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作家やろうぜ!第二話「いない者」

企画発案者の楓莉さん↓と一緒に月一で発表する小説!
説明上手な楓莉さんのnoteもぜひ🫶


今回のお題は「月見」「パンチョ」「火山灰」


3つのお題を入れた5000文字の短編を同じお題で2人のBL作家が書いてるよ!


同じお題で楓莉さんが書いたのはこちら!
ちょっと大人になった少年達が、スペインの風景に溶け込み、少しずつ芽生えるキュートな恋心が必読です👀
あたしゃこんな風に書けないわ。
うちはいつも素っ頓狂な事言ってるバスケおじさんしかいないので🥹

第一弾は、幼い頃に「ビックリマンカード」になる!と約束した兄弟が「コミケ」で仲直りし、スマホに色々忍ばせた話でした!

人物はそのまま使っていますが、短編なのでそのまま読めます。
一応簡単に・・・

舞台はプロバスケットチーム「ビリーバーズ」
開幕戦を控えた選手とその家族のわちゃわちゃ話。

・今回の主人公は、大胆な気遣い屋(F/C)木村リキ

・秘密の恋人?全肯定お兄ちゃん(SG/SF)|宗谷有時《そうやゆうじ》

・ぽっちゃりの世界を救う(PG)|大和満《やまとみつる》

・白くてまるい?パンチョ

・今回は名前だけの(親友/弟/C)|宗谷充時《そうやみつじ》

「#noteでBL」というタグをつけてます、そっちでも小説回収出来るよ🫶🏻


今回は真面目な「生き方」の話です。
ヤベェ奴しかいない、ふざけすぎた長編は随時執筆中です😳


“いない者“

俺、狼男かもしれない。
月が丸くなってくると、どうも落ち着かないんです。

と、理由をつけて大好きな人の家に押し掛けて、無理やり抱き締めて寝たはずが、目が覚めたら、腕の中で好きな人が抱き枕と入れ替わっていた。

俺は狼男じゃないかもしれないけど、この人は忍者かもしれない。
なんのはなしですか?

俺は狼男じゃないけど、
秋の月が丸くなってくると、どうも落ち着かないのは事実。

リーグの開幕戦まで1ヶ月を切っているのに、気も引き締まらない。
気持ちも靴紐みたいに引っ張って、締め直せたらいいのに。

こんな日はバッシュの靴紐も解ける。
コートの外に出て結び直していると「パンチョ元気?」と、端でストレッチしていたみつるが起き上がってストレッチマットの上であぐらをかいた。
「おう、今年はエアコン代やべぇわ」
「いい生活だなぁ」
同期への甘えで愚痴る俺の視線に白い足がスッと入り、ギシッと後ろのベンチの足が軋む。
バッシュを床に置いた有時ゆうじさんは、気にせず会話を続けてくれ、と目配せしてソックスに足を通した。
「ずーっと家の中だぞ?俺なら飽きる」
「ちげぇよパンチョと暮らす生活が!だよ!いいなぁ、白くて柔らかくてさぁ」
マットを片しながらうっとりする満の脳内は既に俺の家にいる。
「パンチョ?」
バッシュの紐を締めて結び、蝶々結びをもう一度作りながら、有時さんが話に首を突っ込んだ。
「うちの居候っすよ」
「そういえば俺、リキの家にお邪魔した事ないね?」
「俺が押しかけますからね!」
昨日もね!と、言いかけて口を閉じる。
「実家はあるが」
「ちょ、普通チームメイトの実家行く?」
俺達の間に手を伸ばして満が話を遮った。
「リキのお父さんの葬儀に弟の充時みつじを車で送ったんだよ。まだ高校生だったよな?確か今頃の」
空調の風で揺れている壁に貼られたカレンダーを、有時さん見上げる。
「そう十五夜あたりか」


その時の俺は葬儀自体も初めてで、それが自分の父ちゃんで。
現実と受け止めれなくて泣く事も出来なかった。
でも、駆けつけた親友の充時が焼香を済ませて手を合わせ、父ちゃんの遺影に静かに泣いていた姿を見て「良い奴だなぁ」と、それに泣けた。
それ以来、親友と呼んでいる。

「俺もお焼香させてもらいたかったけど、帰省のついでで父の喪服も入らなくてね」
「喪服の有時さん、まるでSP」
「黒服肉団子だろ」
「ハハハ!満のネーミングは独特だな!」
有時さんの良さは、悪口が通じないところ。
このおおらかさも含めて、俺はこの人を恋人に選んだ。
昨夜も、突発的に来た俺に何も聞かずに一緒に寝てくれた。

