徒然なるままにインド⑧〜無料でカレーなプラサード体験:イスコン寺院編〜
プラサード?
それは、ヒンドゥー教の寺院で参拝者に無料提供されている神さまのお下がり(供物)をたまわること。
お菓子が殆どらしいが、カレーを用意してくれる寺院もある。
祖母が生きていた頃、お寺で御詠歌(仏教の教えを和歌にして節をつけたもの)をしていたが、あちこちにお参りに行っては、落雁や最中なんかを土産にくれた。
今思えば、きっとあれもそうだったんだろう。
私たちはカレーをご馳走になるので、簡単に言うと「神さまにランチでカレー奢ってもらう」のである。
簡単に説明し過ぎて神さまの重厚感が吹き飛んだが、そう簡単に受けれるものではない貴重な体験なんです。
観光客が「来ちゃった!」でズカズカいけるものではないのだ。
そもそも私もヒンドゥ教ちゃいますしね!
山猫軒
私達は、デリーのイスコン寺院を伺った。
ここは他宗教の人も受け入れてくれるかなり大きい寺院。
イスラム教の寺院であるモスクでもよくあるが、他宗教を受け入れない所は多い。
そんな中で他宗教の参拝も受け入れてくれ、プラサードまでさせて頂けるのは珍しい、らしい。
参拝前に、まずは装備を整える。
インドの民族衣装クルタかサリーに着替え、腕や足は露出しない。
院内は靴下か裸足。
私はクルタを持ち合わせていないので、Tシャツにロングスカートで行かせてもらった。
モスクでもそうだが、タンクトップやキャミソールはタブー。
ハーフパンツやミニスカートも失礼なので、やむを得ない場合はタオルやストールで肌を隠す。
イスコン寺院は、インドの神様ランキングでもかなり上位のクリシュナを祀っている。
探してみると、自宅にたまたまあった「ヴァガバットギーター」がクリシュナの武勇伝だったので挿絵で確認。
クリシュナは顔が青くて横笛を吹いている姿で描かれている。
て、よく見たら吹いてへんな。
受付を済ませてセキュリティチェックを受ける。
ガムや飴などの食べ物は持ち込めないので没収。
靴を履くのはここまで!
インドに来てから裸足で外を歩くことに全く躊躇がなくなった。
が、躊躇は無くても熱には耐えれない。
石畳の地面は真夏の砂浜くらい熱い!少しでも日陰を見つけないとカレー食う前に私が石焼ビビンバになってしまう!
「プラサード受ける人、あそこにの布に座ってね」
インドの友の指示に従い、旅の友と日陰の石を奪い合いながら現場に向かう。
セーフティゾーンが無い階段を駆け降りると、辺りを見渡した。
日陰は既に埋まってる。
くそ、出遅れた!
時間の経過で日陰になる、渋々あっつい日向に座った。
下に布を敷いてくれているおかげで少し暑さは和らぐが、なんて晴天!
サングラスを掛け直し、日焼け止めも塗り直す。
いつ始まるのか分からず、もうかれこれ20分座っている。
布の下からもジワジワと尻が熱くなってきた。
もしかして、カレーを待たせるふりをして、私を加熱調理しているんじゃないか?
常温保管で40年生きてきたが、ここが潮時か。
身だしなみを整え、ゴム底の靴を脱がされ、長時間じわじわと加熱調理されていく。
そんな話を少し離れた旅の友に話したら「注文の多い料理店か」と人生初のツッコミをもらった。
この一言の価値は大きい、いいネタになる。
待ち時間、悪くない。
インドで又吉のコントを忠実に再現する
私の向かいに座っていた旅の友のインドのプロが教えてくれた。
「カレーもらう前にお祈りあるんやけど、クリシュナ派は歌いながら踊るんよ!ハレー・クリシュナ〜♪ってな」
彼女はインド舞踊もやっている歌って踊って買い付けも出来る関西人。
ピンクのクルタでさらっとその場で踊ってくれた。
踊る・・・だと?
私の心に、一抹の不安が芽生えた。
まずいな。
又吉の「ライブ初参加なのにノリを合わせないといけない」コントみたいになる姿しか浮かばない。
先に聞いていればコソ練してきたのに。
私のダンス歴は学生時代のロックダンスを少しと、世代的にパラパラ。
古のナイト・オブ・ファイヤーで太刀打ちできるのか?
相手は神だぞ?
しかもクリシュナはヴィシュヌ(ギリギリ最強ぶっちぎりに偉い神)の化身だぞ。
数多の伝説の中でも特筆すべきはクリシュナの怪力。
その怪力で山(?)を持ち上げて、嵐と戦の神・荒ぶるインドラを萎縮させ「すんませんした!」戦わずして詫びを入れさせた伝説は有名だ。
山持ち上げる?グラップラー刃牙みたいな事言うてんねんけど?範馬勇次郎なん?
