メルマガ『東医宝鑑(東醫寶鑑)とういほうかん―古典から東洋医学を学ぶ―』第168号「陽煉秋石法」─「虚労」章の通し読み ─ 番外号

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  第168号

    ○ 「陽煉秋石法」
      ─「虚労」章の通し読み ─ 番外号

           ◆ 原文
      ◆ 断句
      ◆ 読み下し
      ◆ 現代語訳
      ◆ 解説 
      ◆ 編集後記

           

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 こんにちは。前号の「陽煉秋石丹」の具体的な製法解説「陽煉秋石法」です。文章が長いですが一気に読んでしまいます。


 ◆原文◆(原本の文字組みのままを再現・ただし原本は縦組み
      ・ページ数は底本の影印本のページ数)

 (「陽煉秋石法」 p600 上段・雜病篇 雜方)


 陽煉秋石法

      人尿多聚置盆中入〓角汁少許以殺(〓上白・下七)
      其穢攪百餘遭直候小便澄淸白濁皆
  碇辟去清水只取濁脚又入水攪百餘匝更澄清
  去水取濁更以布濾去滓取濃汁入淨鍋内熬乾
  刮下擣篩再入鍋以清水煮令化乃於箕〓内布(〓 たけかんむり肖)
  厚紙兩重傾汁于其上淋過去水再入鍋熬乾又
  用湯煮化布紙淋汁如色未潔白更準下淋候色
  如霜雪即止因入固濟砂盒内歇口火煆成汁傾(〓火・假の右)
  出候瑩白玉色即止細研入砂盒内固濟頂火四
  兩養七晝夜久養火尤善謂之陽煉秋石治諸般
  冷疾久年虚損服之皆愈○煉秋石謂之取龍虎
  水法龍屬木虎屬金即童男童女之稱擇年方十
  三四十五六無疾病未破陰陽者各置淨室精潔
  飮食用磁缸收貯小便積至一二石煉用但功力
  甚大故只取無病人小
  便積多亦可煉用入門

    
 ▼断句▼(原文に句読点を挿入、改行は任意)


 陽煉秋石法

  人尿、多聚置盆中、入〓(上白・下七)角汁少許、

  以殺其穢、攪百餘遭、直候小便澄清、白濁皆碇、

  辟去清水、只取濁脚、又入水攪百餘匝、

  更澄清去水取濁、更以布濾去滓、取濃汁入淨鍋内熬乾、

  刮下擣篩、再入鍋、以清水煮令化、

  乃於箕〓(たけかんむり肖)内布厚紙兩重、
 
  傾汁于其上、淋過去水、再入鍋熬乾。

  又用湯煮化、布紙淋汁、如色未潔白、更準下淋、

  候色如霜雪即止、因入固濟砂盒内、歇口火〓(火・假の右)、成汁傾出、

  候瑩白玉色即止。細研、入砂盒内固濟、頂火四兩、

  養七晝夜、久養火尤善、謂之陽煉秋石。治諸般冷疾、

  久年虚損、服之皆愈。

  煉秋石、謂之取龍虎水法。龍屬木、虎屬金、即童男童女之稱、

  擇年方十三四、十五六、無疾病、未破陰陽者、各置淨室、

  精潔飮食、用磁缸收貯小便、積至一二石、煉用。

  但功力甚大、故只取無病人小便積多、亦可煉用。『入門』
 

 ●語法・語(字)釈●(主要な、または難解な語(字)句の用法・意味)


  遭(ソウ)量詞、一周を数えることば、回数を数えることば


 ▲訓読▲(読み下し)


 陽煉秋石法(ようれんしゅうせきほう)

  人尿(じんにょう)多(おお)く盆中(ぼんちゅう)に

  聚置(あつめお)き、(〓上白・下七)角汁(そうかくじる)

  少(すこ)し許(ばか)りを入(い)れ、

  以(もっ)て其(そ)の穢(わい)を殺(ほろ)ぼし、

  攪(かく)すこと百餘遭(ひゃくよそう)、

  直(じか)に小便澄清(しょうべんちょうせい)、白濁(はくだく)

