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狐塚冬里
2015年6月15日 05:47
朝早く目覚めて、窓を開けると涼やかな風が頬を撫でた。六月でも朝はまだ涼しく、心地よい。朝日をもう少し浴びようと外の景色を眺めていて、ある一点で目がとまる。そこにあるのはもちろんいつもと変わらない景色のはずだった。けれどぽつん、と胸の中に何かが落ちる。『実は、引っ越すことになったんですよ』穏やかな顔で笑う初老の男性。つい昨日まで、我が家のご近所に住んでいた人だ。私の家から、その人の家は
2015年6月11日 13:10
「追いかけてくるんです。今もほら、聞こえませんか?」そう言う彼女の声があまりにも真剣で、何も聞こえなかったけれど笑い飛ばせず耳を澄ますふりをした。私のそうした態度はあまり上手いものではなかったと思うのに、彼女はその色素の薄い瞳を期待にきらめかせている。二重のくっきりした瞳は全体的に存在感の薄い彼女の中で、そこだけ強く存在を主張していた。(どうにも弱ったね……)耳を傾けたところで、私には何も