人事評価制度の基本 ―心理的偏向―
人事考課とは、「企業人事において上司にあたる者が部下の業務における成績や能力、仕事への意欲などを総合的に評価する」ことを言います。
配置、昇進、昇格、賞与、教育訓練などに幅広く活用されますが、その主な評価技法には次のようなものがあります。それぞれ長所、短所があり、状況に応じて使い分けられます。
主な技法
①序列法(成績順位法) 従業員の勤務成績を相互に比較して、総合的に序列をつける方法です。被考課者の人数が少ないと実施が容易ですが、具体的な基準がないため説得力に欠けることと、量的比較が行いない可能性があります。
②人物比較法 要素ごとに被効果者から標準的な人物を設定し、その人物と比較評価する方法です。評価基準が人物として実際に存在しているので、比較が行いやすいですが、明確な標準基準が存在しないため、言語化し難いため評価結果に対する納得が得られ難いです。
③評定尺度法(図式尺度法) 評価要素ごとに一定の尺度を設けて、その評価要素ごとの点・単位によって尺度段階の分布により総合的に評価する方法です。視覚に訴えるので、直感的に理解されやすいですが、考課者の作成が混入しやすいです。
④プロブスト法(照合表方式) 具体的な行動見本(=チェックリスト)を作成し、考課者が確信の持てる項目にのみチェックして評価する方法です。
評価者の主観による差を軽減され比較的平等な評価がされやすくなります。
反面、一度作った評価基準をそのまま使い続ける可能性があり環境や時代に合った評価シートでなくなる可能性があります。また、評価が単調化してしまう可能性があります。
人事考課における心的偏向
人事考課の過程において、考課者が無意識に起こしやすい心理傾向があります。人事考課が公平性・信頼性を得るためには、考課者自身の能力の向上が不可欠です。そのため、講習や評定実習等による考課者訓練を行う必要があります。なお、代表的な評
価誤差(心理的偏向の結果)は次の通りです。
① ハロー効果 ある対象を評価する際、目立つ特徴に引きずられるように、他の特徴についての評価までが歪められる現象。
② 寛大化傾向 個人的感情等の理由により、実際よりも甘く評価してしまう傾向。
③ 中心化傾向 評価結果が平均的な階層に集中し、あまり差が生じない傾向。
④ 対比誤差 考課者本人を基準とすることにより、過大評価又は過小評価してしまう傾向。
人事考課の補完的制度
人事考課を公平かつ公正に行うことは上記にあげたように考課者の能力ももちろんですが、様々な環境要因があり、適正に評価することは難しいでしょう。そこで、人事考課を適正に行うために各企業が取り入れている仕組みを紹介します。
●自己申告制度
自己の業績に対する評価、自己の能力・取得資格等、希望職種などについて従業員に申告させる制度が自己申告制度です。社員一人一人が自らの目標の達成度やその過程をにおいて客観的に評価することで、目標と実績とのギャップを埋める役割も担って
います。また、適正配置、教育訓練・能力開発や従業員の動機づけに役立ちます。
●ヒューマン・アセスメント
上司ではない複数のアセッサー(観察者)が心理学的見地から、従業員の潜在的能力・資質を事前に発見・評価する者がヒューマン・アセスメントです。管理職や専門職の選抜等のためにその職務・職位適正評価を行う制度で、従来あまり評価していなかった要素も評価することができるようになります。ただし、それだけの労力と時間が掛かってしまいます。