今朝、洋服を借りて出勤したら「彼女の趣味?」とすれ違う皆んなにロッカーで冷やかされて答えにつまって頭を掻いた。
時間をズラして来た有時さんもこれには黙って耳を真っ赤にし、こそっと俺に照れ笑いを見せた。

何これ、抱き締めたい。

秘密の恋愛関係だから気がひけるけど、このくすぐったさは、たまらん。

俺にとって、宗谷充時そうやみつじと兄の有時ゆうじ兄弟は特別な存在なのだ。


「リキ!」
練習中、体育館に駆け込んだスタッフがコートの外に手招きした。
ゴール下でディフェンスを抜き、そのままシュートして手を挙げ、コートをでる。
「お母さんの病院から連絡があったらしい」
息を整えながら、無意識に汗をかいて冷たくなった腹をさする。
「妹さん病院でいるって!すぐ行って」
「はい」
背中に視線を感じて振り向くと、コートの中の満が水槽の中の魚みたいな真っ黒な目で俺を見て、足を止めた。
それに気づいた有時さんがパンパンっと手を叩いて練習を続行させる。

俺の為にも、手を止めるベキじゃない。
背中がそう言っている気がして、俺の声が大きくなる。
「すいません、ちょっと行ってきます!」

急いで着替えてタクシーを呼び、新幹線に乗るため運転手に駅名を伝え、このソワソワが虫の知らせで無いように祈る。

父ちゃんが死んだ後も、俺にバスケをさせてくれた母ちゃん。
俺が入団した年に下から大量出血し、輸血の為に入院した病院で子宮がんが発覚した。
手術中に転移が見つかり、抗がん剤治療で今は入退院を繰り返している。

治療は概ね良好でも、父ちゃんが死んだ月見が近づくと、嫌な考えがチラついて仕方ない。

いつもなら隣に置くバックパックを無意識に抱きしめていた。
有時さんに借りた上品なシャツに緊張の汗が染み込む。

どれだけ覚悟は出来ていても、いざとなると心は細くなり、それに伴って体も小さくなりたくなるものだ。

俺はよく知っている。

父ちゃんは消防士だった。

声も体もデカくて、唾がすごいから「雨ゴリラ」と呼んでいた。
母ちゃんは専業主婦、兄のカイ、次男の俺と妹の愛の5人家族。

「溺れている人には近づかず、浮き輪か、少しだけ水を入れたペットボトルを投げてやれ!」

父ちゃんは非番になると俺達を山や海へ連れて行って、俺は遊び感覚で色んな防災術を学んだ。
後で知ったが、他所の家では無い事らしい。


9.11のアメリカの同時多発テロのニュースが世界に流れた日、テレビを消した父ちゃんが家族を集めた。

「木村家会議を始める!!」

まだ小学生だった俺達は背筋を伸ばし、母ちゃんは寝ている愛を抱いて少し離れて正座した。
「ご存知の通り父ちゃんは消防士だ!火事に限らず、大きな事故や災害が起きたら、家族をおいてでも一番に現場に駆けつける!それが、父ちゃんの仕事だ」
それは物心ついた頃から何度も聞いている。

「いいか?何かあった時に父ちゃんは、“いない者“と思え!」

俺達は頷いた。
その為に父ちゃんは俺たちに防災術を教えたんだと俺はこの時、理解した。
カイは唾を飲んで少し背中を丸めた。
「カイは兄ちゃんだから家族を守れ!リキも手伝いをするんだぞ!」
俺は喉いっぱいで返事し、カイはスカしっ屁みたいな返事をした。

聞こえるけどほぼ空気みたいなその返事は、後々まで嫌な匂いを残していた。

カイは「兄ちゃんだから」を口癖にして、必死に“長男“になった。
俺がバスケをしている間も、愛が韓国のアイドルを追いかけてる間も、カイは呪文のように「兄ちゃんだから」と我慢する、それがカイなり必死の正義だった。


高校2年の秋、父ちゃんが死んだ。


晩飯どきに連絡を受けた母ちゃんは「後で叔父さんと来なさい!」と車のキーを掴んで出て行った。
俺と愛は急いで晩御飯を我先にと口に運んだが、全く味が分からず胃ばかり膨れ、カイは「もう無理だ」と茶碗を置いた。