  皆(みな)碇(てい)するを候(うかが)ひて、

  清水(せいすい)を辟去(へききょ)し、

  只(た)だ濁脚(だくきゃく)を取(と)り、

  又(また)水(みず)を入(い)れ

  攪(かく)すこと百餘匝(ひゃくよそう)、

  更(さら)に澄(すま)し清(きよ)くし

  水(みず)を去(さ)り濁(だく)を取(と)り、

  更(さら)に布(ぬの)を以(もっ)て

  滓(かす)を濾(こ)し去(さ)り、濃(こ)き汁(しる)を取(と)り

  淨(きよ)き鍋(なべ)の内(うち)に

  入(い)れ熬(い)り乾(かわ)かし、

  刮(けず)り下(くだ)し擣(つ)き篩(ふる)い、

  再(ふたた)び鍋(なべ)に入(い)れ、

  清水(せいすい)を以(もっ)て煮(に)て化(か)せしむ、

  乃(すなは)ち箕〓(たけかんむり肖)(きそう)の内(うち)に

  厚紙(あつがみ)兩重(ふたえ)を布(し)き、
 
  汁(しる)を其(そ)の上(うえ)に傾(かたむ)け、

  淋(そそ)ぎ過(すご)し水(みず)を去(さ)り、

  再(ふたた)び鍋(なべ)に入(い)れ熬(い)り乾(かわか)す。

  又(また)湯(ゆ)を用(もち)いて煮(に)て化(か)し、

  紙(かみ)を布(し)き汁(しる)を淋(そそ)ぎ、

  如(も)し色(いろ)未(いま)だ潔白(けっぱく)ならざれば、

  更(さら)に準(はか)り下(くだ)し淋(そそ)ぎ、

  色(いろ)霜雪(そうせつ)の如(ごと)くなるを(うかが)ひ

  即(すなは)ち止(や)む、因(かさね)て固濟(こせい)し

  砂盒(さごう)の内(うち)に入(い)れ、

  口(くち)を歇(つく)し火(ひ)にて〓(火・假の右)(や)き、

  汁(しる)を成(な)せば出(いだ)し傾(かたむ)け、

  瑩白玉色(えいはくぎょくしょく)を候(うかが)ひて

  即(すなは)ち止(や)む。細(こま)かに研(と)ぎ、

  砂盒内(さごうない)に入(い)れ固濟(こせい)し、

  頂火(ちょうか)にて四兩(しりょう)、

  養(やしな)ふこと七晝夜(ななちゅうや)、

  久(ひさ)しく火(ひ)に養(やしな)ひて尤(もっと)も善(よ)し、

  これを陽煉秋石(ようれんしゅうせき)と謂(い)ふ。

  諸般(しょはん)の冷疾(れいしつ)を治(ち)し、

  久年(きゅうねん)の虚損(きょそん)に、

  これを服(ふく)して皆(みな)愈(い)ゆ。

  煉秋石(れんしゅうせき)は、これを龍虎水(りゅうこすい)を

  取(と)る法(ほう)と謂(い)ふ。

  龍(りゅう)は木(き)に屬(ぞく)し、

  虎(とら)は金(きん)に屬(そく)す、

  即(すなは)ち童男童女(どうなんどうにょ)の稱(しょう)、

  年(とし)方(まさ)に十三四(じゅうさんし)、十五六(じゅうごろく)、

  疾病(しっぺい)無(な)く、未(いま)だ陰陽(いんよう)を

  破(やぶ)らざる者(もの)を擇(えら)びて、

  各(おのおの)淨室(じょうしつ)に置(お)き、

  飮食(いんしょく)を精潔(せいけつ)にし、

  磁缸(じこう)を用(もち)ひて小便(しょうべん)を

  收(おさ)め貯(た)め、一二石(いちにこく)を積(つ)み至(いたら)ば、

  煉用(れんよう)す。

  但(ただ)功力(こうりょく)甚(はなは)だ大(だい)なり、

  故(ゆへ)に只(た)だ無病(むびょう)の人(ひと)

