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桂歌春師匠に、45年以上前に会っていた場所は、ここ。
池袋の東武デパートの8階レベルにある屋外スペース。先日、ふと立ち寄ったら、思い出しちゃった。
その昔、中学生だった私は、お友達2人と池袋に遊びに来ていた。たしか、初夏の頃。この時もふとこの場所にやってきたっけ・・・。
そうしたら、何やら大きな音がしていて、ステージの上ではイベントがやっていた。もう細かいことは覚えていないのだけど、MCをしていたのが桂歌春師匠。当時は、枝八さん、ね。
「あ、枝八さんだ!」
私たちは、喜んだ。何しろ、枝八さんと言えば当時「ぎんざNOW」という平日の5時頃(時期によって開始時刻が変わったと思う)から始まる帯番組のサブ司会。人気者だったから。メインは、せんだみつおさん。
ちょうど学校から帰るとオンエアされていて、ほぼ毎日見ていた。まだ「ぴあ」だって、月刊で薄い雑誌だった頃。エンタメの情報はなかなか入手しにくかった。ましてや海外アーティストの映像なんて、ほとんど放送されない。それが、木曜日だったか「ぎんざNOW」の中にコーナーがあって、ちょっとだけ流してくれたので、ほんとにありがたかったな。
そして。当時の枝八さんは、優しそうな瞳がステキな好青年だった。今調べたら、当時は20代半ばだったようで。
枝八さんは、テレビと同じテンションで、イベントを仕切っていた。赤いボーダーのシャツを着ていたと記憶している。いつもテレビで見ている人が、そこに。今でこそ、そういう状況には慣れつつあるけれど、当時は中学生、夢のようなできごとだった。
「サインもらいたいね」
全員一致の希望。
本番が終わるのを待って、声をかけた。
でも。
私たちは、その場に偶然来たので、当然色紙も筆記用具も持っていない。サインをしてくれることは、快く了承してくれたのだけれど、
「ペンがないと・・・」
と言われてしまった。
当然!
ペンがないと、書けない。
枝八さんは、申し訳なさそうに去って行った。それなのに、私たちちょっとがっかりして、
「テレビと違うね・・・」
なんて。
ごめん、歌春師匠。無料スペースにふらっとやって来た女子中学生たちに、やさしく接してくれたのに、そんなこと思ったりして。
時は流れて、令和に突入。流行り病のせいでほとんどのエンタメが中止、延期する中、寄席は感染対策をしつつ開いてくれていた。そこで、初めて寄席経験をしたのだけれど、こんなに面白くお気軽で奥の深いエンタメがあるんだ、と今更ながら感動し、足繁く通うようになった。
通ううちに、何人かの「推し」も見つけ、尋常ならぬ世の中においても結構楽しく過ごしていた。
寄席に行けば、当然ながら歌春師匠の落語を聴くことになる。銀髪のお上品なルックスで、若い頃はさぞイケメンだったろうなと思わせるその瞳。控え目でゆっくりとしたしゃべり方で、江戸の世界に誘ってくれる。
ある日、歌春師匠が枝八さんだったと知る。
「えええっっっ!」
びっくりした。
そもそも、「ぎんざNOW」を毎日見ていた頃とは45年以上の月日が流れてる。それなのに、すぐに枝八さんのことを思い出した。
「ああ、目に面影が・・・」
納得。ちょっと垂れ目だけれど愛嬌のあるその瞳は、ほぼ当時と同じ。
歌春師匠は今では、落語芸術協会の監事もつとめていて偉い人。落ち着きもあるし、人望もある。ステージを所狭しとちょこちょこ走り回っていた人と同じとは、とても思えない。
このステージは、記憶の中のそれと同じだけれど、もしかしたら建て直しているかもね。でも、ここに佇むとあの日のことが鮮やかに思い出されるよ。その時一緒に行ったお友達、どうしてるかな? 元気だと良いな。
とうに連絡を取り合わなくなってしまったけれど、歌春師匠には寄席に行けば会える。そして、笑わせてくれる。
年は取るもんだな~、と年齢を重ねることは悪くないと思わせてくれるできごとでした。
さぁ、今日も落語のディープな世界にひたろうっと。