甘い期待がほろ苦さを生む
先日、シブーストというフランス発祥のお菓子の存在を知った。一口味わった瞬間、好きなケーキランキング堂々一位に躍り出た。
シブースト (フランス語: chiboust) とは、クレーム・シブースト (crème chiboust) を用いた、フランス発祥のケーキの1種である。フィユタージュ(折りたたんだパイ生地)にリンゴ、クリーム・シブーストを重ねて、上面をキャラメリゼして作られる。
クレーム・シブースト:カスタードクリームにゼラチンとイタリアンメレンゲを混ぜて作ったクリーム。
(引用:Wikipedia)
それからというもの、ことあるごとにシブーストが食べたくなった。上半分のクレームブリュレ、下半分のアップルパイ。ムースのような、プリンのような、チーズケーキのような中間層。フォークで全部の層をひとすくいしたい。それぞれの層をちまちまと舌に乗せて美味しさを噛み締めたい。
シブーストについて検索すると、レシピを見つけた。お家で簡単・シブースト。本当かな。だって三つのお菓子を一つにまとめたようなケーキだよ。欲張りな私が大歓喜のケーキだよ。そりゃもう三倍大変なんじゃないかなあ。
ひとまずクリックして、材料を確認する。りんご、砂糖、グラニュー糖、バター、卵、薄力粉、牛乳、粉ゼラチン、市販のタルト台。
おや、これは作れるかも。グラニュー糖は砂糖をすりつぶせば代用できる。市販のタルト台の代わりに冷凍パイシートを使おう。
そうして意気揚々とリンゴを煮詰め始めた3日前の私。
翌日、完成したシブーストを手放しで喜べていない自分を想像もせずにリンゴを煮詰めていたとは・・・。
ーーけれど、一番最初に食べたケーキ屋さんのシブーストが頭から離れない。どうしても比べてしまう。素人が一回でプロの味を再現するのは無理なのは分かっているけれど。
(引用:寅三奈のつぶやき)
正直、食べている間、非常にしんどかった。
口に入れる度にお手本の味と今食べている味をいちいち比較して、なぜ違っているのか、どちらの方が美味しいかなどと分析を始めてしまう。当たり前だけれどお店の方が美味しい訳で、その度に口の中の手作りシブーストが無の味になる。比較などしないで食べていれば、決してまずいものではないのに。
現に手作りシブーストを半分食べた夫は目を丸くさせながら食べていた。美味しそうに食べていてほっこりする。彼はお店のシブーストの味を知らない。このお手製シブーストが初めてだ。
せっかく今目の前にある美味しさを、幸せを、自分自身で無と化してしまうとは、なんとも悲しいことである。
知り過ぎ、というのは幸せから遠ざかってしまうのか。知らぬが仏か。
いや違う。
これもお菓子作りの話になるが、過去マカロンに大ハマりしていた時期がある。その時も漏れなく自分でマカロンを作りたくなり、数回実践したことがあった。でも、その手作りマカロンは何の雑念もなく美味しく食べられた。あの超一流のピエール・エルメ・パリのマカロンの味を知っていても。作ったマカロンが超一流の味と月とすっぽんくらいかけ離れていても。”マカロンとアーモンド粉焼き”という新たな慣用句ができてしまうくらいのアーモンド粉焼きでも。
当時マカロンを作った時の心境を思い出してみる。完成しただけでまるもうけ、そんな感じだったと思う。
マカロンには、マカロナージュというめちゃむず工程がある。メレンゲと粉を軽く混ぜた後、ヘラを使っていい感じに気泡をならすのだ。これが絶妙にできていないと、絶対失敗する。混ぜ過ぎても混ぜなさ過ぎてもダメなのだ。
本の出典が分からずご紹介できないのだが、当時マカロンを手作りした際にお供にしたレシピブックに、「マカロナージュはパティシエが頑張って練習してようやく習得する技だから、一回失敗しても落ち込まないで。根気よく。」といったようなことが書いてあった(記憶力が弱いので、正確な引用では無いことをここに明記しておく)。
その一行のおかげで、完成のハードルをグッと下げることができたのではないだろうか。残念ながら、根気よくマカロナージュを極めてパティシエ並みのレベルに達することはできなかったが、少なくとも作ったものを食べながら落ち込むことはなかった。
それを踏まえて今回のシブーストの件を振り返ると、めちゃめちゃ自分でハードルを上げてしまっていた。完成品を口に入れるまでは、大優勝の気分だったのだ。
その原因は、味見のタイミングミスだったと思う。シブースト・クリームの完成間際に一度味見したところ、すんばらしく美味しかったのだ。なのに完成した後にレシピの「お好みでシブーストクリームにカルヴァドス酒やブランデーを入れてもおいしく仕上がります。」の一行を見て、あろうことかカルヴァドス酒でもブランデーでもなく、ライチリキュールを入れた。そして、入れた後に味見をしなかった。これじゃん。いくらライチの風味が好きだからって、チョコレートにライチリキュールを少量入れて固めると絶品チョコになることを知っていたとしたって、レシピにないライチリキュールを急に入れてしまうのはどうなんだい。
てかちょっと待って、
また軽率にレシピアレンジしてるじゃん!
軽率なアレンジの結果がぬりかべアップルパイだよ。覚えてるかい私。
天から「もうそろそろ学ぼうか・・・」という声が聞こえてきそうだ。
まずは基本に忠実になろう?
ちなみに、この他にもちょいちょいアレンジして失敗の道を辿ったので、これからシブーストを作られる方は特にご一読いただきたい
・リンゴを焦がし砂糖と絡めるはずが、温まった砂糖水と絡めてしまった
→これによりカラメル風味が足りず、美味しいけど惜しい味となった。
・シブーストクリームを完成させた後でライチリキュールを入れてしまった
→リキュールを入れるタイミングも入れる種類も間違えている。
・ガスバーナーの代わりにトースターで表面を焦がした
→シブーストクリームが一瞬溶けてしまい、食感が微妙に変わってしまった。カラメル風味が出るわけもなく、こちらもまた美味しいけど惜しい味となった。
これはあれだ、惜しいシブースト、略して「惜シブースト」と名付けて教訓にしよう。
たったの一回で理想まで到達できるという過剰な期待は、ほろ苦さを生む。
そんな感じでクールに締めくくる予定だったのにな・・・。
おまけとして、こちらを明日か明後日位に書きます。
・手作り「惜シブースト」を食べた時の脳内会議
・もの珍しい方へ贈る〜惜しいシブーストのレシピ〜