消防士は殉職すると二階級特進する。
葬式に消防のラッパ隊が来て盛大に父ちゃんは見送られた。
愛は弔問客にお茶を出し、俺は力仕事を率先した。
お手伝いに来た親戚や母ちゃんの友達は「まだ下の子は中学生なのに」と俺達を憐れんだが、遺影を抱えた母ちゃんは、黒い着物の襟を整え喪主を務め上げた。

俺達家族は、父ちゃんは“いない者“その覚悟で生きている。
その日が来た、それだけだ。

でも、カイはちょっと違った。

火葬場での最後の別れの時、親戚のおじさん達はパンパン棺桶を叩いて父ちゃんに呼びかけていた。
「豪快で熱くて火山みたいで、消防士は転職だったな」
「火ぃ付けても燃えない男なんて言ったよなぁ!なのにごうさん、ちょっと早すぎるよ」
焼いても燃えない火山男の父ちゃんは、現場での転落死だった。
厚めに塗られた化粧の下に痣が見えて、俺はと手を伸ばして指を丸めた。
寝ているようだって皆んな言うけど、スパイが変装で脱いだ後のゴムみたいで、父ちゃんじゃないみたいに小さい。

本当にもういないんだ。

「ほらカイ、泣くな兄ちゃんだろ!」
叔父さんの少し呆れた声に顔をあげると、カイがほとんど空っぽのシャンプーを押し出したみたいな、カスカスの嗚咽を喉から搾り出して棺桶に抱きついた。

「・・・うぅ、う・・ど、父ちゃん、俺、ぐ、ず、好きで、兄ちゃんになってないぃ・・・!」

カイに家族を支える器量は無かった。
父ちゃんが生きていたからギリギリ保った「カイなりの必死の正義」が涙で溶けて、小さいカイが剥き出しになっていく。

係の人も驚く粘りようでなかなか焼けなかった父ちゃんは、カイに後ろ髪を引かれたのかもしれない。

それでも人は骨になる。

「リキ、バスケ選手になんだろ?父ちゃんの喉仏の骨だ、拾っとけ。下手くそでも父ちゃんみたいに一番声のデケェ奴になれ」
叔父さんに言われ、小さな骨のかけらを俺は必死に拾った。
目を腫らしたカイの大きなため息で父ちゃんの灰がふわふわと舞う。

見ろ、豪さんの火山灰だ、と誰かが笑った。


皮と肉があれば悲しみも増すが、燃えて骨だけになると面影が消える。
帰る頃には大きな月が出ていて、月見の夜に父ちゃんは正真正銘、本当に“いない者“になった。

カイは何とか自分を保って仕事をし、家計を助けてくれたが、俺がプロ入りすると退職し、実家に帰らず俺のマンションの一室に引き篭もった。


「来ないで大丈夫って電話口で伝えたのに!」
母ちゃんはベットからの転落したショックで血圧が急上昇しただけで、今は点滴で落ち着いているらしい。
「試合の日は来なくていいからね?」
プリプリしてんだか、甲斐甲斐しいのか分からないが、気の強い良い女に育ったもんだ。
妹は病院の待ち合いのソファに座っていて、俺が隣に座ると母ちゃんの洗濯物が入った鞄をぎゅっと抱え直し、ぴったり肩をくっつけた。
俺は怒鳴られ損でない事と、母ちゃんの無事に安心する。

閉店間際の売店に向かう入院患者を見送りながら、病院は健康になる為に行く場所なのに、来ると不安にばっかなるな、と息を吐いた。

「カイ兄まだ引きこもってんの?」
「まぁな」
「追い出しなよ」
「う〜ん」
俺の服ジロジロ見て、袖を引っ張る。
「ねぇ、服の趣味変わった?」
「へ?」
「リキ兄がこんな上品な服着るはずない。あ!もぉ〜!やっぱカイ兄追い出せって!」
「なんでそうなるんだよ?」
「彼女でしょ?」
「彼女、ではない」
嘘では、ない。
「好い人はいるんでしょ!やだもう!カイ兄が引きこもってたら家呼べないじゃん!」
それは、図星すぎる。
「お、俺が行くからいいんだよ!」
「怪しむわぁ」
「だから俺が行けば」
「違う、カイ兄をどうにかしろって言ってんの!」
分からずやの俺に舌打ちをしながら荷物を抱え直す。
機嫌を取ろうと、持とうか?と手を出すと「平気」と叩かれて、しゅんと首が落ちた。

カイは順調に俺のマンションに引きこもっている。
プロ8年目の今は余裕もあるが、入団した頃は自分の事と母ちゃんの事で精一杯でほったらかしている間に40キロも太ってた。

