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吉祥寺を「町」から「街」に変えた男の店の前にて。

 あ。
 思わず足を止めたのは、吉祥寺パルコの裏にある「Funky」のお店の前。
 そういうことね。
 次に、納得。
 夏に惜しまれつつ閉店したケーキショップ「レモンドロップ」は、今は亡き野口伊織さんが1980年に作ったお店。そして、この「Funky」も同じ系列だから、ケーキだけでも店内で食べられるようにしたんだね。
 調べると、もう一つの名店、ジャズが流れる「SOMETIME」でもケーキは食べられるみたい。

 実は、レモンドロップのケーキは、私にとってほろ苦い「青春の味」なんです。1980年代前半、町には今のようにおしゃれなお店も少なかったと思う。そんな時代、吉祥寺で一人暮らしをしていた私は、経済的にも余裕がなかったので、お給料が出た時、レモンドロップに行き、
「バナナクリームパイ、一つでも良いですか?」
 ってお店の人に聞いたら、嫌な顔一つしないで、
「はい、もちろんですよ」
 と笑顔で答えてくれたお陰で、あの黄色いボックスに入れてもらって帰宅したのでした。
 それからは、味をしめてよく一つだけ買いに行っていた。

CAKE TOKYOさんからお借りした店舗の画像

 この黒人のおじさんは、新しい箱には付いていないのかな? 黒と黄色のコントラストが大好きで、食べ終わってからもカセットテープ(古っ)入れにしたりして、長い間使っていたよ。
 実は、レモンドロップは最初吉祥寺の南口にあった。しかも、同じ場所には、その前に「MATCH BOX」っていうやっぱりおしゃれなカフェがあった。それも野口さんが手がけたお店だったと記憶しているけれど、吉祥寺を「町」から「街」に変えた男、と言われるくらい時代の一歩先を行っていたと思う。その恩恵をたっぷり受けて吉祥寺での生活を満喫していた私。

 その後も、井の頭線沿線にずっと住んでいたので、一番近い都会は吉祥寺で。野口さんが天国に行っても、ずっと元気にお店は続いていたからレモンドロップもずっとあるという前提で暮らしていた。
 それどころかアトレに出店したりして、どちらかと言えばあまたあるお店の稼ぎ頭だと思っていたから。
 だから、突然のお知らせに本当にびっくり。
「いつまでもあると思っていたのが間違い!!」
 けっこう自分を責めた。
 それがこうしてまた再会できて、ほんとに嬉しい。

 吉祥寺は、よくアンテナショップとして使われることが多い。ものすごく都会でもなく、色々な年代の人が利用していて、データを取りやすいかららしい。つまり、初めて出店するチェーン店などが様子伺いにさりげなく開店している、ということがよくある。もちろんその時は、こちらは何も知らないわけだから、
「新しいお店できたんだ」
 くらいの印象。
 それが、短期間で閉店しちゃうので、
「あ、人気なかったのかな?」
 と思っていると、突如新宿や渋谷に大きな店舗を展開するということがあるわけで。
 そんな町で、ずっと面白いお店を作り続けてきた野口さんは本当にすごいと思う。いや、逆かも。野口さんがそうやって町を作ってきたからこそ、そのようなデータを取る町に度々選ばれるのかもしれない。

 吉祥寺を「町」から「街」に変えた男。一人の人間につけるキャッチコピーとしては、そうとうにイカすと思う。
 なんだか背景に壮大なドラマがありそうで・・・。

 野口さんのことを知りたくなった人は、こちらを訪ねてみてね。

 次に吉祥寺にお邪魔した時は、レモンドロップのケーキを食べよう。私がさんざんお世話になったバナナクリームパイはもう無いみたいだけど、人気のレモンパイは堂々と現役のようだから。



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