私のイチオシ、三笑亭夢丸師匠のサタデーナイトの池袋のトリ。
そもそも。
今では当たり前に寄席や落語会に通っている私だけれど、はっきり言って新参者。流行り病がはびこって、好きなエンタメ(ライヴや演劇)が軒並み中止になる中、寄席だけは(時々クローズもしたけど)健気にやっていてくれた。
それで、持て余したエンタメ魂を満たしてもらおうと、出かけて行ったのが運命の出会い。すっかり落語沼にハマってしまいましたとさ。
その中でも、大好きになった三笑亭夢丸師匠。師匠のすごいところ。
①枕が毎回違う。
特に独演会では(もう沼にハマりにハマっているので、しょっちゅうお邪魔している)、
「ここ来る時に、枕何話そうかな~って考えてたんですけど・・・」
などと言いながら、話しだす日常のエピソードは悶絶もの。仕事で乗った大型客船が台風になり、下船できずに独演会に間に合わなくなりそうになった話、お友達と(謎のおじさん)あちこち小旅行をした際日帰り温泉で起きた騒動、やむなく娘さんを寄席に連れて行ったら、師匠のネタより差し入れのお菓子に感動しちゃった話など、それ自体起承転結がしっかり組み立てられていて、すでに一席聞いたような気がする。
「何話そうかな~」と真剣に考えて、高座に上がっているんだなといつも感服しちゃうとこ。
②古典なのに、あちこちアレンジ、エスプリが効いていて新鮮
師匠は、古典派。それも、このままだと埋もれてしまいそうな、落語芸術協会のお家芸のネタなどを掘り起こしたりもする。もちろん大ネタも。どれも師匠にかかると、細かいアレンジやリアルタイムの笑いがまぶされていて、(時には枕で話した師匠の失敗談からの引用など)オチを知っている話でもじゅうぶんに楽しめる。
「寄席の歯車になりたい」
と言う師匠は、寄席が大好きなんだなとわかる。年に数回、あちこちの定席でトリ(主任)を取るけれど、そこでは寄席の主任として、独演会とは違った魅力を見せてくれるところ。
③上にも下にも同期にも気負わない。
ずっと春風亭一之輔師匠とそれぞれの名前から一文字取って「夢一夜」という二人会をやっているけれど、一之輔師匠がこんなことに(って、良いことだけど、笑点のレギュラー)なったので、いきなり大きな差が開いたように見えるけど、それも笑顔で受け入れて。夢丸師匠は、プライベートでも着物姿なので、目立つ。会の後、一之輔師匠と飲みに行くと、こんなことになったので(だから、良いこと!)、
「着物着てる人がいる。あ、一緒にいるの笑点の一之輔さんじゃない?」
みたいに言われちゃう、とそれも笑いに変えて。そうしたら、お客さんから
「安心して飲みに行けるように」
と、2人お揃いのポロシャツをプレゼントしてもらってた。この話も枕で聞いたけど、プレゼントのくだりがオチになっていて、ストンと落ちた。
前座修行の終わりごろ、今じゃ人気者の柳亭小痴楽師匠が入って来た。まだ10代、遅刻癖があった(今も・・・)小痴楽師匠が楽屋入りに遅れた時、偉い師匠にばれないように、
「コンビニで何か買って、よじ登って2階から入れ! そして、袋下げて降りて来てコンビニ行ってましたって顔しろ」
とアドバイスして、小痴楽師匠を庇ってあげたり。
瀧川鯉八師匠の初高座の時、
「お客さんが多い、土日に初めて上がると良いよ。初めてですって言えば、お客さんも温かい目で見てくれるから」
と言って、配慮してあげたり。
小痴楽、鯉八師匠の話は、それぞれご本人から聞いたので、そのやさしさ、ありがたさは10年以上(何しろ前座時代の話)経ってもしっかり覚えてるんだなー、と夢丸師匠の人柄に改めて感動しちゃうところ。
③そして笑顔
「萬才くずし」という出囃子に乗って登場する時、師匠はいつもいつも満面の笑顔。どうしてあんな笑顔ができるの? と毎回思う。それがとても自然で、良いわけ。お客が多くても少なくても、まったく同じ。
「今日はお客が少ない~」みたいに言って笑い取る人もいるけれど、師匠はそういうことは言わない。いつも、そこにいる人たちのために全力投球で、時には汗だくになって高座をつとめてくれる。その姿は、凛々しくもありありがたくもあり・・・というところ。
10月14日土曜日のネタは・・・。6歳の男の子が飲む打つ買うにハマっちゃって吉原にまで出入りしている。両親は困り果てるけれど、実はお父さんのその悪い癖を直そうと思ってわざとやってた、という人情噺。かと思いきやラスト思い切り落としてくれる。ちょっと調べたのだけど、題名がわからず。途中まで笑って、でも男の子の真意を知ると、父親思いの行動にほろり。う、このままだと大感動して泣いちゃうかも・・・と思っていると、
「息子はどこ行った?」の声に「野原で男女入り混じってお女郎ごっこしてます」みたいなオチで、えっっ! と予想外の展開につい笑って、ものすごいカタルシス。ああ、楽しかったって気分に。
ずっと書きたかった夢丸師匠のこと。今回紹介できたので、また近いうちにもっと他のことについても書いてみよう。師匠の笑顔を思い出すだけで、なんだか元気が出るぞ。本当。
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