私の不安をよそに、大きなお鍋が次々と運ばれてきて、着々と準備が始まる。
皿が行き渡った頃、突然マイクチェックが始まった、祈りの時間だ。
ストレッチも不十分だが、アフリカの先住民ほどもソウルフルに踊ったりは流石にしないだろう。
来たもんは仕方ない、腹を括るんだ私。
私は1人、唾を飲み、場内にすっと静けさがやってくる。
チェック、ワンツー・・・チェックワンツー・・・
突如、僧侶がマイク持って登場、
湧き上がる会場、
側で座る私神妙。
動きの予想
それ以上!
それお経?
上がるビートでフロア独壇場
ハレークリシュナ、ハレークリシュナ!ハレーハレーハレー!!!
想像以上にアゲアゲだ。
歌うと言うより独特のリズムで唱えられるマントラに、僧侶の熱気が上がっていく。
神さまの応援チャント?いや違うな。
僧侶のソロ、後から私達のマントラのコール&レスポンススタイルだ。
あまりの一体感に私も見よう見まねで手をあげる。
と、皆んな手を合わせる。
慌てて合わせようとしたら片手だけあげる。
見かねた隣の人に「こうよ」手を掴んであげられる、模範的なコント通りの動きになってしまった。
この一皿のために
祈りは3分ほどで終了し、前から順番にカレーが振る舞われていく。
こっそりウェットティッシュで手を拭いて、今日は私も素手でいただく。
もたつく私を暫く見つめていたお隣さん(踊りを教えてくれた人)が英語で声をかけてきた。
「あなた信仰はどこ?」
「あ、仏教徒です」
咄嗟に答えると、その隣の娘らしき少女も珍しそうに私を覗き込んだ。
しばらくの沈黙。
女性は黙って鞄からアルミの丸いお弁当箱を出すと、多めにもってもらったカレーを詰めだした。
他宗教だったら何かあるのかな・・・?
参拝者の中にはちらほら欧米人も見かけたが、プラサードを受ける人を見渡す限り、私達しか他宗教の人は居ないように見える。
嘘をついている訳ではないし、許可を得ているから堂々としていいが、よく思わない人だっているだろう。
黙ったままお弁当箱を閉めて鞄に大切にしまった。
カレーのおかわりがまわってくると、お皿に2杯目をもらい、配膳している女性にヒンドゥ語で何か話す。
暫くすると違う女性が来て私の皿に何か足してくれ、女性はそれを指さして一言。
「辛いでしょ?これ甘いから混ぜて食べて」
優しい。
食事が終わるとお隣さんは立ち去り、隣にいた少女は先にもらっていたのか、2枚目の皿でカレーに蓋をして残りを持ち帰った。
家族の分なのか、夕飯にするのか。
大切な一食だ、食事の大切さを痛感した。
すぐに次のプラサードの席取りが始まる。
若い女性の3人組で私の隣に座ると、やはり「仏教徒?」と聞いてくる。
「そうよ、始めて来たの」と今度は胸を張って答える。
「素敵ね!
トラッシュはあっち、近くでジュースももらえるわ!」
優しい。
ありがとう、と手を合わせると、こちらこそ、と手を合わせてくれる。
可愛いし、優しい。
インド女子好き。
勝ち方より、負けない方法
外国に行くと必ず「国はどこ?チャイナ?」と聞かれる。
だが、ここではみんな「信仰は?」と聞いてくる。
日本人には無い感覚で、他の国でも耳慣れない質問。
それだけこの国では信仰が大切なのだ。
無宗教と言われる日本では体感することは少ない、神さまの気配が濃ゆい。
この後に寺院の中に潜入し、お祈りを見させていただいたが、圧巻だった。
このくらいウルトラソウルに祈らな願いなんてかなわんわ。と、悔しい気持ちで寺院を後にした。
祈りはオフェンス力がいる、ヒットファースト。
日々の積み重ね、どこまで信じて本気で取り組むかは今後の祈りのキーになる。
素早く神の懐に入り、優位なポジションで信仰をする。
そのためのアピールは大事だ、日陰の花に未来は遠い。
困った時だけ行って、5円投げ込んで「お願い神様」じゃあ、願いのディフェンスは突破できない。
信じて突き進む姿に、トム・ホーバスの目指す日本のバスケットの未来を見た。
じゃない、
信仰の大切さと動き続けることの重要性、そして信じることを学んだ。