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番外編 駄作 "東京"

夜。東京の夜は明るい。
曇った街灯がチカチカと点滅し、動物や植物たちは微動だにしない田舎から出てきた私にとって、明るい夜の東京はとても刺激的かつ閑散としている。
あべこべな街だが、何方かと言えば落ち着かない。

ーー眠らぬ街東京ーー

誰がそんな言葉考えたのか。
全くその通りじゃねぇか
と道端に置いてある缶を蹴った

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デザイナーズマンションなるものの4階に住んでいる"彼女"の家の玄関の前で一人、ビルの赤いライトが空に向けて放たれ、田舎じゃありえない"夜の雲"が見える明るい夜の街を見つめながら、片手に煙草を、もう一方には慣れないウィスキーを持ち、ある事を考えていた。"彼女"は部屋でスマホをいじっている。煙草は外で吸ってと言われて外に出たのはいいがちょっぴり寂しい。

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"彼女"とは中学時代に、私の友達の彼女として知った。この頃はまだ話たことはなかったが、SNSで流れてくる"彼女"たちの写真は、他人や友達から見ても幸せな日々を送っていると分かるくらいに幸せそうだった。こんな恋愛をしたい。そう思い始めたのはこの頃だったと思う。今までつきあってた人とは違う、大人な考えをもつ"彼女"と私とでは、全く性格も異なる。しかし、どことなくこの人とは絶対上手くいくと思う。と若かりし私でさえ心の中で思っていた。

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"彼女"には散歩に行くと伝え、酔いを覚ましにでかけた。
慣れない東京の夜を歩く。チラホラと明かりの灯るアパートの部屋を見渡しながら、まだ薄ら覚えな道をただ1人で。
色々な発見がある慣れない街は、偉大な探検家にでもなったような気分にさせてくれた。オジサンと若い人。酔っ払いとシラフ。田舎にはない光景。
部屋で暇しているであろう"彼女"も連れてくればよかったな。
カラオケ店から出てきたカップルを見てそう思った。

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高校に入ってからは、軟式と硬式で種類は違うものの同じテニス部に入り、少なからず関わることがある境遇になった。右頬から垂れた汗を拭い、黄色の硬いボールを勢いよく飛ばす隣のコートの"彼女"に見とれていた事も多々あった。
その"彼女"は中学時代と付き合っていた人とは違う人とまた、微笑ましく、幸せそうな日々を送っていた。
それを私は羨ましいそうに見ていたらしい。友達から
「顔に羨ましいって書いてあるぞ。」
と言われて、うるせっとそいつの肩を小突いたのを覚えている。
高校2年になると同じクラスになり、密接に関わることも多くなった。新クラスの名簿に載る"彼女"と私の名前を見て、学校の玄関の前でよしっとガッツポーズをしたのは秘密だ。
"彼女"には彼氏がいたものの、連絡は毎日していた。もしかしたら彼氏とでさえ毎日連絡してないんじゃないか。特別なんじゃないかと勝手に思い、ニヤニヤしていた。文化祭は2人で回って写真を撮りまくった。彼氏とも仲良かった私はあいつには悪いなと思いながらめちゃくちゃ楽しんでた。最高だった。
高校3年生。奇跡的にもまた同じクラスだった私と"彼女"。しかも左斜め前の席。またガッツポーズをしてハッとなり周りを見渡すと、
「何やってんだお前」
とまた同じ友達に笑われた。焦った私は、腕の筋肉を…と必死に言い訳をしたが、隣にいたやつはニヤッと笑ってこっちを見た。ムカついたが、見守ってくれてるだけありがたかった。
高校も終わりに近づき、長く続いた彼と"彼女"の関係も終っていた。彼の事が忘れられないという"彼女"の悩み事を聞くこともあった。いや、もしかしたら自分から聞いていたのかもしれない。その悩み事を聞いていた時の私の心情はもう覚えていないが、顔に羨ましいって書いてあったんだと思う。