  小便を取(と)りて多(おお)く積(つ)み、

  亦(また)煉用(れんよう)すべし。『入門(にゅうもん)』


 ■現代語訳■


 陽煉秋石法(ようれんしゅうせきほう)

  人尿を大きな器に集め置き、(〓上白・下七)角汁を少量入れて汚れを清め、

  百余回かき混ぜる。小便の白濁が全て沈殿するのを待ち、

  上澄みを捨て、濁った部分を残す。再び水を入れ、百余周かき混ぜ、

  また沈殿させ上澄みを捨て濁りを残し、布で滓を濾し、

  濃い汁を取って清浄な鍋に入れ、火にかけて乾燥させ、

  削り取って搗いた上で篩にかけ、さらに再び鍋に入れて

  清水で煮て溶かす。

  紙を敷いて汁を注ぎ、色が潔白でなければ、同じ作業を繰り返し

  霜雪のような色になったら止める。砂盒に入れて蓋を塗り固め、

  口を塞いで火にかけて焼く。汁が出てきたら取り出して流し、
 
  瑩白玉の色になるまで繰り返す。細かく粉末にし、

  さらに砂盒に入れて口を塞ぎ、4両を7昼夜の間煮詰める。

  煮る時間は長ければ長いほどよい。

  これを陽煉秋石と呼び、諸般の冷疾を治し、長年の虚損に、

  これを服用すれば全て治癒する。

  煉秋石は龍虎水を取る法と呼ぶが、龍は木に属し、

  虎は金に属し、まさに童男童女がこれに当たる。

  年齢が13、4、また15、6で、無病で童貞の者を選び、

  清浄な部屋に置き、清潔な食事を摂らせながら、

  磁器に小便を溜めて、1、2石溜まったら上記作業に用いる。

  ただ、薬効が非常に高いゆえに、童男童女ではなく

  無病の人の小便を用いることも可能である。

 
 ★解説★
 
 腎虚薬の処方「陽煉秋石丹」の作り方解説です。以前に読んだ「陰煉秋石法」が記載されている、「雜病篇」の「雜方」の章に「陰煉秋石法」の次に収録されています。

 文章の長さで「陰煉秋石法」を凌駕し、作業が非常に細かく手の込んだものになっています。

 本文が長いですが、一気に読んでしまいました。「陰煉秋石丹(法)」との比較などしたく、またこの項だけでも様々な読みどころがあるのですが、読解だけで長文になりましたため割愛させていただきたいと思います。

 また先行訳はいつもながらいくつも問題点がありますが、これも読者さまのご自身のご検討にお任せして、今回は本文に語ってもらうことにいたします。

 さらに先には「陰陽煉秋石法」というのが登場しますので、機会があればその時にこの「陰煉秋石丹」「陽煉秋石丹」の比較をしてみたいと思います。

 ◆ 編集後記

 「陽煉秋石法」です。文章が長く、二つにわけるか悩みましたが、一気に読んでしまうことにいたしました。

 古典を読み、また古人の書いたもの、遺した物事に接していると、なぜこのようなことができたのか、その根気の良さ、物事を突き詰める執念に感歎することが多いです。

 今号の「陽煉秋石法」も、その方法もそうですし、この文章も非常に懇切丁寧で、どのような精神からこのような物事が生み出されるのか、自身に引き比べると自身の軽薄さや根気のなさに恥ずかしくなるような気がします。

 今号ではその先人の根気の感じを少しでも出したく、また自身への叱咤も兼ねて、二号に分けずに一気に読むことにしました。

 古典に接することは内容を学ぶとともに、その精神を学ぶことへも比重が大きいと思い、私などはこのような文章に接すると、先人の根気の良さに襟を正したくなるような、自身を見つめ直すきっかけとなる良い影響をいただける気がします。
                    (2016.05.14.第168号)
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