントを変えるコーチング)」と「内的コントロールのコーチング(クライアントが自ら変わるのを支援するコーチング)」について考察します。

2、外的コントロールと内的コントロールのコーチング

一般に、コーチングにおいて、外的コントロール(External Control)を用いる手法は存在しますが、自己決定を促すというコーチングの基本原則から外れるため、慎重さが求められます。しかし、状況によっては、以下のように外的コントロールが有効とされる場合もあります。

外的コントロールが用いられるコーチングの場面

① パフォーマンスコーチング
企業やスポーツの現場では、成果達成を目指してコーチがクライアントに具体的な指示やフィードバックを与えることがあります。例えば、スポーツコーチが技術的な改善点を指摘し、具体的な練習メニューを強制する場合です。

ビジネスの現場でも、業績目標を設定し、行動指針を指示することが一般的です。特に目標が明確で時間的制約がある場合には、外的コントロールが有効とされます。

② コーチング型リーダーシップ
マネジメントの場面で、リーダーが部下に対してコーチングを行う際、一部の外的コントロールが必要になることがあります。例えば、仕事の目標達成を支援するために進捗確認や期限管理を行うケースです。

部下が経験不足である場合には、具体的な指示やガイドラインを提供することで業務の遂行を助けることができます。このように、部下の成長段階に応じたサポートと指導を行うことがチーム全体の成果を高めます。

③ 矯正的コーチング(リメディアル・コーチング)
問題行動の修正や改善が必要な場合、外的コントロールが伴います。職場でパフォーマンスが低下した社員に対して改善プランを設定することがあります。

例えば、頻繁にミスが発生する場合、コーチが具体的な改善策を提示し、行動修正を促すことがあります。このような矯正的コーチングは、クライアントが迅速に行動変容を引き出すことを目的としています。

④ 危機的状況でのコーチング
緊急性の高い状況では、選択肢を与えずに具体的な行動を求めることが求められることもあります。例えば、緊急のプロジェクトで即時の対応が必要な場合です。このような状況では、迅速な指示が重要です。クライアントにとっては明確な指示を受けることで不安を軽減し、最善の行動を取ることができます。

3、外的コントロールのリスクと限界

動機の低下

クライアントの内発的な動機を損なう可能性があります。「やらされている」という感覚が強くなると、自律的な問題解決力が育ちません。外的な指示に頼ることで、クライアントが自ら考える力が弱まり、長期的な成長が阻害されるリスクがあります。

関係性の悪化

強制的な指示がクライアントにストレスを与え、コーチとクライアントの信頼関係を損なうことがあります。このような場合、クライアントの内発的な成長意欲が低下し、成果に結びつかない可能性が高まります。

一時的な効果にとどまる可能性

外的コントロールで行動を変えても、それがクライアントの価値観に一致しないと長期的な変化は難しいです。内発的な理解と納得が伴わなければ、行動の変化は一過性に終わります。

4、企業社会における外的コントロールの氾濫

企業社会では、目標達成や業績向上のために外的コントロールが広く用いられています。例えば、KPIの設定や業務進捗の強制的な管理などが典型です。これにより短期的な業績改善が期待できますが、長期的な社員のモチベーション低下や創造性の欠如といったリスクが存在します。

厳しいKPIの達成がプレッシャーとなり、社員が精神的に疲弊したり、創造的なアイデアを提案する意欲を失うケースがあります。結果として、優秀な人材の離職率が増加し、組織全体の活力が低下するという弊害が生じています。

5、学校における外的コントロールとその弊害

学校では、生徒の行動や学習成果を管理するために外的コントロールが広く使われています。例えば、宿題の提出期限やテストの成績評価が典型です。これにより生徒の学力向上が期待されますが、過度な管理は学習への興味や自主性を失わせるリスクもあります。

厳しい評価基準や罰則がプレッシャーとなり、学びに対する内発的な動機が低下し、「やらされている」と感じることが増えます。この結果、自己主導的な学びが阻害され、学習意欲の低下につながるケースがあります。

6、家族の人間関係を壊す外的コントロール

家族の中でも外的コントロールを用いると、人間関係に深刻な影響を及ぼします。親が子供に対して過度な期待や強制的な指示を続けると、子供は「やらされている」と感じ、反発や無気力を引き起こす可能性があります。

また、配偶者間でも一方が他方をコントロールしようとする行為は信頼関係を損ね、不満やストレスを蓄積させます。家族という最も身近な人間関係においてこそ、相手の内的コントロールを尊重することが健全な関係の構築に必要です。

7、選択理論に基づくコーチングとマネジメントの特色

選択理論では、外的コントロールを排除し、内的コントロールを徹底して尊重することが基本的な考え方です。人が自らの行動を選択し、内発的な動機によって成長することを重視します。

選択理論に基づくコーチングやマネジメントは、クライアントや社員、学生が自らの意思で行動を選択し、その結果に責任を持つことを重視します。これにより、内発的動機が高まり、持続的な成長と成果が期待されます。

強制的な指示や外的コントロールを極力排除し、個々の主体性を尊重することで、信頼関係の構築、良好な人間関係、自己効力感の向上が促されます。

8、他者の内的コントロールを尊重するコミュニケーションの難しさ

選択理論に基づくコーチングでは、内的コントロールの尊重を重視し、外的コントロールのリスクを理解した上で適切に活用することが求められます。

しかし、他者の内的コントロールを尊重するコミュニケーションには難しさが伴います。相手の内的な動機を引き出しながら、適切な支援を提供することは非常に繊細で高度なスキルが求められます。

相手の内的コントロールを尊重するには、傾聴と質問を中心とする支援的なコーチングのようなコミュニケーションが必要であり、これができるようになるには、自分の側の考え方の切り替えや、コミュニケーションのトレーニングが必要です。

まとめ

本記事では、選択理論の考え方を踏まえ、企業、学校、家庭における外的コントロールの影響や、そのリスクについて考察しました。外的コントロールは短期的な効果をもたらすことがある一方で、良好な人間関係と、長期的な成長には内発的な動機づけが不可欠です。個人の主体性と内的コントロールを尊重し、手助けし、持続的な成長を促せるような、支援的なコーチングのコミュニケーションが求められています。

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