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夜のネオン街を、きらびやかに着飾った女の人、スーツを着てピシッとキメている男の人とスレ違いながら歩く。本当に今は夜なのか不安になり空を見上げると、明るい空が顔を覗かせている。ようなきがした。ある人は道の端で嘔吐し、ある人は喧嘩をし、ある人はこの夜を楽しんでいるようだった。
田舎とネオン街。相対している2つは、私と"彼女"を比喩しているような気がした。さて。部屋に戻ろう。そう思っても足が進んでいなかった。

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部屋の前に戻ってきたのと同時に、"彼女"が電話をしている声が聞こえた。ワントーン高くなった"彼女"の声を聞いて、相手は男だろうと推測した。
一瞬部屋の中に入り、アルコールとタバコを持ち外に出た。
慣れないウィスキーの"オレンジジュース"割りを口に運び、"彼女"は私にとって特別な人なのだろうか。さっき電話をしていた男とはどういった関係なのだろうか。私と"彼女"は付き合う事が出来るのだろうか。
東京の夜は本当に明るいのだろうか。
そう考えていると、後ろの玄関から"彼女"が顔を出した。
「まだ来ないの?」
もういくよ。そう言った私は咥えていたタバコを消し部屋に戻った。

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いち早く進路が決まってしまった私にとって、残りの学生生活は監獄に閉じ込められた囚人のような気分だった。幸せそうな彼と"彼女"の関係は、結局"彼女"の一方的な愛へ変わっていた。
彼の方はそういう奴なのだ。私は知っていた。

夜。田舎の夜。と言っても7時や8時くらいだがあたりは真っ暗で、車が1台通ればいいくらいの夜。たまたま帰る方向が一緒だった"彼女"と2人で帰る静かな田舎の夜。私にとって特別で貴重な夜。"彼女"にとってなんて事のない夜。ずっと2人でいれればいいのに。ボソッと口に出した。
運良く"彼女"には聞こえていなかったらしく、
「ん?」
と聞き返しながら振り向いた"彼女"と目が合い、笑いながら答えた。
ううん。何でもない。
何事も無かったかのように二人で歩く。季節は冬。寒いねとマフラーに包まれながら微笑む顔。
手、繋ぐ?
そんなことは言えない。友達なのだから。

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普段は夜更かしできない2人だが、眠らない街東京に出てきたせいか、私と"彼女"も目がギンギンだ。
お腹が減ったと言う料理のあまり上手ではない"彼女"に料理を振舞ってあげた。美味しいと微笑みながら食べてくれた"彼女"を見て、よかったと私も微笑んだ。

ご飯を食べてしばらくしてからようやく眠気がきた。時計の針はピッタリ12時を指していた。
部屋で2人きり。ましてや同じベッドで2人。この状況を"彼女"はどう思ってるのだろうか。まだ何も思っていないだろうか。何だかもうわからない。女心ってなんだ?

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受験シーズンが終わりを迎え、色々な進路に向かう春。東京の明るい夜に触れる春。運良く"彼女"とは近い所に住み、田舎にいた時より同じ空を見れるようになった春。初めて"彼女"と宅飲みした春。私にとって忘れられない春。"彼女"にとってどうってこともない春。私が好きな事はきづいているだろうか。

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私はまた煙草を吸いに部屋の外へ出た。相変わらずの空の明るさ。落ち着かない夜だったはずだったが、この都会の明るさに慣れてきたのか、とてもロマンチックに感じるようになっていた。デザイナーズマンションの下で騒いでる大学生のグループのような人がいる。どうせ薄っぺらい生活を送ってるんだろうと鼻で笑ったが、果たして自分はどうであろうか。ネオン街のようなきらびやかな人生を送っているのだろうか。残念ながらそうではない。

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高校卒業して初めての冬。"彼女"とは未だに飲みに行ったりする。今日も4人だけど"彼女"の家だ。
最近気づいたのは、"彼女"は誰にでもそういった態度をとることだ。そういった態度って?それはー。思わせぶりな態度とでもいうか、要するに誰でも二人で泊まったりする。ということだ。俺だけ特別な訳じゃなかったことは悲しい。けれど、これも都会の魔法か。その程度。その程度だ。

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