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写真は住吉踊りだけど、書くのは喬太郎師匠のこと。

 浅草演芸ホール8月中席の昼は、恒例「納涼住吉踊り」で大盛り上がり。私は、踊りが始まった直後に滑りこんだのだけど、たくさんのお客さんがいて、空席を探して移動するのもはばかられたのでずっと立っていたけれど、それも気にならないくらいの楽しさだった。
 一番左で黒いサングラスをかけてやさぐれているのは顔偏差値が高い、と春風亭一蔵師匠にいつも言われている八代目柳亭小燕枝師匠だよ。

 私は、夜席が目当てで出かけたので、昼もちょっと見られただけでもうれしかったけれど、その日急遽プログラムが変更になって柳家喬太郎師匠が主任になります、って書いてあった。
 さらに、喜びが!

 そう、聴きたかったのは喬太郎師匠だったから。もうほんとに喬太郎師匠は独演会のチケットは取りにくく、二人会、三人会は何回もお邪魔してるけれど、寄席だとまた違う雰囲気になるから楽しみにしてた。
 ふらりと来てみたら主任ってのは、かなり嬉しい。ということは、持ち時間が他の人より長いってことだもの。

 題目は、「死神」! この暑い夏に、背筋を寒くしてくれるような話。出て来た師匠は、「まくら」もほどほどに(いつもはとんでもないことを言ったりして爆笑をさらうのに)すっと話に入っていったので、その真剣さも伝わる。なんでそう思ったのかと言うと・・・。

 昨今のある大学の不祥事で、この日その大学出身者が3人いた。わさび師匠はまるで自分が犯したように謝り倒して過去のスキャンダルまで持ちだして来て笑いを誘っていて、一之輔師匠は完全無視で(他の日は言っていたのかもしれないけど)、いつもののらりくらりとした「まくら」で爆笑をさらって降りていった。
 さてトリの喬太郎師匠はどうするのかな? と思っていたから。

 それが、すぐさま「死神」に入るものだから、「ああ、主任だものね。格調高くいかないとね」と思い直して、話に没頭していた。
 そして、「死神」を追い払う呪文を習うくだりになった。なんと、その呪文の中にスキャンダルを揶揄する言葉を盛り込んで来たんだな。会場は地割れするくらい瞬時にどっっと湧いて、もちろん私も大爆笑。
 喬太郎師匠の真骨頂だな、と思った。こういう鮮やかな手口(ちょっと言葉悪い)が、さも何でもないようにできちゃうところ、ね。

 話は進んでいき、いよいよ大団円。死神が、命の蝋燭について説明するところ。
 あれ・・・、何? この匂い。なんだか、不思議な匂いが漂ってきた。マッチを擦った後のちょっと硫黄が混じったような・・・。そう、蝋燭をつけた後みたいな。
 まさか、ね。
 何回も深呼吸並みに大きく息を吸ってみたけれど、やはりその匂いはしてくる。
 怖い!
 臨場感たっぷり。もちろん、何か他の匂いがそのように感じさせて(何しろ会場は飲食OKだから)私が怖さのあまり大誤解してしまった可能性の方が大きいけれど、それがちょうど蝋燭のシーンてのが・・・。
 私の友人で、三遊亭萬橘師匠が「時そば」をやった時にそばが見えちゃって、そのことを師匠に言ったら、
「違うもの見えなくて良かったね」
 と言われたというけれど、それに近い現象。

 さすが喬太郎師匠、持ってるね。
 そんな匂いを察知したのは、私だけかもしれないけど。
 ともあれ、最後はばたっと倒れたまま(最近の師匠は膝の調子が悪いので
前に釈台を置いていて、そこに身体全体を預ける形で)幕が閉じ始めた。
 やんやの喝采。そして、師匠は顔をあげることなく最後まで。

 夏の夜、思わぬ番狂わせのお陰で、喬太郎師匠を堪能できましたとさ。
 

 

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