よく育ったもんだ。

母ちゃんも少し落ち着いた昨シーズン中、愛としっかり相談し、今後のキャリアを考えて他府県である今のチームに入団を決めた。
このチームを選んだのは同期でチーム3年目の満がカイの良き理解者になってくれた事もある。

1年前、すっかり引きこもって俺以外の人間と関わらないカイを持て余して相談したら、満は「俺に任せろ!」とわざわざ家まで来てくれた。
そして、森の奥に住むトトロみたいなカイを見てにっこり笑うと「パンチョ」とあだ名をつけた。

この絶妙なネーミングが何かを目覚めさせたのか分かんねぇけど、これをきっかけに「お化けブタのパンチョ」という名前でオカルト系YouTubeを始め、なんとカイは自立を目指し始めた。
今は満も近くにいるし、俺のこれからの人生の為にも早く自立はしてもらいたいが、事を急いで振り出しに戻ると困る。
慎重にいきたい。


父ちゃんの墓に顔を出した。

俺、声と体のでかい立派なバスケットマンになったぜ。
爆発力のあるゴール下のプレイは「まるでボルケーノ!」俺の噴火する戦歴が灰のようにコートに積もっている。
なんて、スポーツ記事に書かれた。大げさな表現、マジで恥ずかしい。
恋人の報告は・・・バレてるだろうけどまたにするわ。



新幹線の中で有時さんに電話して、満のLINEの返事をしたら、ちょうど「飯に行った帰りだから」と駅のロータリーでピックアップしてくれた。
「お母さんに大事なくてよかったな」
母ちゃんの無事にホッとした満の声に俺も肩の力が抜けた。
「てかさ」
「ん?」
「俺、今日のリキの服見覚えあるんだよな?」
運転席の満がチラチラとシャツを見る。
「そうさん、着てなかった?」
「え?有時さん?き、気のせいだろ!」

十五夜の次の日が満月。
明日の夜は借りた服を返しに狼男が出没するかもしれない。


上にも下にも人はいる

私の人生哲学

「自分を守れる人は、人も守れる」

自分を守れるというのは、金や地位や名誉で、ではなくてそういう精神とか、理解と判断が出来る人。

それが出来ない人もいる。

私は自分を守るのが得意でない人は、守れる人のそばで素直に生きればいいと思う。
無理に強くなるより、自分の弱さを出して頼ればいい。

頼られる事が幸せな人もいるから、その甘えた行動が人を助けていることもある。
正解がなく、沢山の人がいるから世界は面白いんです。


消防士の父を持つこと

同時多発テロのあった時、私はアメリカに向かう予定を繰り下げた。
だからかとても記憶に残ってます。

私は阪神淡路大震災を大阪で経験しました。
大阪の私の住む地域は震度3〜4で大事はなかったのですが、揺れの長さや異常さ、余震頻度は幼い私の心に深く残っています。

被災当時、就学前の妹と父と母が一階の寝室、私と姉2人は2階の各々の部屋で就寝していました。
早朝に揺れを感じ、地響きと揺れを感じながら私は夢から覚めて息を潜めました。
何か大きな長い動物が地底を這っていると思ったのです。

揺れがひと段落すると、一階から父が大声で点呼をとり、家族全員の無事を確認。

数年後に、あの日2階の私達3人以外は、庭に避難していた事を知りました。
父は揺れた瞬間に飛び起き、隣で寝ていた幼い妹を抱えて、母の手だけをひいて安全な庭に避難していたんです。

どう思いますか?
子供を見捨てたひどい親でしょうか?
そう思うのも正しいと思います。

しかし、私はその行動を心から「かっこいい」と思いました。

なぜなら、父は消防士だったからです。

即座に現場を把握し、救える命の判断を下し、迅速に実行した事に敬意すら感じました。

父は災害時に“いない者“になります。
そして、断腸の思いで娘でも“いない者“にできます。

あの日、父が私達3人も救っていたら、母も妹も無事ではなかったかもしれません。
父は、指示だけでは母が動けない人とよく知っている、だから手を引いたのです。

私達は、自分である程度の事なら対処出来る術を父から学んでいました。
自分で対応出来るし、直ぐに人を頼る事も学んでます。

救える命を最優先する。

そこに愛や、情やなどないのです、それが災害時に命を救うという事。

災害大国日本で、幸せに生きれるように彼らは判断しています。
その懸命な判断を理解してもらいたいです。

因みに私の父は健在で、YouTube見ながらシュークリーム食べてます。



テロや災害、すべての犠牲者と、生きる人へ。

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