ドクターペッパーの思い出 その2
実は。
私は、高田くんのことが好きだった。このようになんとなくとぼけたようなキャラクターで、楽しませてくれるからだ。
だから遠足の朝、自慢気にドクターペッパーのことを言ってきた時は、話しかけてくれただけで嬉しかった。
私は高田くんを好きになる前は、明るくて元気な女子だったけれど、恋に目覚めてしまい、少しシャイな性格になっていた。そのせいで、せっかく話しかけてくれたのに、曖昧なリアクションしか取れなかったと思う。
それと、
「水筒に入れるとお昼までには、炭酸が抜けちゃうんじゃないかな?」
と思ったけれど、高田くんがあまりに嬉しそうにしているので、とても言える雰囲気ではなかった。
苦しい登り坂を耐え、ようやく山頂に着いた。
お弁当の時間になった。
「あ~・・・」
少し離れた所から、高田くんの悲し気な声が聞こえてきた。
「炭酸が・・・」
やっぱり。
朝にはしゅわしゅわと音をたてていたドクターペッパーも、この時点では甘ったるいただの色つき水に変わっていた。
ふと思ったのだけれど、途中の休憩の時にはどうだったのだろう。高田くんが叫んだのは、たしかにお昼の休憩の時だったから、もう一つ麦茶か水を入れた水筒を持参していて、休憩の時はそちらを飲んでいたのかもしれない。
それとも昭和の時代のこと。途中の水分補給は、禁止されていたか。中学の部活の時は水を飲んではいけない、と言われていたので、ありえないことではない。
ともかくドクターペッパー。高田くんは、残念そうにその悲しい飲み物を飲み干していた。
けれどもこのエピソードは、ますます高田くんを好きになるできごとでもあった。
ドクターペッパーは、かなり好き嫌いが分かれる飲料だと思う。
私も最初は、
「うっっ」
となった。
けれども大好きな高田くんが、
「ドクターペッパーって、おいしいよな」
と言っていたので、亭主の好きな赤烏帽子的な気分で好きになっていたのだと思う。